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死者を操る者  作者: 海鼠
2/12

続く日々

当方社会人でありまして、投稿は不定期になります。目標としては週一更新を目指したいと思います。

それでは、話の続きをお楽しみください。

 目が覚めた。

 瞳を刺すような強い光に、まどろんでいた意識が欲望を打ち破って、一気に覚醒へと導かれてしまう。

「太陽のバカヤロー……」

 さながら父親への反抗期の如く、勝てもしない相手への力無い悪態は勿論なんの変化を起こすこともなく、相変わらず強い光が瞳を攻撃してくる。

「起きる……、起きますよ……」

 誰に促されるでもなく、強いていうなら太陽という父に促され、渋々ながらベッドから身を起こす。

 小鳥の囀りが響く静かな朝は、早速私に疑問を抱かせた。

「あれ、なんで私こんなところで寝てるんだっけ……」

 ここは間違いなく自分の部屋(寮だけど)で、このベッドも着ている寝間着も、間違いなく私のものだ。

「ん〜〜」

 半覚醒状態では思うように思考が回らず、ぼやけたような風景は求める場面を思い浮かばせない。

 昨日は学校が終わって寮に戻ったけど、忘れ物をしてわざわざ学校まで戻ったのは覚えてる。

 でもそこから先が思い出せない。まるでぽっかり穴が空いたように、浮かぶのは闇ばかり。自分はボケてしまったのかと本気で不安になった。

 己を把握できないなど、魔術師としては失格だ。先生に知られたら怒られる。

 学校のじゃなく、個人的に師事してもらっている、超がつくほど変わり種の人。

 歩く自然災害、人の形をした災厄、最凶の魔術師等など、沢山の称号を持つ変人。

 この事は秘密にしておこう。

 無駄な抵抗だと知りつつも、私自身が不覚を忘れようと努めるのだった。





 メレトン魔術学校は、その名の通り魔術師を育成するための学校だ。

 取り分け、いくつかある学科のうち花形と言われるのは主に軍との関わりが深い軍属科と、新たなる魔術理論の構築を目的とする研究科の二つ。

 私はその研究科に在籍している。

 未だ究極に至っていない魔術において、更なる発見は皆が望むもの。そのため魔術研究者は、様々な機関が喉から手が出る程に欲していた。そんな人材を育てるべく、拷問とも言える膨大な量の魔術知識を植え付ける科、それが研究科なのだ。

 いわば、将来を約束されたエリート。人生の勝ち組。

 なのだけれど……、そこに至る道が果てしなく過酷。さながら、茨の道に塩と氷と焼けた石畳が順に並んでいるようなもの。

 連綿と続いた魔術の知識は、日々追うごとに増えていく。

 『手に入れた知識は決して零さず、しかし新たなる知識は必ず呑み干せ』

 それが、研究科に属して一番に教えられる言葉だった。

 だから毎日が全力投球。残念な事に私は決して優秀というわけではない。そりゃ、並の人間とは比べものにならないけれど、世の中化け物って言葉が存在するように、まさにその化け物も存在するのだ。そのような方々からすれば、日々悪戦苦闘する私なんぞ、さぞ滑稽に映ることだろう。

「あぁ、疲れた……」

 今は夕刻。本日の学業は全て消費し、学生にとっては自由時間となる時間帯。しかし私は勤労学生。一日はまだ終わっていないのだ。




 私の家は裕福ではない。学費はこれまでに貯めた貯金を切り崩して支払って貰っているが、生活費に関しては自力でなんとかしなければならなかった。

「おはようございます」

 空元気でそう力を込めて挨拶しながら、人気の少ない路地裏にある、古ぼけた骨董品屋の扉を開ける。相変わらず明かりの少ない薄暗い室内は、雑多に物が転がって、ある種の不気味な空間が出来上がっていた。

 この怪しく胡散臭い骨董品屋が、実は私のアルバイト先だったりする。給与はお世辞をふんだんに織り交ぜようとも決して高くないのだが、学業との兼ね合いの上では私にとってこれとない程優良であったからこそ、この仕事を選んだ。

 店内には誰もおらず、カウンターは無人。カーテンで仕切られた通路から奥へ入ると、ソファーに身を沈めながら煙草を吹かす美女がいた。

「またサボってますね先生」

 この人が私が個人的に師事して貰っている人。性格は別にして、魔術に関しては特出した力の持ち主だ。「いくらお客さんがこないからといって、お店を無人にしちゃ駄目だって言ってるじゃないですか。価値なんてあるのか怪しいものばかりですけど、一応商品なんですし」

 そこまで言って違和感を感じた。いつもなら私の説教を遮る形で悪態をつく先生が、今日はなぜだか静か過ぎる。

「先生?」

 ふと視線を向けると、私の体がびくりと震えた。

 鋭い眼光が、こちらを射竦める。

「あんた、誰だい?」

 敵意すら篭る強い視線。いつもの、私を見る暖かさを含んだものとは、まるで違っていた。

 突然の変化に戸惑いながらも、私は浮かんだ疑問を真っ先に口にする。

「先生もしかして……、ボケたんですか?」

 途端、私の頭が先生の右手によって鷲掴みにされた。

「い、いだだだだだ!」

「いい度胸だなマリー。そんなに私にお仕置きされたいか?」

 ギリギリミシミシと、骨を伝わって嫌な音が響く。

 な、中身が……、中身が出ちゃう!

「だ、だって先生が突然変な事言い出すからじゃないですか!」

「それを即座に歳に結び付けたあたり、あんたの本音が窺えるよ」

 や、だってねぇ……。

 この人、妙齢の女性に見えるが、実は御歳三桁に達する、さながら生きる骨董品。多分店の商品よりも長生きしているはず。

「あんたまた失礼な事考えてるだろう」

「めめ滅相もないっ!」

 これ以上力を込められると本当に何かがはみ出してきそう。

 この人に年齢の話は禁句なのだ。

 いかにしてこの手から逃れようかと思考を巡らせていると、先生がため息を零しながら手を離した。

「あんたはマリーだよ。この私にそんな態度で接してくる馬鹿はあんたしかいない」

 なんだろう。けなされてるんだろうか。というか、私だってわからなかったなんてやっぱりボケて……?

「あ?」

「いぃえぇ! なんでもございませんとも!」

 危ない危ない。また地獄を見るところだった。

「で?」

「はい?」

「いつもながら鈍い子だねぇ。ここに何しに来たのかって聞いてんだよ」

「は……? アルバイトしにきたに決まってるじゃないですか」

 こんな胡散臭い店に買い物しにこようなんて酔狂な趣味はない。

 先生は敵意はなくなったものの、変わらず鋭い眼光を見せる。しばらくして、またため息を零した。

「やれやれ、自覚なしか」

 そして何かブツブツと呟きながら、物思いに耽っていった。

 その様子を見ながら、本当にボケがきたんじゃないかと心の底から心配になるのだった。

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