合間の水曜日……
今日は講師の日……
高松は城北学院の職員室で朝早くからパソコンをしている。いつも通りの光景であるが、改めて高松は、仕事に対しては真面目である事が分かる。時間は7時を少し過ぎた辺り、いつもは誰も来ない時間。
「おはようございます、康介さん!」
「!?…おはようございます、早いですね……」
「だって~……この間の試合の後、話出来なかったから……」
「おはようございます、高松さん!」
「おはようございます……こっちも早いですね……」
「試合の話がしたくって!」
「鈴木先生は来なくていいよ~!」
「何言ってるの!……橘さんこそお邪魔虫でしょう?」
「そんな事無いよ~!…康介さんは私を必要としてくれてます!」
「しょうがなくでしょ!…高松さんは優しいんだから!……まぁ、私はそれも分かってますけどね!」
「何言ってんだか……康介さんの事は、私の方が分かってます!」
「朝から賑やかですね……高松さんが困ってますよ!」
「おはようございます、高木先生」
「おはようございます、高松さん!…どっちも高松さんの事、分かって無い様ですね……高松さんは、今迷惑してます。私が1番高松さんを分かってるみたいですね!」
「何言ってんの!…後から来て美味しい所だけ取ろうとして!」
「こういう時だけ年の功を使うんだから!」
「!?…ぶりっ子、何だって?」
「あら、図星を突かれたかしら?」
「毎回毎回、余計な事ばっかり……」
「本当の事でしょ!…嘘は言ってません!」
「……康介さん、よくこの状況で仕事出来るね?」
「慣れですね……慣れてしまえば大丈夫です」
「でも、あの2人は毎回迷惑だよね!」
「橘さん!…聞き捨てなりませんね!」
「元々あなた達が高松さんに迷惑掛けてたんでしょ?」
「康介さん、独身教師が怖い!」
「「何ですって?」」
「……朝からみんな元気ですね……私はちょっと失礼します」
高松は時計をちらっと見て時間を確認し、職員室を出て行った。
まだ早い時間、高松は6組に行く。崎原1人が登校していた。
「おはようございます、崎原君」
「高松ちゃん、おはようございます!」
「いいですね~……なかなか元気ですね」
「はい、元気が取り柄ですから!」
「ご両親はどうですか?」
「はい、毎日楽しそうです!…父親が資格取ったら今度は自分だって母親が言ってました!」
「はっはっは、それは助かりますね」
「お金の心配も無くなったし、みんな高松ちゃんのお陰です。ありがとうございます!」
「崎原君、ご両親にも言いましたけどね……私は支社長ですよ、利益のある事を優先します。私の利害と崎原君のご両親の利害がたまたま一致しただけです」
「でも、それでも高松ちゃんに助けられたのは事実です!」
「事実は小説より奇なり……そんなに感謝される言われは無いですよ」
「高松ちゃん、家の両親が後でお礼したいって!」
「……遠慮します……私は会社の利益の為にやったんですから……」
「本当かな~……」
「本当ですよ」
「なら……今日、俺を確認しなくてもいいんじゃない?」
「……いつもの崎原君らしくていいですね~……今日はここの講師です。これは講師としての仕事の一貫です」
「何だか上手く誤魔化された気がするけど……とりあえず分かりました。俺は高松ちゃんと約束した様に、元気に学校生活を送ります!」
「はい、お願い致します」
「……今のは講師としてですか?…それとも高松ちゃんとしてですか?」
「今のは……高松康介としてですね」
「はい、分かりました!」
崎原には笑顔が戻っており、前にも増して元気であった。
高松はいつも通りに授業をしていく。相変わらず高松の授業は楽しく、誰もがしっかりと授業を受けていた。
「さて、今日の授業ですが……唐突に、夢は何ですか?……酒巻君」
「俺は……ハンドボールをずっと続けて、母親に楽させたい!」
「いいですね~……では……高橋さん」
「え~……弁護士になりたい!」
「成る程……では、夢を叶える為に今やっている事は?……菅原君」
「……体を鍛えて、毎日走ってます!」
「頑張って下さい……さて、それでは……現在の高齢者と言われる方達の若い頃は、どんな夢を持ってましたかね?」
「……あんまり変わんねぇんじゃねぇかな?」
「私もそう思う!」
「大差無いんじゃない?」
「変わらないよ!」
「そうですか……なら、きっと今もみんなと変わらない様な考えを持っている筈ですね。全部とは言いませんけど、必ず似た部分はある筈です……さて、では……高齢者が好き嫌いを言うと、どうして批判が増えるんでしょうか?」
『…………………………』
「例えば、食べ物の好き嫌いを高齢者が言うと、何故に批判をされるんでしょう?」
「……食べ物が無い時期を通って来たのに、我儘だなって思います」
「そう、それなんです……先入観なんですね。これは物凄く怖いです……いいですか、その先入観で痛い目を見るんです。大丈夫だと思ったというあやふやな答えで、人間は失敗をするんです。逆を言えば、ありのままを受け止め、しっかりと状況把握出来れば、大体は失敗しません。福祉や介護も同じです。その人と話、しっかりと理解する事でいらぬ摩擦は減ります。先入観で人を傷付け無い様に、いいですね」
『はい!』
大切な事を高松は、いつもしっかり伝えている。高松の授業、もしかしたら先生方達の方が実になっているかもしれない。
午前中の授業が終わり、高松は購買で飲み物を買って屋上に行く。12月だというのに、かなり暖かい。高松は屋上で買って来たレモンティーを飲みながら、ゆっくりとベンチに座る。とても気持ちのいい日である。
高松はポケットから個人携帯を出し、インターネットで検索をする。検索ワード、[岸田浩一]で調べる。
岸田浩一のプロフィールが出て来る。
岸田浩一、19××年10月03日生まれ、元ハンドボール日本代表
中学よりハンドボールを始め、高校では全国ベスト4、大学では1年2年4年の時に日本一になっている。卒業後、日本の実業団で活躍し当時のハンドボール日本代表に選ばれる。チームメイトに高松康介·猪狩康夫が居る。
27歳の時、オリンピック最終予選でクロアチアに敗北しオリンピック出場を逃す。
翌年、大型車と乗用車の衝突事故で乗用車を運転しており、帰らぬ人となる。享年28歳。
高松は無言でその記事を読み、大きく深呼吸をした。
「岸田、お前も俺のチームに居て欲しかったよ……」
高松は呟き空を見上げた。何となく昔を思い出してしまうような、優しい暖かい日であった。
高松は高松ですね。




