式典は大好評……
どんな式典になるのやら……
高松達は校長先生が出てから少し待ち、10時を少し過ぎた所で体育館に向かう。
「誰も居ないですけど、大丈夫ですか?」
「居た方が大変だろ?…大丈夫だよ!」
「とりあえず付いて来て下さい」
高松の後に石谷と池本が付いて行く。
「こっちに居て下さいね」
「あれ?……入り口ですよ?」
「そりゃそうだろう……話するのはお前なんだから!」
「はい?……何言ってんですか、トレーナー?」
「そういう事だから、よろしくね」
「ちょっと、高松さん!…聞いて無いですよ!」
「当たり前だ!…言ってないからな!」
「トレーナー、どういう事ですか?」
「簡単だ!…お前は絶対にこの依頼は受けない……しかし、お前が慌てふためく姿を俺は見たい!……後は察しの通りだ!」
「石谷が任せろって事だから、私は乗っただけね……」
「ちょっと~…それは酷いんじゃ……」
「あれ?…池本さん、今日は怒らないんですよね?」
「俺も聞いたな!」
「!!!…………2人が揃うと、もう無理ですね……やるだけやります……」
「面白い事したら、徳井達に話すからな!」
「私は楽しませて貰います」
「……好き勝手言って……2人がただの悪ガキに見えて来ましたよ!」
3人で話していると、引き戸の向こうで話していた校長先生の挨拶が終わった様だ。
「池本、リュック背負ったまま入れ!……みんなベルト見たいと思うぞ!」
「そろそろ開けるよ」
「はいはいどうぞ……なるようにしかならないですからね!」
高松と石谷は引き戸を開ける。池本が体育館に入って行くと、先生方を始め生徒達から一斉に注目を浴びる。高松と石谷は引き戸を閉め、違う入り口から先生方の方に移動した。
池本が入って来ると、凄い歓声と共に嵐の様な拍手が起こった。
「やべぇ、スゲェのが来た!」
「パウンド·フォー·パウンド1位だぜ!」
「憧れるな~!」
「うわ!…大きいねぇ!」
「目付きが鋭い~!」
「迫力あるよね!」
色々な感想が聞こえる。池本は入り口から真っ直ぐに壇上を目指して歩いて行く。池本が壇上に上がると、拍手が一層大きくなる。
池本はマイクの前に立つと、リュックを降ろした。
「みなさん、初めまして……」
「俺は初めてじゃないぞ~!」
「2回目だ!」
「そうだそうだ!」
数名の声が聞こえる。
「ああ、そうか……高松さんと一緒に会った人も居ますね!」
「私の名前は出さなくて結構です……」
「高松さん、聞こえてますよ……成る程……マイクを使って好き放題喋る…………いいかもしれない……」
池本の顔が怪しく笑っている。
「高松、やばいぞ!」
「何で?」
「あいつがあの表情をしたら……ただじゃ済まない……」
「おいおい、話が違うぞ……」
「もう遅い……」
高松は少し不安になってきた。
「え~、今日は式典との事で……あちらに座っている2人、高松康介さんと俺のトレーナー、石谷晃さんに嵌められてここに居ます!」
全員が高松と石谷を見る。
「2人は親友らしいんですが、揃うとろくな事をしない……全くいい年して……」
みんなが笑い出す。
「さて、折角の式典ですので、何か話をしますが……」
池本はリュックからチャンピオンベルトを出した。
『お~~!』
歓声が上がる。
「これが世界チャンピオンのベルトです。なかなか迫力あるでしょ!……これを取る為に、必死に練習したんですよ……さて、俺から言える事は、実は大した事じゃないと思います。やらなければいけない事があり、それをやらなければ夢が叶わないのなら、やる以外に道は無い……誰でも無い自分の人生なんだから、後で振り返った時、納得出来る様に……悔いの残らない事なんて無いんだから、せめて自分で決めたと言える様に……自分の人生、胸張って歩ける様に……俺から言える事はそんな物です。後は………会長が俺が世界戦の時に言ってくれた言葉……[努力した者全てが報われるとは限らないが、成功した者は全て努力している]……今でも耳に残ってますね……当たり前の事かもしれないけど、その当たり前を確認し、その当たり前をしっかりとやって行く……トレーナーや高松さんみたいに、それが出来れば、きっとこれからの人生でしっかりと前を向いて歩けると思います。若いみなさんの前で、こうして話す機会が持てた事、幸運だと思っています。今日はありがとうございます…………さて、話はこれまでです。最後はまた、少し時間を貰うとして、質問がある人、どんと来なさい!」
