昔からの親友の行動……後編
何やら怪しい雰囲気……
スパーリング開始のゴングが鳴る。
イーグルは華麗なフットワークから左ジャブを放っていくが、高松はこれを全て喰らう。
高松は確かになかなか筋はいい。それは、川上会長を始め川上ジムの面子はみんな認めている。パンチの練習も確かにしている。
しかしそれは、あくまでも体力増強の延長であり、本物のボクサーから見ればお遊び程度である。更に言うなら、高松の本業はハンドボールである。そんな高松がチャンピオンの、それも世界から注目を浴びているボクサーのパンチを何とか出来る筈がない。
高松はイーグルのパンチを面白い様に決められるが、高松のパンチはかすりもしない。
イーグルはパンチをまとめ、高松に打ち込んでいく。高松の頭が2度3度と跳ね上がった所でゴングが鳴る。
「ヘッドギアを付けろ!」
「必要ねぇな!…撫でられたのかと思って寝る所だったよ……ガキのがいいパンチ打つな!」
高松はマウスピースを外し、大きな声で言った。ブライアン·イーグルの顔色が変わる。
そこからのスパーリングは凄惨な物になった。
イーグルは手加減を辞め、高松に容赦なくパンチを打ち込んでいく。高松は喰らいながら前に出て行くが、全くパンチを当てられない。それでも高松は前に前に出て、パンチを放っていく。
気が付けば、スパーリングは9ラウンドを終わっていた。
高松とイーグルのスパーリングは、ジムの前を通る人々の興味を誘い、いつの間にかギャラリーは増えていた。
「効かねぇなぁ?……おい、俺は平気だぞ!」
高松の言葉はイーグルに届いている。
「あいつは何なんだ?……俺のパンチが効かねぇのか?」
「あいつは異常だ!…気を付けろ!」
高松が辞めない以上、スパーリングは終わらない。10ラウンドのゴングが鳴る。
高松は前に出て行く。イーグルは高松にパンチを打ち込み、このスパーリングをすぐに終わらせ様としている。
しかし、高松は歯を食い縛り、イーグルのパンチに必死に耐え、自分のパンチを放っていく。
イーグルは高松の右のパンチに己の渾身の右ストレートを被せる。これが高松にクリーンヒットした。
ここで高松のハンドボールGKとしての経験が生きる。
そもそも、階級が違うとはいえ、世界チャンピオンのパンチをそんなに貰って立っている事は出来ない。高松はハンドボールのGKとして至近距離から顔面を始め、色々な場所にボールを当てられて来た。それも、走り込んで思い切り放ったボールである。これが高松の打たれ強さの秘密である。
イーグルはカウンターで右ストレートを高松に当て、ほんの僅かだが気が緩んだ。たから、高松は頭が弾けながらも出した左のパンチを確認出来ず、高松の左はイーグルを捉えた。
高松の左のパンチを貰い、イーグルは少し後退する。高松はダメージも気にする事なく前に出て行き、パンチを何発も放っていく。
イーグルはガードを上げ、高松のパンチをガードしながら高松のパンチを確認し、高松のパンチにまたもカウンターを合わせる。
それでも高松は止まらない。高松は歯を食い縛り、前に出て行く。
このラウンドが終わり、イーグルの顔はより一層厳しい物になる。
結局、スパーリングは12ラウンドとなり、11ラウンド12ラウンドはイーグルが一方的に高松を殴り付ける形となる。しかも、何度もフルスイングでのパンチを高松は喰らっていた。
スパーリングが終わる。
「ざまぁねぇな!…本気出した所で俺は立ってるぞ!……お前は弱虫イーグルだ、この割り込み野郎!」
高松はグローブを外すとイーグルに詰め寄り、胸ぐらを掴む。
「……石谷は強いんだろうな……約束する、いつか俺が挑戦を受ける!」
「……本当だな!…破ったら殺すぞ!」
「約束する……俺はお前を尊敬する!」
「……お前に尊敬されても嬉しくねぇよ……」
