05.異世界人の特別な力
『……なぁんだ、やっぱり女だったかー! トウカって名前ならワンチャンあると思ったんだけど、決めてきて損したぁ。ユイっていいまぁす、あたし女苦手だから優しくしてねぇー』
『えっ?』
『トウカさんっておいくつですかぁ? あたし十七歳でぇっす』
『えと……二十四です』
『やっぱり、お姉さんって感じするから年上だと思ったぁ!』
『は、はあ……』
厳かな雰囲気を醸し出しながら入室してきたユイの口から飛び出してきたのは、はすっぱと表現しても良いような日本語による言葉の数々。
表情だけはイメージを保とうとしているのか、おっとりとした笑顔のままであり、灯花からすると圧倒されるとともにそのギャップが少し――いや、だいぶ怖い。
『同じ日本人っぽいけど、トウカさんは聖女じゃないのねぇ?』
『あ、はい。その聖女って、なんですか?』
少し真面目な顔になり、ユイが本題のようなものに入る。ついでに気になっていたことを尋ねると、ユイのいう『聖女』とは『人を癒やすことのできる特別な力を持つ女性』のことらしい。
この世界には魔法があるが、RPGのように回復魔法なんてものは存在しなかったので、その能力を持つ存在は確かに特別なのだろう。
さらにユイは元の日本にいた頃からその力を行使できていたらしく、灯花の日本とは別の次元の日本なのだろうという結論に至った。
『へぇ……そんなこともあるんですね』
『本当にびっくりですよねぇ、日本っていっぱいあるんだぁって! だからトウカさんからは聖女の力を感じないけどぉ、きっと何か別の才能がありますよぉ』
『あ、うん。ありがとう……ございます……?』
『もしかしたらぁ、もしかしたらですよ? あたしが世界そのものに召喚される余波にトウカさんも巻き込まれちゃったりー、みたいなことだったりしたら申し訳ないですぅ』
『えぇと、もしそうだったりしても、それはユイさんの所為じゃないので、お気になさらず』
よく理解ができていないが、ユイの怒涛の勢いに灯花は押し流される。漂流人となってから半年ほど、自らの常識を塗り替えられることばかりが起こっているために、一方的に知らなかったことを捲し立てられたとしても、それを疑うということを灯花は躊躇するようになってしまっていた。
「――トウカ、そろそろこちらにもわかるようにしてもらえないか?」
内容がわからないながらも、会話が一区切りついたところを察知し上手く拾ったエドガルドに促される。
なんとユイはこの国の言語に未だ慣れていないため簡単な挨拶くらいしか話せないらしく、すべてを灯花がなんとか説明することになった。
この過程で、ユイは灯花が辺境伯領に出現する半年近く前からこの王都に滞在しており、既に何人もの人間をその『特別な力』で癒やしているらしいことがわかった。
(善行は大事なことだけど、一年もこの国にいるのにその言語習得度で、ユイさん大丈夫なのかな)
他人事ながら、灯花は心配になった。
それとは別に勝手なことも思う。
(そんなにすごい力を持っているなら、辺境伯領でも使ってくれたらいいのに)
灯花が辺境伯領にいたのは短い間で、その大半を勉強に費やしたが、その間でも魔物の討伐で怪我をした兵士たちの話を少しは聞いた。
彼らはこの国のために戦っているのだから、ユイが国の保護の下で癒やしの活動をしているのならその権利はある筈だ。
『そうだ、よかったらトウカさんがあたしの話し相手になってくれませんかぁ? 言葉が通じないってミステリアスで良いと思っていたんですけど、やっぱ大変なことも多くてさぁ』
遠い辺境伯領に思いを馳せていた灯花に、ユイから一つの提案がなされた。
そしてユイに辺境伯領について興味をもたせることができれば、派遣を依頼できるようになるかもしれない可能性に思い当たる。
灯花は辺境伯領に恩返しをしたかったので、その可能性を模索してみることにした。