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第三話 聖剣イーソレイティア

世界で唯一の大陸、アンページ大陸。


かつて、この大陸は幾つかの小国と東西南北を治める四つの大国に分かれていた。


ある時、西方を治めるウェストベリア国と、北方を治めるノーザレム国との間にいざこざが起こり、やがて戦争へと発展して行った。


その戦争に南方を治めるデルスリア国と東方を治めるシノノメ国が参戦し、大陸最大の戦争、後にアンページ大陸統一大戦と呼ばれる戦争に発展していく。


大戦が起こり約30年後、神代の英雄が神から授かったという神器、聖剣イーソレイティアを手にした青年とその仲間たちの活躍により戦争が終結する。


やがて、聖剣の担い手であった青年が四大国をまとめ上げ現在のアイノウン統一国を建国し初代国王となり、それから55年経つ現在も統治を続けている。


そんな生ける伝説の振るった剣が今自分の目の前に、しかも空から落ちてきたことに対してユーサは酷く困惑していた。


「な、な、何でこんな物が空から降ってくるんだよ…央都で次の担い手に引き継がれたはずじゃ…」


ユーサは困惑する頭をどうにか切り替える。


―何にしてもこのままにしておくわけにはいかない、とりあえず村長のところに持っていくか。―


そう考え聖剣に近付きその柄に手をかける。


聖剣を引き抜く行為に、まるで物語の英雄の様だと思い、緊張でその手に汗がにじむ。


―大丈夫、ただ村長のところに届けるだけ…―


そう自分を諭し、聖剣を握る手にグッと力を込める。


高所から落下してきたせいか、地面に深々と突き刺さっており、左右にグリグリと揺らして緩くくる。


選ばれし勇者でないと引き抜けない、といったことはなく聖剣はスッと地面から抜ける。


引き抜いた聖剣を天に掲げてユーサは思わず、


「おぉ…」


と感嘆の声を漏らした。


地面に刺さっていた間は煌々と輝いていた聖剣の光は、引き抜くと同時に徐々に薄れていった。


―本当に俺に見つけて欲しかったのか?いや、聖剣とはいえただの物だ、そんな事あるわけがないか…―


浮かんだ疑問を振り払い、剣が有るなら鞘も有るかと周囲を見渡す。


聖剣の光も消え、月明かりも雲に覆われた中では、近くを探すのも難しくユーサは仕方なく魔法で火の玉を灯す。


ボウッという音と共に小さな火の玉が生まれ、周囲をか弱いながらも照した。


少し歩いたところで鞘を発見し駆け寄ろうとした、その時。


「おい!そこの人間。」


突然何処からともなく若い男の声がした。


ユーサは慌てて周りを見回すも人の気配が無い。


キョロキョロと周りを見回すユーサに再び声が聞こえてくる。


「ハッ、何キョロキョロしてやがる、こっちだ、上を見やがれ。」


ユーサはその声に従い、上を見上げるも暗すぎて何も見えなかった。


しかし、見上げてすぐ、まるでタイミングを見計らったかのように雲が割れ、隙間から月明かりが差し込む。


月明かりに照らされ、ユーサはようやくその声の主の姿をハッキリと視認した。


姿形は人間のそれとほぼ変わらない、しかし決定的な違いがあった。


全身の肌は青黒く、背中にはコウモリのような一対の翼があり、頭には二本の角を生やしていた。


その姿を見てユーサは再び驚愕する。


「あ、あ、あ、あ」


驚きのあまりまともに声を出せなくなったが、どうにか「それ」の名前を喉から絞り出す。


「悪魔…」


驚きで動けないユーサの様子を気にもとめず悪魔は言葉を続ける。


「てめェが持ってるその剣のさっさとこっちに渡せ。」


「…は?」


その言葉にユーサはまるで意味が分からず間抜けな声を発する。


「は?、じゃねェよ、死にたくなけりゃその剣をとっとと渡せつってんだ。」


苛立ちを隠さない悪魔からの再びのその要求に、ユーサも思考能力を取り戻し状況を整理する。


―聖剣が空から降ってきたと思ったら、悪魔が現れてそれを渡せと言っている…駄目だ―


