昔からの親友の行動……前編
高松と石谷の昔が分かります。
高松達は優勝の祝賀会を行う為に、みんなで移動する。
「石谷、そちらの方達は誰だ?」
「俺のジムの仲間達です!」
「会長の川上です」
「初めまして、石谷を始め高松と岡崎の授業を受け持っていた山中です」
「本日は、おめでとうございます!」
「ありがとうございます……これから祝賀会ですが、どうですか?」
「いいんですか?……では、お言葉に甘えます!」
という訳で、みんなで移動する事になった。
着いた場所は、山中先生の行き付けのお店であり、本日は貸し切りである。全員でお店に入り、それぞれが席に座る。
まずは飲み物を注文する。奥さんが迎えに来る者は酒を頼み、高松の様に自分で帰る者達とボクサー達は、会長以外はソフトドリンクである。山中先生は自宅近くの為、生中を注文している。
頼んだ飲み物が届く。
「高松、お前が話をしろ!」
「え?…俺ですか?」
山中先生の一声で高松は立ち上がる。
「え~……何を話したらいいか…………色々あって、みんなには心配も掛けたと思うし……OB会も出た事無かったし…………でも、みんなとハンドボールが出来て、俺は楽しかったし幸せだった……新しい一歩を、このお馬鹿軍団と出来た事…俺は一生忘れないからな!」
「……高松が少しは大人になったみたいだな……よし、乾杯するぞ!」
山中先生の言葉に、みんな立ち上がる。
「乾杯!」
『カンパ-イ!』
みんなで楽しく祝賀会が始まる。ボクサー達も色々な面々と話をし、なかなか楽しんでいる様だ。
高松は色々な所から呼ばれ、落ち着いて座る事無くコップを片手に動いている。山中先生は川上会長と話をしている。時折笑い声が聞こえ、楽しそうである。
「川上会長、俺達が知らない高松を知りませんか?」
「山中先生達が知らないとなると…………難しいと言いたい所ですが、実は1つあるんです!」
「どんな話ですか?」
「いい機会だから、石谷達も聞いておけ!…高松は面白いぞ!」
みんなが会長の話に耳を傾ける。
「……高松はな……………………
今から15年以上前、高松が25歳の2月の頃の話である。
高松はドイツでプロのハンドボール選手としてプレーしており、1月で全ての日程が終了となっていた。
3月始めにはキャンプがあり、3月終わりにはリーグ戦が開始となる。束の間の休息で高松は日本に帰って来ていた。高松は日本に居る時は、川上ジムに顔を出していた。石谷とロードワークに出掛け、体力増強の為にサンドバッグを叩いたり、ミット打ちもやっていた。
そんな2月のある日、高松はいつもの様に川上ジムにやって来た。
いつもは待っている筈の石谷の姿が無く、高松は会長に声を掛けられ会長室に入る。
「石谷、ロードに行ったんですね?」
「……そうだな……」
「……もしかして、世界戦が決まったんですか?…気合い充分で、俺の事が待ってられなかったとか?」
会長の顔が一気に曇る。
この時石谷は、Jウェルター級の東洋太平チャンピオンであり、3度の防衛をしていた。世界ランクは、WBA·WBC共に5位である。
この時期は、日本で認められていた世界チャンピオンは上記の2つだけであり、なかなかチャンスが巡って来ない事も多かった。更には、ライト級からミドル級までは、スピードとパワーが備わった階級という認識が強く、なかなか日本人にチャンスが巡って来ない。
石谷も例に漏れず、日本タイトルを獲得してすぐに世界戦の話が浮上したが、結局流れてしまっていた。
それでも腐らずに練習した石谷、東洋太平洋タイトルを獲得し防衛を重ね、遂には世界ランク上位入りし世界戦間近と思われていた。実際に3度目の防衛戦も見事なKOで勝利を納め、世界へのアピールが出来ていた。
「…………そう思うか、高松?……」
「そりゃそうでしょう?……誰だって思いますよ!」
会長の顔がより一層険しくなる。
「……ブライアン·イーグルを知ってるか?……」
「オリンピックのアメリカ代表で金メダリスト、ゴールデンボクサーの異名を取る、フェザー級·Jライト級·ライト級を制した3階級チャンピオンで……現WBCライト級のチャンピオンですよね?」
「そうだ…………そのイーグルが階級を上げる……」
「まさか……イーグルが石谷の世界戦を……」
「……そうだ……イーグルが挑戦する為に、石谷の世界戦は流れた……」
「おかしいでしょう!……石谷は17戦17勝14KOですよ!…イーグルだかボギーだか知らねぇが、Jウェルター級なら石谷の方が実績がある!」
「……世界は……特にアメリカのラスベガスはそう思っていない……勝ちが決まってる試合より、注目の選手対チャンピオンの方が盛り上がるんだ……ファイトマネーも格段に違う……」
「だからって、納得がいかねぇ!」
「俺だって納得がいかん!……しかし、これが現実だ……」
「だからって……」
高松は会長から視線を外し、少し下を向く。会長から高松の表情が確認出来ない。
「俺に力があったら……金と力が俺にあったら…………俺は無能な会長だ……石谷には色々頑張って貰ってるのに…………」
「辞めて下さいよ、会長……石谷は感謝こそすれ、会長を悪くなんて思っていない……悪いのは、割り込んで来た奴だ……」
高松はゆっくりと立ち上がると、会長に頭を下げて出て行った。会長は高松の表情を遂に確認出来なかった。
翌日、高松の姿はロサンゼルスにあった。あの後すぐに航空券を取り、高松はアメリカに来ていた。ロサンゼルスのブライアン·イーグルが居るジム、高松にはそこが目的の場所であった。
高松はすぐにジムを見付け、ジムに入って行く。
高松はドイツとはいえ、海外に住んでいる為に多少は英語が出来る。
「君は東洋人か?……なかなかいい体付きをしているな、何処かでやっていたのか?」
ジムのトレーナーらしき人物が高松に声を掛けて来た。
「……お前に用事はねぇ、ここに弱虫イーグルが居るだろう?」
ジムの誰もが動きを止め、高松を注目する。
「居ねぇのか?…弱虫イーグル!」
「俺に何か用か?」
「用事が無きゃ来ねぇよ!…世界戦を割り込むな!石谷が先だ!」
「石谷?……ああ、世界ランクに居る東洋人か……結果は分かってんだ、やる必要ねぇだろ!」
「何だと?……お前に石谷の何が分かる……石谷のがお前より遥かに強ぇ!」
「贔屓目だな……現実は違う……」
「はん……石谷が怖ぇんだろ?…認めろよ、弱虫!」
「何だと?…言葉に気を付けろ!」
「図星を刺されたか?…お前のゴールデンは実力じゃねぇ、運がゴールデンなだけだ!」
「この野郎…痛い目見せてやろうか?」
「はっはっは、お前が俺を……辞めとけ、素人にやられたボクサーなんて商品にならねぇぞ!」
「好き勝手言いやがって……リングに上がれ!」
「メッキを剥がしてやるよ!」
イーグルと高松はリングに上がる。高松はジムのトレーナーに無理矢理マウスピースを付けられヘッドギアを進められる。
「いらねぇよ!…効かねぇパンチに必要ねぇ!」
「俺も要らねぇ……本物のボクサーを見せてやる……」
2人のスパーリングが始まる。
熱い高松、この後どうなる?




