川上ボクシングジムでの出来事……
何をするのか……
池本達が何やら揉めていると、佐伯と甲斐が着替えて出て来る。
「ここは俺でしょう!」
「いや、手塚は基本がなってねぇ!……俺だな!」
「馬鹿かお前は?……俺の熱い拳が必要だろ?…喜多の冷たい拳じゃ意味ねぇだろう?」
「何言ってんだ?……俺の冷静な拳で、ボクシングを知る必要があるに決まってるだろ!」
「喜多だろ?……そもそも実力不足だろ!」
「この野郎……先にお前をぶちのめしてやろうか?」
「辞めなよ2人共……ここは俺の出番じゃないか?」
「お前は現役だろ!…試合の準備しとけよ!」
「俺達の役目だ!」
「いやいや、やっぱり現役の俺がやった方がいいって!」
「だから、熱き鉄拳なんだって!」
「違う!…冷静な拳だ!」
「現役の拳だろ!」
「辞めろ!……全くお前等は!」
「「「……池本さん……」」」
「俺が決めてやる!」
「「「……はい……」」」
「いいか……ここはやっぱり現役はまずい……」
「ぐぬ…………」
「だからと言って、ただ殴り付けるだけでもまずい……」
「ぬぬぬ…………」
「やっぱり池本さんは、分かってますね!」
「おう……やっぱり適任は…………俺以外に有り得ねぇな!」
「「「!?」」」
「無い無い無い、絶対に無い!」
「相手死んじゃうって!」
「会長にダメ出しされたでしょ!」
「……記憶にねぇな!」
誰が6人の相手をするかで揉めている様だ。
6人は揉めている4人から目を離し、辺りを見回す。そこには、自分しか居ないと言った大柄な男が、腰に2本と肩に1本ずつチャンピオンベルトを着けてファイティングポーズを取っている写真が飾ってある。その写真を見付けた者が無言で回りの連中の肩を叩き、写真を石谷達に見付からない様に指差す。写真を見た連中は、顔色が悪くなっていく。
「池本さん、ここは会長か石谷チーフに任せましょう!」
「そうですよ。石谷さんと会長なら、きっといい答えを出してくれますよ!」
「それは出来ねぇな!……絶対に俺を選ばねぇ!」
「当たり前だ!…お前は加減を知らねぇ!」
「高松が困る事を俺は出来ねぇよ!…なぁ、高松!」
「6人に決めて貰ったら?……やるのは彼等だからね」
『そうか!』
「という訳だ!…小僧共、俺を選べ!…徹底的にやってやるぞ!」
「池本さん、それがいけないんだって……俺なら本当の苦しみを教えて上げるよ!」
「怖いわ徳井!……俺の熱い鉄拳を喰らいたいだろ?」
「3人共馬鹿か?……ボクシングを教えてやれよ!」
6人は顔を見合せ、全員が1人の男を指差す。指した相手は喜多である。
「お?…俺か?……お前達見る目あるわ!」
「おい、小僧共……何でむっつりを指名するんだ!……お前等もむっつりなのか?」
「池本さん、言ってる事が不明ですよ!……喜多か、しゃあねぇな……」
「……見た目は確かに、良識ある様に見えるからねぇ……」
「うわぁ、喜多さん選んだよ……」
「……地獄見るな……」
佐伯と甲斐は顔をしかめる。
喜多が準備をしてリングに上がる。6人のうち、最初は吉田の彼氏らしい。
「吉田さん、心配かな?」
吉田は首を振る。
「大丈夫、高っちが付いててくれるから!」
リング上では、まだ揉めている。
「いいか喜多……疲れたら交換してやるからな!」
「その時は俺ですよ……池本さんは絶対ダメですからね!」
「2人は無いわ……俺の熱き鉄拳の出番だ!」
「…………みんな大丈夫か?…あれに疲れる様なら、元世界チャンピオンて言えねぇよ!」
どうやら池本を始めとする3人は、まだ納得がいっていない様である。
「よし、始めるぞ!」
石谷の声でスパーリングが始まる。