「意味がわからない。」


思ったことをつい口に出してしまい、しまったと思いユーサは口をつむぐ。


しかしそれは既に遅く、ユーサの言葉に悪魔は既に怒髪天を衝く様相だった。


「あ゛ぁ゛隊長は人間を殺すなってたが、めんどくせェ!殺してッ!!奪いッ取るッ!!」


そう言い放った悪魔は次の瞬間、腰に下げていた剣をジャキンと引き抜き、翼をブンッと一度震わせユーサを目掛けて急降下してきた。


ユーサはすかさず、左手の炎を消し、聖剣を両手で掲げ防御態勢を取る。


「うざッてェ!!!」


悪魔の振り下ろした剣とユーサの持つ聖剣がガキィンと激しくぶつかり火花を散らす。


ユーサの腕に今までに感じたことのない衝撃と重みがのしかかり、押し潰されるかと思ったが、何とか膝をつかずに持ち堪えた。


「チッ」


と悪魔が舌打ちをし後方へと飛び退く。


―いきなり何なんだこいつは。何が何だか訳が分からない、でもハッキリと分かるのはこいつ、俺を殺しに来てる。それに人間の神器を悪魔に渡しちゃ駄目だ。―


ユーサは先程の一撃で痺れた手を見る。


―真剣での戦闘も、殺しに来る相手との戦闘も初めてじゃない、一撃は防げた。落ち着け俺…何とか隙を作って一気に村に逃げるぞ―


と自身を鼓舞し、逃げる算段を立てる。


雲が晴れたおかげで悪魔の様子をハッキリと捉えることができ、ユーサは悪魔の動きを注視する。


悪魔は再び翼を大きく振るわせ、脚力と翼の推進力を合わせた凄まじい速度でユーサに接近してくる。


一度見たその翼の動きに反応して、ユーサは咄嗟に左へ飛び退くも、悪魔の放つ水平斬りが僅かに右脇腹を掠た。


ユーサの服は斬り裂かれ、右脇腹に小さいが確かな痛みが走る。


「ッ!」


―速度を見誤ったでも、浅い傷は気にするな、油断したら死ぬぞ―


脇腹の痛みと、染み出す血から無理やり意識を引き剥がし、悪魔に意識を集中させる。


斬り払った姿勢で背を向け硬直していた悪魔振り向きユーサを見据える。


しかし、その顔は先ほどの烈火が如き怒りの表情とは打って変わってスンッと静かな顔をしていた。


「まさか今のを避けられるとはなァ。」


冷静さを取り戻したのか、静かな口調で悪魔がそう語りかけてくる。


「ちょっとは掠ったがな。」


一刻も早く逃げ出したい気持ちを抑え、今は背を向けてはいけないとユーサは虚勢をはる。


「驚いたぜ、央都とやらの兵士でもなく、噂に聞く最強の剣士様でもなく、まさかこんな辺境のガキがここまでもつとはなァ。」


「ハッ、お褒めに預かり光栄だね。」


悪魔は剣を持つ右手をだらりと下げ、天を仰ぎ左手で顔を覆う。


「勿体ねぇなぁ、もう少し待てばもっと面白く成りそうだが…」


と呟き視線をユーサに送る。


「なぁ、お前マジでそれを俺に渡せ、な?そうしたら見逃してやる。じゃなきゃ死ぬぜ?お前。」


そう脅してくる悪魔に対してユーサは剣を構えなおし、


「コレをアンタに渡すつもりも、今ここで死ぬつもりもない。」


と啖呵を切る。


「なら、精々足掻いてみろよ。」


悪魔がユーザに向けて剣を振り下ろす。


ユーサはそれを聖剣で防ぎ、再びガキィンという音とともに火花が飛び散った。


「そらッそらそらそらァッ!!」


ガンッガンガンガンッと悪魔は力任せに剣を叩き付ける。


「クッ!」


剣で叩き付けてくるばかりでは無く、時折、防御が空いている左右からの攻撃も交えてくる。


ユーサはそれを的確に防御していくも、徐々に額に嫌な汗がにじみ出てくる。


―突っ込むだけの馬鹿かと思ったら案外考えている―


防御に徹しながらも打開策を頭に巡らせる。


―防ぐだけじゃどうにもならない、何とかして攻勢に出ないと―


ユーサが策を練っているうちにも、


「そらよッ!」


と悪魔が大きく振りかぶり重い一撃を叩き込もうとする。


―今ッ!―


ユーサは振りかぶった隙に左に転がりその一撃を避ける。


悪魔の一撃が先程までユーサがいた地面をザグンッと抉り土が跳ね返る。


