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40.守護者の凱旋

 奇跡(ギフト)によって治療を施された兵はすぐに意識を取り戻した。麻痺などの後遺症や記憶の混濁などはとりあえず見受けられず、灯花はほっと胸をなでおろす。

 衛生兵に改めて確認すると、この場でポーションの効き目が及ばぬほどの緊急性がある状態なのは彼だけだったようだ。

 馬を繋いできたラナが合流すると、多少冷静になった灯花は外城壁の外側の戦闘音を認識した。


「……タデオ、オスヴァルド様は外に?」

「副団長が指揮をとっているはずなので、外城壁の上におられるかと」

「なるほど……そちらに向かいます」



 領主邸の牧場は領都に魔物が来た時のデコイを兼ねていて、そこの裏手周辺にある外城壁は他の部分よりも分厚く高いものになっている。

 まだざわざわとしている救護場所を後にし、外城壁へ近づくにつれ肌に触れる空気が次第に重く纏わりついてくるようになる。タデオに続いて石の階段を登りきり、視界が一気に開けるとぶわりと強い風を全身に受け、思わずたたらを踏んだ。

 タデオの背の後ろから前を覗き見れば、そこには今にも上空から強襲を仕掛ける寸前のワイバーンと外城壁上で大盾を並べて防御陣形をとるオスヴァルドたち、という光景が広がっていた。


「……させない!」


 灯花は咄嗟にワイバーンの方を球状の光の膜で包む。謎の膜に包まれて急に身動きが取りにくくなったワイバーンは姿勢を改め、飛行姿勢の維持に専念する。これで相手は攻撃が出来ないが、こちらの攻撃も届かない欠点がある。


「――えっ、義姉さん!?」

「お叱りはあとで受けますっ。状況を立て直せますか!?」

「…………やれる。あれをもっと強く拘束できたりする? 出来れば下に落としてほしい」

「や、やってみます」


 オスヴァルドは急に現れた灯花に驚愕しつつも数秒だけ考え込み、作戦を組み立て直して最善策に必要な要素を彼女に確認する。灯花の返答を受け、すぐに外城壁の地上に待機している兵をワイバーンの下あたりから退避させた。


(期待には応えないとだけど……)


 現在灯花はワイバーンに対し、強襲の阻害を目的とした障壁を張っている。これをもっと狭め下に落とし、可能なら拘束を……いや、拘束を強めれば勝手に落ちる、とまで一気に思考する。

 イメージは蜘蛛の巣か投網か。今のように面ではなく、魔力操作の訓練で行ったように線を操って胴に巻きつけていく。異常に気づいたワイバーンが咆哮を上げて抵抗しだすと、思うように光る網を操れなくなってくる。


「……うっ!」

「トウカ様……!」


 強い抵抗が魔力伝いに灯花まで届き、ふらつくと後ろでラナが支えた。集中が薄れると障壁も薄れてしまい、ワイバーンが再び自由になりかけてしまう。

 魔力の圧を乗せた咆哮が頭に響き、再びぐらりときたがそれを許してはいけないと灯花は腹と足に力を入れて踏ん張った。



「――――うるさい! お前は地に伏せていろ!!」



 ぐらぐらと襲いくる頭痛を無理矢理振り払って、灯花は拘束を強くやり直す。

 胴から四肢、長い尾と、首を伝い頭までにも巻きつける。四肢の動きを封じられ、安定を失ったワイバーンは徐々に高度を落とす。仕上げとばかりに翼を巻き付ければ、その大きな体は地に落ちた。




「――いいね! あとどれくらい持ちそう!?」

「抵抗が強すぎて、体感的にあと三十秒が限度!」

「充分! 準備をするから、合図をしたら(ゼロ)で解除して!」


 オスヴァルドが、急いで各所に合図を出す。下で待機している弓兵と魔法兵、現在使用可能な城壁上の弩砲(バリスタ)にサインを送らせる。返ってきたサインを確認し、持っていた鉾槍(ハルバード)を握り直すと灯花に向けてカウントダウンをはじめる。


「……四、三、二、一、〇!」

「解きました!」


 灯花が障壁を解くと同時に、ワイバーンに向かって一斉に矢と魔法が飛ぶ。そのいくつかが翼の皮膜を破り、大暴れを始める前に外城壁の上で待機していた魔法士の夫婦が氷の槍で頭部を狙う。

 それと同時に、オスヴァルドが外城壁の上からワイバーンの頭に鉾槍を向けて飛び降りた。


 魔法による氷の槍は浅く刺さったものの弾かれ、オスヴァルドの鉾槍も首元に深く刺さったが未だ致命傷には至っていない。せめて目ぐらいは潰しておきたい……とオスヴァルドが決心したところで、外方面から今までとは違う気配が急速に迫ってくることに気づく。



「――――――全員下がれ!」



 オスヴァルドの合図で、地上にいる兵が一斉にその場から後退しだす。

 鉾槍を構え、ギリギリまでワイバーンと睨み合っていたオスヴァルドも、強い気配が勢いよく飛び出してきた瞬間に一気に後方へ跳び退る。


 唐突に戦場へと現れた影は戦斧を振りかざしたエドガルドで、その大きな刃の筋によってワイバーンの首はぼとりと容易く地に転がり落ちた。



 斯くして領都の端で続いた戦いの幕は、結果として死者を出すこともなく終焉を迎えることとなった。




 健闘を続けた副団長()と兵を労う団長()と、(団長)に感謝を述べる(副団長)を兵らが称える。


 その様子を外城壁の上から見ていた灯花は、ワイバーンの脅威が去ったこととエドガルドが無事であったことに安堵する。そうして緊張の限界が訪れた灯花は、その身体からすうっと力が抜けてしまい、ラナに支えられながらぺたりと崩れ込むことになった。


 灯花が肩の力を抜き首を傾けると、赤い房(・・・)の混じった黒髪がさらりと溢れた。

「37.狩人たちの長」に加筆修正を加えました。

展開その他に変わりはありませんが、印象が少し変わるかも?なものです。


あと本日・明日と二回更新がはいりまして、この章は完結です。

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― 新着の感想 ―
[一言] この地を治めた人が偶然赤髪だったわけではなく、この地を治めるに相応しい人が赤髪で生まれる、のかな? 世界に認められたら後天的に色が変わる、みたいな あとがき:修正後のほうが個人的には好きで…
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