第五話
暫くして救急車のサイレンが鳴り響いてきて、気を失っているりおを運び出した。周りはもう騒然としており、人だかりができるくらい集まっていた。
「お兄さんも同行しますか?」
救急員の人に訊かれ迷ったが、心配なのは変わらない為に同行をする。その際、今日は会社に行けない事を蓮さんにメールで伝える。こんな一大事になるなんて思わなかったから。
運ばれているりおをずっと見ていた。真新しい打撲痕に乾いた血の跡、どこもかしこも前よりもっと痛々しい。
「……」
「何があったか、話してくれますか?」
隣に居た人が訊いてきた。そして、事実と憶測、それら全てを話した。
漸く病院に着き、りおは診察するなために奥の方へ行ってしまう。俺は診察が終わるまで受付まで待っていて欲しいと看護師に言われる。俺としては待ってられないほど焦っていたが、正直何も出来ない。その言葉に頷いてじっと待っていた。
何分、何秒、何時間待ったか。体感なんてとっくに分からないまま。ただ、りおが無事なだけを祈る。
「……やっぱりあの夜の男か」
りおを捨てた男は恐らくあの男。顔をはっきり覚えている。そこへ、一人の男がやってきた。
「すみません、ちょっといいですか?」
「ん、はい」
「あなたが尾野莉鷹ちゃんの第一発見者ですね」
「はい。あなたは?」
「すみません。自分はこういうものです」
左胸のポケットから警察手帳が出てきた際、背筋が少し冷える。
「あなたと莉鷹ちゃんとの関係はどういったものですか?」
「あ、えっと、ただの知り合いです……ね。最初に会ったのが一週間ほど前で……」
「……父親では無いのですね」
「違います。父親は昨日の夜に荷物を纏めて出ていっているそうなので」
まぁ一瞬あってはいるが。
「そうですか」
「あの、あの子は……りおはどうなりますか?」
「今あの子の身辺調査を行っているんですが、親戚も居ないようなので、おそらくあの子がここを退院すれば施設へ入ることになるでしょうね」
「……そうですか……」
まぁ、今の劣悪な環境下に居るよりかはマシにはなるだろう。けど、俺の中でそれでいいのかと言うナニカが問い質してくる。
「そこで、提案なんですが……」