その隙が好機とユーサはすかさず悪魔に対して聖剣を横に薙ぐ。


しかし、斬り返してきた悪魔の剣とぶつかり三度火花を散らした。


ギギギッと刃が音を鳴らす、力押しでは分が悪いことを既に理解しているユーサはサッと剣を引き、次の攻撃へと移る。


左手を前へ突き出し小さな火の球を生成して、

それを悪魔へ向けて射出した。


そしてそれと同時に右手の剣で斬りつける。


だが、それも簡単に防がれてしまう。


「誘導が露骨なんだよバァーカ」


悪魔はそう嘲笑い、ユーサの剣を弾き返すと直ぐさま剣を振り下ろし斬り付けつる。


何とか身を反らし避けようとするが、皮の胸当てをやすやすと斬り裂きユーサの胸から鮮血が飛び散る。


致命傷は避けたものの鋭い痛みユーサはに顔を歪ませ、


「ぐッ」


と痛みに苦悶の声を漏らすも、まだ致命傷ではないと自分に言い聞かせ、傷から意識を離し悪魔の動きを注視する。


「おらよッ!」


痛みで動きが鈍るユーサに悪魔は追い討ちをかけてきた。


ユーサも必死で攻撃を防ぐも、徐々に対応が追いつかなくなっていく。


「おッらァッ!!」


ガキィンと音を上げ、悪魔の力を込めた斬り上げがユーサの防御を弾き大きな隙を作る。


剣を振り上げた悪魔がそのまま仰け反ったユーサの頭をかち割ろうと剣を振り下ろす。


その瞬間、ユーサの目に悪魔がもう一体いるように見えた。


正確には悪魔の身体から薄く半透明なもう一体の悪魔が出現し、本体?よりも先に剣を振り下ろしてきた。


―幻覚!?フェイント!?とにかくまずい!―


ユーサは剣で防ぐことも左右に避けることも間に合わないと判断し、仰け反った反動を利用してそのまま後ろへ倒れ込む。


しかし、それは間に合わず半透明な悪魔の剣が額に触れそのまま食い込む。


死を覚悟したユーサだったが、何故か半透明な悪魔の剣はユーサに傷をつけることなくスッと通り過ぎた。


次の瞬間には半透明な悪魔の動きをなぞるように、本物?の悪魔が剣を振り下ろすもユーサの鼻先を掠め空を斬る。


―何が、起こった?今確かに切られたはずじゃ…―


先程見た光景に困惑しながらドサッと地面に背中から倒れる。


―何が起こったか分からない、でもまだ生きてる!動ける!!―


一先ず先ほどの光景について考えるのを止め、ユーサは聖剣を抱えたままゴロゴロと横に転がり悪魔から距離を取り立ち上がる。


「まさか、あそこから避けきるとはなァ。敵目の前にして背中から倒れるたァ、クソみてぇな度胸してやがる。」


「そっちこそ妙な幻影を使う。」


ユーサのその言葉を聞いた悪魔は、まるで覚えがないかの様な顔をする。


「幻影?何ださっき頭でも打ったのかお前ェ。」


「手の内は明かさないってか、まぁそうだろうな。」


「なァに意味わかんねェ事ほざいてんだよッ!」


そう言い悪魔は翼をブゥンと一度振るわせ、短い距離を詰めてくる。


またも先程の幻影が現れユーザに迫る。


ユーサは左に飛び避けようとするも間に合わず、幻影の振るった剣はユーサの腹を捉えすり抜けた。


幻影から少し遅れて、悪魔の実体が幻影と全く同じ動きで攻撃を仕掛けてくる。


しかし、それはユーサを捉えることはなく、ヒュンッと空振った。


―また、悪魔には覚えがないというこの幻影…まさかな―


頭の片隅で幻影について考えるユーサだったが、斬り込んだ低い体勢から、振り向き斬り上げてくる幻影を見て、すかさず剣で防御の構えを取った。


幻影が通り過ぎ、直ぐにガキィンと剣に衝撃が伝わってきた。


防御はできてもやはり力では分が悪いとサッと後ろに下がり悪魔の剣から逃れる。


―やっぱり、あの幻影の後に実体が来る。いや、次の動きが幻影として見えている?だったら、いけるかもしれない!―


謎の幻影について一つの答えを出し、ユーサは逆転の可能性を見出した。


反対に悪魔はチッと舌打ちをし、苛立ちが隠しきれないようだった。


「ハッ、随分と苛立ってるみたいじゃないかよ。余裕ぶって殺すだ何だの言ってた割には大したことないんじゃねぇの?」


