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06.『聖女』さまのオマケ

 細々とした調整の結果、『聖女ユイ』の話し相手という仕事を王城側は受け入れた。灯花の待遇についてエドガルドは役人を相手に粘り強く交渉し、好待遇を勝ち取ってくれた。


「トウカ様……お身体にお気をつけて」

「ラナ、たくさんありがとう」

「トウカ、恩返しとかは考えなくていい。些細なことでも困ったらこちらを頼れ」

「はい、エドガルド様もありがとうございます」


 灯花が辺境伯家から離れることに難色を示した彼らを説得するために、彼女は考えていることをすべて話した。恩返しだとか考えなくていいとエドガルドには何度も言われたが、彼女の意志が固いことを知った彼らは渋々折れた。


 灯花はラナと涙の別れをし、王城の一室へと引っ越してきた。


 ◇


(見込み、甘すぎたかなあ……)


 涙の別れから三ヶ月後、灯花は王城にある使用人向けの図書室で簡素な冊子を開いていた。

 使用人の息抜きを主な目的としたこの図書室は雑多な情報で溢れており、世間勉強のための良い資料となっている。こういう情報はゴシップも多いため注意が必要なのは、どこの世界も同様であるが。


 灯花は今、自分から学ばない『聖女ユイ』のために言葉を覚え、常識を学び、それを日本語を交えて教える役を担っている。

 ユイが提案した話し相手とは言葉通りのものだったようだが、現状を考えると話し相手とは良く言ったものだと灯花は思う。


 引っ越し当初、念のために灯花の奇跡(ギフト)について調査されるも、特に確認することができなかった。

 灯花に『聖女』の力はないとユイが断言するため、識者を交えてそれ以外に何かないかと手当たり次第に試したが収穫はなく、ならばと『聖女ユイ』の補佐の任についた。


『パッと思いつくのはタイムリープだよねぇ。死に戻りとかテッパンだけどさすがに試せないねー』

『あー、うん、取り返しがつかないことはちょっと……』

『あとは超能力とか!?』

『サイコキネシスとかテレパシー……でしたっけ?』

『やだぁ、トウカさんいけるクチ? じゃあ未来視ためそうよ未来視! でも未来視って聖女っぽいからあたし使ってみたぁい! トウカさんは過去視にしようよー』


 ――などと、その現場には実験する本人より楽しそうなユイがいたことは余談である。


 語学については『聖女ユイ』に求められる能力がそもそも高いため、灯花にも良い教師をつけてもらうことができた。きっちりと基本から応用まで学ぶことができるのは、灯花がユイにある意味の感謝をするところである。

 そのうち『聖女ユイ』には宮廷作法も教えたいらしく、灯花には前倒しで教えてくれるのも嬉しい誤算だった。


 どうやら活版印刷のような技術が存在しているらしく、書籍の類がそれなりに安価で流通しているのでこの王都周辺の文化レベルはなかなかに高いのだろう。

 辺境伯領ではどうだったのかと思うも、領の街に出たことがなかったので、そんな見ればわかることすら知らなかった事実に灯花は少し虚しくなる。


「セイジョユイ様は怪我人を癒やして回ってるのに彼女のお慈悲で居るオマケのほうはまたこんなところに……」

「あっちはその力がないんだから、仕方ないんじゃない?」


 気分が落ちている際、すれ違いざまに耳に入るクスクスという笑い声と陰口が胸に突き刺さる。陰口なら本人が確実にいないところでやってほしいと灯花は常々思う。

 灯花だって頑張っているのだ、主にユイがしたがらない地味な部分について。


 それにユイが癒したのは今のところ高位貴族の数人しか知らない灯花は、陰口の元になっている情報についても懐疑的だ。

 癒したといってもただの腰痛だったり、ダンスの際にピンヒールで踏み抜かれた足の甲だったりだった。これは通訳として同行したので灯花ははっきりこの目で見た。

 もちろんどんな怪我でも癒したという事実は称賛されるべきだが、それと比較されて灯花が陰口を叩かれるいわれはない。


 ユイもこの類の陰口をどこかで耳にしたらしいが『しょうがないよぉ、トウカさんは聖女じゃないんだもん』と励ましに見せかけたマウントを取られた。

 この女は人を苛つかせる天才なのかと、この三ヶ月で灯花は何度思ったかわからない。


 そもそも灯花から見たユイは、怪我人を癒して回っている回数より、王子や高位貴族の子息を追い回している回数のほうが多く――



「トウカさん大変です、セイジョユイ様が――――――!」


 灯花の内心愚痴タイムは、衝撃の事実によって強制的に終了した。

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