高松は振り返り歩き出すがよろめく。イーグルが高松を支える。
「大丈夫か?」
「触るな!……俺は石谷の強さを証明したんだ!…あいつは俺の100倍強ぇ!」
高松はイーグルを振りほどき、リングを降りてジムの入り口まで行き振り返る。
「約束だからな……」
高松はそう言い残し、ジムを後にした。
このスパーリングから1週間後、川上ジムには世界戦の話が舞い込む。ブライアン·イーグルが世界戦の後に石谷と試合をしたいとの事だった。川上会長はこれを承諾し、石谷の世界戦は決まったかの様に思えた。
しかし、現実は上手く行かなかった。
ブライアン·イーグルは世界戦に勝ち、石谷を指名したがプロモーターがその前に違う試合を組んだ。イーグルの対戦相手は、エドウィン·ホプキンス、後にPFP1位になる選手であり、この試合が出世するきっかけとなる。イーグルを6ラウンドKOに切って落としたのだ。
このチャンピオンの息子こそ、フェリックス·ホプキンスであり、池本が後に4団体統一チャンピオンとなる時に死闘を演じた男であるが、それはまた、別の話しである。
一方の石谷は、東洋太平洋タイトル5度目の防衛戦で9ラウンドKO負けを喫する。イーグルが負けてモチベーションが下がった事も少なからず影響はあっただろう。更に悪い事に、石谷はこの試合で網膜剥離を患い、引退になってしまう。
イーグル陣営は、負けた事の謝罪の連絡を川上ジムにしていた。その際に、180cmを超える恐ろしい程の覚悟を持った侍の様な素人の話をしており、会長の耳に高松が何をやったかの話が届く事になる。
しかし、会長は高松にその話を聞かなかった。高松は石谷を思い、ただ行動しただけだったからだ。
そして石谷にも伝えなかった。必要が無いと思っていた。この2人は、何が有ろうと無かろうと、ずっとこの先も親友である事が確信出来たからだ。
この時から川上会長は高松が大好きになった。
親友の為には自分がどんな犠牲を払っても関係無い。そんな考え方が川上会長は嬉しく、そしてありがたかったのだ。
………………どうだ?…凄い話だろ?」
「………………高松、俺の為に……」
「盛り過ぎですよ会長……そんなに格好良く無い……それに、あの後奥歯が2本、俺の口から出て行きましたからね……」
「……高松らしいな……お前はいつも、大切な事は言わないからな!」
「成る程……どうりであの時、傷だらけの顔してた訳だ!」
「亮、覚えてるのか?」
「当たり前だ!」
「……昔から高松は無茶するからな!」
「高松ならあり得る話だな!」
「高松らしいな!」
「何だなんだ?…俺は評価が高ぇな!」
「……高松さんスゲェな……」
「ブライアン·イーグルって……ある意味伝説だよな……」
「今の感じからは考えられねぇな……」
「佐伯·甲斐、高松さんが出来たんだ!…お前等はやらなきゃ笑われるかなら!…分かってるか?」
「勿論ですよ、池本さん!」
「絶対やりますよ!」
川上会長から出た高松の話は、ボクサー達には火を付け、昔馴染み達には納得の出来事であった。話が終わり、いい時間になったので祝賀会は終了となった。
「石谷…明日、時間作れねぇか?」
「構わねぇよ!」
「どうしたんですか、高松さん?」
「チーフに用事ですか?」
「ああ…明日、駅に10時に待ち合わせ出来ないかと思ってね……」
「構わねぇけど、何かあるのか?」
「確かに何かあるんだが、お前じゃなきゃ頼めねぇ事だ」
「分かった……明日な!」
「俺も参加しちゃダメですか?」
「俺も参加したいな?」
「……池本さんに徳井さんが居れば、尚助かります……お願い出来ますか?」
「「はい!」」
どうやら高松は、石谷達に何かを頼む様だ。
それにしても、若かりし高松は結構無茶苦茶であった。それくらい無茶苦茶でないと、世界とは戦えないのかもしれない。
若かりし、高松の熱血エピソードでした……