ユーサは敢えて悪魔を煽り、怒らせようとする。


「ア゛ァ゛?んだとてめェ…調子乗ってんじゃねェぞザコがァァァ!!」


ユーサの挑発にまんまと乗り悪魔は激昂した。


悪魔は剣を振り上げ、そのまま地面をダッと蹴り飛び込みざまにユーサを斬りつけようとする。


しかし、それはユーサの思惑通りで、ユーサの視界には悪魔の動きを先行する幻影が既に見えていた。


悪魔の振り下ろす剣をスッとかわし、今までのお返しと言わんばかりに既に魔導を施した聖剣を悪魔の腹に叩き込んだ。


「がッはッ!」


悪魔の腹が一文字に斬り裂かれ、傷口から血がボトボトと溢れ出す。


ユーサの傷と比べても明らかに重症だ。


「チッ、クソがァァ。」


悪魔は苦しげに呻きつつも悪態を吐く。


「もう良いだろ、命までは取らん。さっさと失せろ。」


そう言いユーサは剣を下ろす。


「カッカッカッ」


だが悪魔は傷口を押さえつつも呻くような笑い声をあげる。


「何がおかしい?」


問いかけるユーサに悪魔は笑みを浮かべながら答える。


「何だァてめェ、もう勝ったつもりでいやがるのか。」


「そんな重症でどうするつもりだよ。」


ユーサは悪魔に問いかけるも、嫌な予感がして剣を構え直す。


「連中に見つかると面倒だからよォ、これは使うなって言われてんだがよォ、まァこいつ逃がすのも面倒くせェしいいか。」


悪魔はそう言うと左手に炎を灯し腹の傷口に当てる。


ジュゥという音とともに肉の焼ける嫌な匂いが漂い、ユーサは顔をしかめる。


「ア゛ア゛ア゛ア゛」


苦悶の表情を浮かべ叫び声を上げながら悪魔は傷口を焼き強引に塞いでいく。


―何をするつもりかは知らないが、やらせるかよ!―


悪魔が何かをする前にもう一撃食らわせようとユーサはダッと駆け出した。


「ハァ…ハァ…そんじゃ見せてやるよ、俺の本気ってやつをよォ。」


悪魔はそう言うと全身に力を込め


「オォォォォ」


と声をあげる。


悪魔の全身から魔力が迸り、魔力の流動がハッキリと目で見て取れる。


「させるかァ!!」


再び聖剣に魔導を施し、悪魔に斬りかかる。


しかし悪魔が気合とともに放出した魔力にユーサは吹き飛ばされる。


空中で姿勢を制御し両足から地面にズザザァと着地する。


顔を上げ悪魔の方を見ると、先程までとは比べ物にならない魔力を纏いユーサを見据えていた。


「なん…だ…あれ…」


その驚異的なまでの魔力にユーサは絶句し動けなくなる。


「さァて、続きをするか。」


先程よりも冷静になった悪魔がそう呟く。


悪魔は背中の翼をゆっくりと持ち上げ、ユーサの目には捉えきれない速度でブンッと振るう。


その瞬間にまたも幻影が見え、ユーサは剣を構えて防御をする。


しかし、力を解放した悪魔の一撃に耐えきれず、ユーサはまたも後ろへ勢いよく飛ばされる。


今度は姿勢を制御する余裕もなく、背中から地面に衝突する。


衝突の際に聖剣を手放してしまい、ユーサは勢いのままに転がっていく。


回転が止まり、仰向けに倒れるユーサの目の前に悪魔が一瞬で現れた。


「最初っからこうしておけば良かったぜ。」


静かにそう呟き、剣を逆手に持ってユーサの胸に当てる。


「お前も頑張ったほうだとは思うぜ。ま、ちったァ愉しめたわ、あばよ。」


そう言い悪魔がユーサの胸に剣を突き刺そうとした、その瞬間。


ピュンッという高い音とともに何処からともなく飛来した光が悪魔の翼を貫いた。

どうも闇鶴 彗です!


第三話をお読みいただきありがとうございます。


第三話を書き上げるまで一週間と半分…

自分で書き始めて改めて連載を続けている人の凄さが実感出来ました。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

それでは、また次にお会いするまで。

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