高松の1日は終わらない…
まだまだ、高松の1日は終わりません……
高松は高木先生と歩いていた。すぐに後ろから加藤先生が息を切らして走って来る。
「高松さん、男子部からコーチの日を増やして欲しいと言われました!」
「それは難しいですね」
「女子部もお願いしたいんですけど…」
「…2人共、自分達でしっかり指導して下さい」
「検討して頂けませんか?」
「なんなら私、高松さんと付き合ってもいいですよ!」
「いまいち先が見えませんね…とりあえず、手が空く事があれば手伝います…なかなか空きませんけどね…」
「「ありがとうございます!」」
高松の会社携帯が鳴った。見た事もない番号である。
「すいません、電話ですので、先に職員室に戻っていて下さい」
「分かりました、高木先生、行きましょう!」
「先行ってますね、高松さん!」
高松は右手を上げ、2人から離れる。
「はい、高松でございます」
「あ、康介さん?私アリス!」
「橘さん?…なんで番号知ってるの?」
「名刺に書いてありました!」
「ああ、そうだったね…何か用ですか?」
「特には無いですけど、今日の康介さん格好良かったから電話しちゃいました!」
「…ありがとうございます…でいいんですかね?」
「はい、大丈夫です!」
「…それだけですか?」
「ダメですか?」
「ダメではないですけど…私と話しても退屈でしょう?」
「そんな事ありません!…康介さんと話すのは、楽しいですよ!」
「そうですか…まぁ、それならいいんですけどね…」
「康介さん、何で初めて会った時と話し方が違うの?」
「ああ、これは仕事用です。仕事とプライベートで切り替える為に言葉使いを変えています」
「そうなんだ〜、なんだか凄いね!」
「気のせいでしょう」
「ねぇ、康介さん…今度デートしようよ!」
「…あまり人をからかうのは、関心しませんね…」
「からかってないよ!」
「ならば余計にダメです」
「何で?」
「橘さんは私が他の大人と違うから興味を持っているだけです…きっとがっかりします…」
「そんな事ないよ〜、康介さん、この前のお礼も兼ねて!」
「…検討しておきます…」
「お願いします…そういえば、康介さん!…私の事、アリスって呼んで下さい!」
「…それは出来ません…」
「え〜、いいでしょう?」
「それは、どんなに頼まれても無理ですね」
「ぶ〜…康介さんの意地悪!」
「…はい、それでいいです」
「良くないよ〜!」
「とりあえず、用事が済んだのなら切りますよ」
「あ、待って!…康介さん、悩んだら相談してもいいですか?」
「構いませんよ…出来れば、時間だけは気にして下さいね」
「はい、分かりました!…それじゃあ、また学校で!」
「はい、怪我等には注意して下さい」
「はい!」
高松の携帯は切れた。
高松は職員室に入っていく。
「高松さん、電話、大丈夫でした?」
「ああ、大した用事ではありませんでした」
「加藤先生は先に帰られました!」
「そうですか…」
「…高松さん…ハンドボール、やってたのはちょっとではないですよね?」
「たいしてやっていませんよ…少しかじった程度です」
「…男子との練習試合、凄かったじゃないですか?」
「たまたまですよ、たまたま…」
「高松さん…本当の事言って下さい!」
「??…本当の事ですよ…私は少しの間しかやっていないと認識しています」
「そうですか…まぁ、後々話は聞かせて貰いますけどね!」
「どうぞ、特に嘘をついてる訳でもありませんので、いつでもいいですよ…まぁ、暇があればですけどね…さて、帰りますか?」
「はい!」
2人は駐車場まで歩いていく。
「高松さん、今日はこれからどうするんですか?」
「実家に帰ります。明日、用事がありますので」
「夕食は?」
「何処かで食べていきます。実家に行く途中で」
「…私もご一緒していいですか?」
「構いませんけど、大丈夫ですか?」
「何がですか?」
「彼氏とかは…」
「いませんので気を使わないで下さい!」
