第二会議「ヤンキーの鼻についているのはピアスだった」
少女は今、教師に雑用を頼まれ、実行していた。校舎の裏に新しい砂利を設置するという。その大きな砂利の入った袋を何往復もしながらこれから運ぶと考えると、それだけで疲れてくるというものだ。
千代は心の中で考える。
(生徒会長はなぜ、教師に雑用を任されてしまうのか。体の良い存在になっているからだろう。まったく、何のために生徒会長になったのかわからなくなる。)
「オタクとネガティブは用事があるとかで先に帰ってしまうし、たしかオタクは、
『今から並んでヨゾラちゃんのグッズを買わねばならないので』』
とか言っていたな。ネガティブに至っては、雰囲気がヤバかったから聞けなかったし。」
「あれ?姉御じゃないですか?」
ふと聞こえた声に振り向くと、そこには明らかにヤンキーと言えるガラの悪い少年が立っていた。金髪の頭髪に華美なピアス、そして校則を破ってまで着ているTシャツの文字は4649であった。
「ヤスじゃねーか!」
「はい‼!ご無沙汰してます。いやー、姉御も会長になられたので、姉御のためにもあまり関わらない方がいいかと思って、、」
顔なじみのその少年の配慮は、傍から見れば見た目に反したものであった。
「いい気配りだが、今はお前らの力が必要だ。全員集められる?」
はっ‼とした表情を浮かべ、口角が徐々に上がっていく。少年は二つ返事をすると、一目散にどこかへ走っていった。
戻ってきたのは、ほんの2分後であった。その間、千代はただ爪の長さを確認していたり、地面にある砂を眺めていた。
久しぶりの人物の会うと、人はその者との出会いや思い出を思い出してしまうもの。
千代もその一人であった。
たった2分の間、2分で思い出せてしまう
そんな出会いであった。
千代がヤンキーの少年と出会ったのは、入学式のことであった。
―――入学式―――
クラス分けが発表されている掲示板を眺めていた千代はひどく肩を落としていた。
「やった‼今年も同じクラスだね。千代!」
彼女の隣でニコニコと千代に笑顔を向けるのは中二病であった。
彼女との中学からの付き合いに、正直なところ千代はうんざりしていた。
「いつまでついてくるんだよ、、いい加減クラスくらい分かれてくれ!」
「そんなこと私に言われても、決めてるのは学校だもんね。」
中学からの出会いである2人だが、クラスは一度も離れたことはなかった。
学校が決めているがゆえの奇跡か、それとも故意か。
正解は後者であった。
そのことに千代も気づいてはいた。
中二病のいるクラスというのは、特殊な雰囲気になる。
万が一にも差別的な扱いが生じてしまえば、学校としては問題である。
そのため、正義そのものであり優等生である千代を同じクラスにすることで、
平穏な学校生活がおくれるというのはある意味、必然でもあるのだ。
千代は大きくため息を落とした。
「道開けろや‼幸丸様お通りだぞー‼」
華美な頭髪。服装。装飾。
校則違反の嵐である集団の中心には、我こそはと、どや顔をするものがいた。偉そうな態度をとる人たちに一般生徒もおびえる始末。
変に目立って目をつけられれば、何をされるかわからない。
千代も静かにその集団が通り過ぎるのをただ待っていた。
貧乏ゆすりをしながら、
「いてーな、、あぁぁあ?!」
目の前で集団の端を歩いていた1人が足を止め、千代の向かって大声で発した。何のことか分からなかった千代であったが、下に視線を移して気づいた。
貧乏ゆすりしていた足が、その少年の足を踏んずけていた。
(あぁ、やってしまった。)
苦い顔をする千代。
実をいうと、こういうことは1度や2度ではない。
気に食わないことがあれば、意志と反して何かを必ず起こしてしまう。
「おい、どこに目を付けたらこうなるんだよ、あぁ?」
やはり、人というものは自分よりも弱いものに強く、自分よりも強いものに弱い。
周りの生徒たちも誰一人助けようとしない。
隣にいる中二病は不安そうに千代の名を呼び強く腕をつかんでいた。
(弱いものはよく群れる、、とはよくいったものだな。)
「あの、少し場所移してもいいですか?」
そういった彼女の提案を受け、集団と千代は人気のない後者の裏に移動していった。中二病は千代に待てと言われ、騒ぎの場所でただただ千代が戻るのを待っていた。
「お前がヤスの足を踏んだらしいな。どうしてくれるんだ。土下座でも見してくれるのかね。ハハッ」
集団の中心にいた男が笑えば、周りが笑う。社会というのをこういう光景が表していた。
無表情を決めていた千代が口を開いた。
「あの、失礼ですが、禿丸さん、先ほどから鼻に何か突き刺さってますけど、大丈夫ですか?」
千代の発した言葉で空気が凍った。触れてはいけない事だったのかと千代も焦る。
「あぁああぁ‼‼‼‼‼俺の名前は幸丸だし、そして何よりこれは鼻ピだよ‼ガキには分かんねーかな?」
煽るような口調で言われた。
「あぁ、、じゃあ変だと、カッコ悪いとわかっててつけているんですね。納得です‼失礼しました。」
男を更に煽り返したことに気づいていない千代の態度は男をより高揚させた。
「ふざけんじゃねーよ、女風情が!」
大きく拳を突き付けてきた男の拳は千代の顔に向かってすさまじいスピードで向かってきた。
本気で殴るつもりで挙げられたその拳に千代は瞬き一つせずに応じる。
そう応じてやったのだ。
自分に向かってくる拳をキャッチャーミットのようにつかんだ。
「拳、まだ柔らかいですね。人を殴り慣れてない証拠ですよ。普段は小道具とかに頼ってるのかな。それとも、、」
「調子にのるなよ!この、、⁉⁉」
掴んでいた拳を優しくキャッチャーミットが包み込んだ。
強く強く、それは強く。
ボールが破裂するんではないかと思うくらい強く。拳を懸命に外そうとしても抜けない。
反対の腕を出そうにも、くるくると走ってよけられる。
傍から見れば、メリーゴーランドのように回って戯れているだけにうつる。
走り疲れた男に千代が言う。
「そろそろいっかな、、、。次はないから、覚えてといてね♪」
ボールが破裂して、男が地面に突っ伏して悶えていた。
そんな幸丸を心配し取り囲んで心配する集団の男たち。
そんな光景を背にして立ち去る少女が一人。千代の口角はぐっと上がっていた。
そして待っていた中二病のもとへ戻っていた。
次の日から、幸丸は鼻ピをやめて、集団を解散した。今では立派な真面目くんとなった。
そして、なぜか0幸丸の下についていた一部の者は千代の下についた。千代は今では立派な生徒会長。
これが2分で思い出せるヤンキーたちとの出会い。
お読みいただきありがとうございました!
誤字・脱字等ご教授welcomeです。
評価・感想・レビューいただけますと執筆捗ります。