ここで、佐伯と甲斐が地獄と言った意味が分かる。多分、喜多は4人の中で1番クレバーなボクサーである。これは、他の3人がダメという訳ではない。勿論、喜多が1番強いという訳でも無い。
しかし、このクレバーさが厄介である。
喜多は足を使い、外からどんどんパンチを打ち込む。更には、冷静にボディを狙っていき、確実に相手を弱らせていく。
喜多は川上ジムの中にありながら、生粋のハンターである。ハンターは獲物の息の根を確実に仕留める為、徹底的に相手を弱らせ万が一を起こさせない種族である。
喜多はボディで確実に相手を弱らせ、自分はリングの中を縦横無尽に動き、相手を心から折っていく。
結局6人は、喜多にしこたまボディを打たれ、最後も喜多の左ボディでダウンをする。
ボディでダウンすると意識はしっかりしているが、体が動かない。更に、少しでも動くとお腹に激痛が走り、思う様に体を動かす事さえ困難である。また、ボクサーのパンチは内臓から効く為、暫く食事を受け付けられない状態となる。
6人はリングの外で横になっている。高松は近付いて行く。
「さて……どうだったかな?」
6人は返答出来ない。答えるのも辛いが、自分達が情けなく、言葉が出て来なかった。
「……何も言わないんですねぇ…………仕方ない…石谷」
「何だ?」
「彼等は反省が見えない……池本さんに頼みますか?」
『!?』
「流石高松さん!…やっぱり俺ですね!」
「仕方ないな…高松が反省無しと思ったんだ、やるか?」
「ちょ、ちょっと待って……下さい……」
「お、俺達が悪かった……です……」
「反省……します……」
「……すみま……せん…でした……」
「……心を入れ替え……ます……」
「……許して……下さい……」
「どうすんだ?…高松?」
「……吉田さんに迷惑掛けないですか?」
6人は何度も頷く。
「……今回だけですよ……早く消えなさい」
『はい!』
6人は頭を下げ、自分達の上着を持ってよろよろしながらジムから出て行った。
「会長、石谷……ありがとうございました」
高松は頭を下げる。
「辞めろ、高松!……お前は俺に取っても特別だ!」
「高松、親友じゃねぇか!」
「池本さんに徳井さん、喜多さん手塚さん……ありがとうございました」
「辞めて下さいよ!」
「どうって事ないですよ!」
「池本さんが何やるか、そっちの方が心配でした!」
「本当に……池本さんには困りますよ!」
「はっはっは、ここは昔から楽しいなぁ……佐伯君に甲斐君、邪魔しましたね」
「そんな事無いですよ!」
「また来て下さい!…出来たら、西田拳闘会にも来て下さい!」
「はい、そのうちに……それでは、我々はこれで失礼します」
「……ありがとうございました」
高松と吉田は頭を下げてジムを出て行く。
「吉田さん、大丈夫ですか?」
「はい!…すっきりしました!」
「……なら、良かったです」
「高っち、ありがとう!」
「いやいや……」
「……橘はいいなぁ……」
「橘さんを知ってるんですか?」
「……中学からの同級生……よく知ってるよ!」
「そうですか……」
「……私も、高っちみたいな人…好きになれば良かったな……」
「……私みたいな人ですか……厄介ですねぇ……」
「そんな事無いよ!…高っちはいい感じだよ!」
「……実感無いですねぇ……さて、お腹が空いたから何か食べて帰りましょう」
「はい!…お願いします!」
高松と吉田は、高松がお薦めの店で食事を摂って帰った。
吉田にとって、本日はとても大切な日になった。吉田が密かに高松のファンになった日でもある。
高松はアパートに帰ると、スポーツジムで汗を流した。高松が少しだけ、講師らしくなったのを確認出来る日となった。
高松、色々考えているみたいです。