「…失礼な事を聞いてしまい、申し訳ありません…」
高松は頭を下げた。
「辞めて下さい!…全然気にしてませんから!」
「いや、失礼な事には変わりありません…」
「…なら、私と付き合って貰えますか?」
「!?」
「……なんてね!…高松さんの驚いた顔、初めて見ました!」
「…それは良かったですね…」
「あ〜、少し拗ねてませんか〜?」
「…お好きに捉えて下さい…食事はどうします?」
「行っていいなら行きたいです!」
「分かりました…言っときますけど、定食屋ですよ」
「私、定食屋さん大好きです!」
「…これは本当の様ですね…」
「え〜、さっきのも本当ですよ〜!」
「…そういう事にしておきます…」
「とりあえず行きましょう!私、付いて行きますからね!」
「はい」
高松は定食屋に向かって車を出し、高木先生は後を付いていった。
とある駐車場に入っていく高松、高木先生も後に続く。
「ここです。入りましょう」
高松を先頭にし、2人で入って行った。
「いらっしゃい…何だ、康ちゃんか!」
「ご無沙汰です!」
「綺麗な女性だね…彼女かい?」
「だったらいいんですけどね…残念ながら違いますよ…俺は独身真っしぐらです!」
「そうなの?…そちらのお嬢さんはどう?康ちゃんいい男だよ!」
「え、あの…その…」
「困ってるでしょ!昔っからマスターは押しが強いんだから!」
「そうかい?俺は康ちゃん好きだけどな!」
「ありがとうございます、そう言ってくれるのはマスターだけです!」
「ところで何食べる?」
「高木先生、何がいいですか?」
「高松さんのオススメは?」
「俺のオススメでいいんですか?」
「はい!」
「そうですか…マスター、いつもの定食2つ!」
「はいよ、ちょっと待っててね!」
「高松さん、いつもの定食って?」
「特製定食、裏メニューってやつかな…ここのマスター、親父の友達なんだ…高校からの親友、俺も小さい頃からよく知ってる人なんだ…」
「そうなんですか…それより高松さん、言葉使いが変わってますよ!」
「ああ、仕事は終わりましたからね…ここからは、ただの高松です。おかしいですか?」
「いいえ、そっちの方がしっくりきます!」
「ありがとうございます」
2人が他愛の無い話をしていると、食事が運ばれて来る。
「特製定食お待ち!」
「ありがとうございます!」
「凄〜い、とんかつとトンテキが半分ずつで、更に唐揚げも〜!」
「今日は2人だから、作りやすかったよ!…この次も2人で来なよ!」
「はい!…高松さんが嫌だって言っても付いて来ます!」
「それがいいね!」
「2人で盛り上がり過ぎです。マスターも調子がいいんだから!」
「まあまあ高松さん、食べましょう!」
「「頂きます!」」
2人は定食を食べ始める。
「おいしい〜!え、なんで唐揚げがこんなに柔らかいの?…とんかつもトンテキもおいしい〜!こんなお店が近くにあったなんて〜!」
「はいはい、とりあえず食べますよ!」
高木先生は感激しながら食べ終え、高松は普通に食べた。今回は高松が奢る形になった。
「高松さん、奢って貰う形になってすいません…」
「いや、気にしないで下さい。俺も楽しかったので!」
「…今度は私が奢りますね!」
「奢るのはいいですよ…また機会があったら、食事にでも行きましょう」
「はい、お願いします!」
高松は高木先生に頭を下げ、車で実家に向かった。
高木先生も車で自分の家に向かったが、高木先生はかなりのご機嫌である。
(機会があったら、また食事に行ける…高松さんとお出かけ…えへへ!)
高木先生はあまりにご機嫌で車を運転していて、曲がる所を過ぎてしまい、更に渋滞に巻き込まれ、帰りが遅くなったが終始笑顔であった。
家に帰ると母親から食事を食べて来るなら連絡をする様に強く言われたが、ずっとニヤニヤしていた高木先生、
「気持ち悪いから辞めなさい!」
母親に言われ、表情が大分緩んでいた事に気付いたのは、言うまでも無い。
高松、所用は何ですかね…