スカイダイビング
高速に差し掛かった時、父親のマコトは、ハンドルを握りしめ、アクセルを強く踏み込み車を加速させた。
合流注意とモニターに表示される。
「ヤヒコ、朝から大騒ぎだったな」
「オリオン座がどうとか、爆発する、波がくるよって言ってたけど、あれはどういうこと? 」
「オリオン座には、三つ星が並んでるだろう。その左上にペテルギウスって言う星があって、ガスが大量に放出されている。その星が、爆発するかもしれないんだ。超新生爆発っていうのだけど、爆発後に宇宙空間上に波が起きる。それが、重力波。静かな池に石を投げ入れると波紋が広がる。その波紋のようなものかな」
「星が一個消えるってこと!? まるでSFね。宇宙好きのヤヒコが大騒ぎするはずだわ」
アスカは、車のモニターのタッチパネルでJ-POPの音量を下げチラッと横目で父をみた。
「お父さん昨日、神社行ったでしょ? 何をお願いしたの?」
「昨日? なんで」
「さっき神社に寄った時、宮司さんが今日も来られたんですねって言ってたからさ」
近所の神社は、古くから生命を司るとされる岩を納めていると有名。アスカが幼い頃からよく遊び場としていて、高校二年生になった今でも、時々立ち寄っては、手を合わせに行っていた。宮司さんとも顔見知りだ。
家を出る前、アスカがスカイダイビングのライセンスを取った初日なので、父が神社に寄って行こうと言い出したのだ。駐車場に車を止め、鳥居の前でお辞儀をして手を洗いお参りをする。階段を上がり、両脇の狛犬に会釈をした。お賽銭を入れて、鈴を鳴らす。
「無事に一人でスカイダイビングが成功しますように」とアスカは祈願したのだ。
駐車場に向かう途中、宮司さんが掃除をしている横を通り過ぎる。
「マコトさん今日も来られたのですね」と宮司さんは挨拶をした。
「ええ、今日は、アスカが初日のダイビングなんですよ」とマコトが伝えると、「どうぞ、ご無事で」と宮司さんはお辞儀をしていた。
父も思い出しているのか、アクセルを踏む力が弱まり車の速度が減速したのを感じた。
「ありがとう、でも心配しなくていいよ。お父さんと一緒に飛んで、パラシュートを開くタイミングが身にしみているからね」
「それは、頼もしいな」
「だって、いつもヨシッって大きな声で言うんだもの、かってに体が反応しちゃうわ。だから、きっと大丈夫だよ」
「そうだな。ライセンスも取れたし、最後は神頼みだよ」
「やっぱり、昨日も神社に行ってくれたんだね」
「はははは、これは一本取られたな」
車がまた加速していく。J–POPの音楽と共にアスカの携帯が鳴った。
–ハッピーハロウィン! 夜は美術部のみんなで街に行くよ、とびっきりの仮装をよろしくね!ー
同級生のユイからグループチャットが届きそれに続き美術部の部員が一斉に返信している。
既読を意識してすぐに返す。
ー今日は、スカイダイビングに来てるから、無事に帰ったら参加するねー
ー絶対来てね!美術部の名イベントだよー
携帯を触りながら、J –POPを聴き、車のナビの音声がアスカをスカイダイビング場に誘導している。情報の渦に飲み込まれると頭がフリーズしてしまう時がある。そうなると、アスカは窓から見える遠くの山を見て気持ちを落ち着かせる。
車はナビに誘導され、高速を降り、森へと続く長い道を通り抜け、小高い丘へと登っていく。
スカイダイビング場に着いて、車から荷物を取り出していると隣に車が止まった。
運転席から従兄弟で大学生のクニハルが降りて来た。
「おはよう、アスカちゃん、今日の調子はどうだい?」
「今日の調子はいいよ、朝寝坊しちゃったけど、そのおかげで頭はスッキリだよ」
「それは、いいや、初ダイビングで気失うより、しっかり寝て気分スッキリがいいね。僕は初ダイビングの前の日は全く寝れなくて頭がボッーとしてたもんね」と苦笑しながらクニハルは答える。
「クニハルも今日は気を引き締めて飛べよ」とマコトが伝える。
三人は荷物を運びながら所属しているスカイスクールの入り口に足を運ばせた。
ガラガラとドアを引くとヘリコプター操縦者のダニエルが天候の確認を行なっていた。
「おはよう、ダニエル。今日はよろしくね」とアスカが声をかける。
ダニエルは、パソコンの画面から目を離しこちらを見た。