『お~!』
「池本さ~ん、世界チャンピオンになった時の感想は?」
「遂にやった……そんな感じかな?」
「世界チャンピオンになって変わった事は?」
「……トレーナーがこんな風に、平気で嵌めて来る事かな?」
「おい、池本!…そんなにやってねぇぞ!」
「だそうです……」
体育館内に笑いが起こる。
「池本さんが印象に残った対戦相手は?」
「う~ん……ホプキンスは強かったな、ラリオスも手応え充分……後は…………西田かな…色んな意味でインパクトが強いからな……」
「西田って誰ですか?」
「知らないか……西田拳闘会ってボクシングジムの会長だな!」
「そんなに凄いんですか?」
「凄いぞ……現役の時は、それなりだったが……トレーナーになった辺りから素が出て来た感じだな……セコンドに付ければ選手が困る様な事言うし、ミット持てば選手より先に根を上げるし、作戦立てても理解してねぇし、祝勝会やれば人の彼女を勝手に呼ぶし……あいつには数え切れねぇくらい迷惑掛けられてるな!」
「そんな人が会長で大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ!…篠原さんて名トレーナーが居るからな!……そもそも、やるのは選手だ。選手が頑張れば問題無い!」
「池本さん、期待の選手は?」
「うちのジムの佐伯、西田の所の甲斐は期待だな!……徳井は期待と言うより、安心して見てられるな……徳井は強いぞ!…近い階級で、あいつとまともにやりあえる奴が何人居るかな……手塚や喜多でも徳井は厳しいな……」
「池本さんと徳井さんは、どっちが強いですか?」
「……難しいな……階級も違うし、選手としての時期もずれてる……まぁ、それぞれの意見に任せるよ!」
「池本さんの彼女、どんな人ですか?」
「……答えを間違えると、俺が困りそうだな…………普通にいい人だよ、怖いけど……」
「トレーナーとどっちが怖いですか?」
「いい質問だ!…俺も聞きてぇぞ!」
「うわぁ……ここは全力でスルーします……」
「あっはっは、池本さんでも焦る事あるんですねぇ」
「高松さん、笑い過ぎ!」
全員の笑い声が聞こえる。
「さて、そろそろ時間ですかね……では、俺をまんまと嵌めた2人……石谷トレーナーはいいとして、高松さんについて!」
「!?……考えたのは石谷ですよ?」
「トレーナーは昔から変わりませんからね……高松さん、俺を嵌めたんだから、覚悟はいいですか?」
「……やだなぁ……覚悟なんて出来ないですよ」
「出来ても出来なくても大丈夫です……ふっふっふ…………高松さんの経歴は」
「!!…待った、それは本当に待って下さい!」
「……聞こえませんなぁ」
「いやいやいや、答えてるでしょう?」
「俺にマイクを持たせたんだ……諦めて下さい!」
「それはそれ、これはこれです!」
「……生徒諸君、高松さんを押さえて下さい!」
『分かりました!』
座っていた生徒達が何名も立ち上がり、高松をみんなで押さえ付ける。
「動けまい!」
「こら!…離しなさいって!」
「はっはっはっは、手も足も出まい……高松さんは」
「だからダメだって!」
高松は体を無理やり動かし、押さえ付けられていた手を強引に振りほどく。
「うわぁ、高松さんスゲェ!」
「池本さん、冗談が過ぎますよ!」
高松がある程度前に出て来る。
「すいません、言いません!」
「よろしい!」
「……みなさん、分かりましたか?……高松さんを怒らせたらダメですよ!」
『よ~く分かりました!』
「……そんなに怖くないでしょう……」
高松は少し困った顔をしていた。
式典はこのまま、楽しく終了した。校長先生から改めて、楽しい式典になったとお礼を言われ、高松は石谷と池本を駅まで送って行った。
帰って来た高松を、橘·高木先生·鈴木先生が待っており、高松の経歴についてしつこく聞いてきた。
「そのうち話しますよ……池本さんは、石谷に聞いたんですよ、きっと……」
高松はいい訳をしながら、職員室から逃げる様に出て行った。
最後はらしかったですね……
まぁ、楽しい1日になったかな?




