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11.選択とその結果

 灯花に医療の知識などはない。

 せいぜいが基本的な家庭の医学と、救命講習で習った程度のものだ。けれど目の前で横になる少年の命が尽きかけていることは、素人の彼女にもひと目で理解ができた。


「――――トウカ、待っていろと言って……!?」


 ふらふらと隣に来た灯花に気づいたエドガルドが何かを言うが、彼女の耳には入らない。


 少年の血まみれの服は破れ、肌が露出している腹部にも外傷はどこにも見当たらない。ポーションとやらは綺麗に傷を塞いだらしい。だが、治ったのは傷だけで流れ出た血は失われたままなようだ。

 こんなところで献血はできないし、そもそもその技術がこの世界にあるかわからない。

 血を増やすポーションがあるのかは知らないが、それを使う判断をしていないということは、少なくとも今は手元にないのだろう。


 地面に膝を突き、横たわった少年の手をとり額に押し当てる。

 手袋に遮られて体温は感じられないが、そもそもその下の肌は冷えかけているのだろう。

 灯花は世界に(・・・)願った。


 あの『聖女ユイ』にはあったのに、どうして同じ漂流人である灯花には何もないのか。

 彼を助ける力がどこかにあるのなら自分も欲しい。

 灯花はただ心から願った。

 どうか、どうか世界よ、応えてほしい。




【選択――癒す者――実行】




 世界が(・・・)選んだ瞬間、灯花の身体からずるりと何かが抜け出た。

 同時に力も抜けかけたのでぐっと腹に気合を入れ、怪我人の上に倒れ込むのを防ぐ。


 懸命に祈る乙女が淡い光を放つ。

 その誰もが縋らずにはいられない美しい光景を、エドガルドは隣で黙って見つめていた。


 ◇


 淡い光が収束すると、新兵の少年はすぐに意識を取り戻す。落ち着いた様子の彼を見たエドガルドはその場で直に事情を説明すると、複数の感情を込めた表情の少年は灯花の前に跪いた。


「この御恩は決して忘れません。この身、この力、貴女の為に捧げます――聖女様」


 少年が最後に何を言ったかわからず灯花は戸惑う。眉を寄せかけたエドガルドがラナに彼の体調確認を命じ、灯花を馬車の中へと促した。

 そこで灯花は少年が言った「聖女」とは何かの説明を受けることになった。


 聖女――救いの乙女。

 かつて、戦乱の世で傷ついた民を癒し続けた漂流人。実在の人物かは不明だが、そんな逸話がおとぎ話として残っている。

 王城で『聖女ユイ』が日本語を用いて名乗っていたので、ユイの言う聖女という概念がこの世界にないのだと灯花は思っていたが、そんなことはなかったらしい。


 確かにさっきの単語は、王城の陰口で『聖女ユイ』と比較して言われた中にあったのかもしれない。実感のないまま、灯花はぼんやりとそれを聞いていた。

 同時に、そもそも外傷を治すポーションが存在するなら『聖女ユイ』がやっていた治癒活動程度のことは、本来それで事足りたのだろうと思い当たる。

 それを考えると彼女の死後、どうも扱いが軽く思えたのも悲しいことに納得が出来てしまった。


 そして、どんな影響があるか不明なため、灯花の癒しの能力についてはその場で箝口令が敷かれることになった。


 その後、ラナにも太鼓判を押され元気だと言い張る新兵の少年を、灯花は念のため同じ馬車に乗せようとしたが、かなり強く固辞された。

 その彼は今までと同じ馬に乗り、前を向いて護衛任務を続けている。


 まだ息のあった数人の盗賊に応急処置を施しながらも拘束し、荷馬車の隙間に投げ込んだ一行は次の町を目指している。盗賊はその町で引き渡すらしいと灯花は聞いた。

 行きは順調そのものだったので知らなかったが、盗賊被害は決して珍しいものではないという。


 魔物以外にも脅威があるこの世界のことを、灯花はまたひとつ知った。

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