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10.襲撃

 辺境伯家の王都邸で暫し心を休めた後、灯花は辺境伯領への帰路を進む馬車の中にいる。


 そのつかの間の休日の間に、灯花は護衛として行きから同行している兵らと挨拶をすることが出来た。以前よりも流暢になっている彼女の言葉に彼らは驚き沢山話しかけてきたが、スラングを多く雑えるためあまり理解できなかったので灯花は少し悄気た。

 そのため彼らは直ぐさまエドガルドに叱責されていたし、ラナから殺意を向けられていた。


「団長は過保護すぎますよ」

「うるさい、お前らトウカに変な言葉を教えるなよ」


 エドガルドは領主であると同時に、ヴァリデガラート辺境守護兵団の長である。

 自ら最前線に出る彼は兵らを過度に萎縮させぬよう、自分に対して必要以上に畏まることはないと宣言している。

 これは魔物の脅威がどこよりも身近な辺境守護兵団ならではの伝統だという。

 普段は緩いが、有事には組織として規律正しく動けるということなので、彼らの練度の高さに灯花は感心した。


 有事での動きは王国騎士団にも引けを取らないと、エドガルドが誇らしくしているのを見て、灯花もなんだか嬉しくなった。


 ちなみに、この国では騎士を名乗れるのは国家直属の騎士団に所属しているもののみである。

 それとは別に特例として、エドガルドのように国家として重要な場所を守護する任のある領主も騎士を名乗ることを許されているという。

 さらに貴族家の当主は、王の諮問機関である元老院の構成員でもあるらしく、国政にもある程度腕を伸ばしておかねばならない。

 馬車での移動中に勉強の一環としてこれらをラナから教えてもらった灯花は、エドガルドが持つ重たい肩書きの多さに、頭の下がる思いであった。


 そんな風に帰路を進むこと暫く――一行は盗賊の襲撃を受けた。



「トウカ様、大丈夫、大丈夫です。旦那様がおりますので大丈夫です」


 ラナに強く抱きしめられて、今まで感じたことのない恐怖に灯花は身を震わせる。馬車の扉はラナが内側から施錠しており、外からは簡単に開けられない。

 その外からは怒号と金属音と何かの衝撃音――あと断末魔のような叫び声が聞こえる。

 灯花は、その声が知っている誰かのものでありませんようにと祈ることしかできなかった。



 数分か十数分か、どれくらい経ったか分からないが、気がついたら外は静寂に満ちていた。

 その静寂を破るように複数の人間が周辺を歩く音がした後、丁寧だがどこか焦りを感じさせるような強さで馬車の扉が叩かれた。


「――――ラナ、中の魔法薬(ポーション)をくれ。それが一番効果がある」

「旦那様、お怪我を!?」

「俺ではない、今回連れてきた新兵の奴だ」


 エドガルドの静かな声が、灯花の耳に届く。

 ホッとすると同時に、怪我人がいると知り血の気が引いた。


 ――新兵の?


 まだ少年と言ってもいいほどの若い男が、そう名乗っていたことを灯花は急いで思い出す。

 両親を魔物の襲撃で相次いで亡くし、弟を親戚に預けて守護兵団の門を叩いた。

 仇は守護兵団がとってくれたから、次に起こるかもしれない悲劇は自分が防ぐんだと話してくれた。


 ラナが薬箱を取り出し、馬車の外へと急ぐ。

 中で待てと言われた気がするけど、開いたままの扉をくぐりふらふらと外へと出る。


 まず感じたのは血のにおい。

 見渡すと、粗末な服に身を包んだ血に塗れた人間が何人も地に伏せていた。

 彼らが生きているのか死んでいるのか、それすら灯花にはわからない。


 他の護衛兵が周辺の警戒を続ける中、エドガルドが誰かに何度も声をかけている。

 近づき確認すると、彼の前に横たわるのはやはりあの少年だった。

 その顔は青白く、呼吸は浅く、未来を語った瞳を目蓋が覆い隠している。


(いやだ、いやだ、いやだ)


 最悪の未来を拒絶し、灯花はもう一歩を踏み出した。

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