高松と工藤、時々高藤?
高松がこの仕事を始めた頃……
高松と工藤は入社した時期が近い。年も1歳違いで工藤の方が上ではあるが、高松の方が先に働いていた。ただ、高松はヘルパーとして働いており、高松が働き出して3カ月程で工藤が中途社員として入社してきた。
工藤が着任になったのは、高松が働いていた事業所であった。
工藤はサービス提供責任者として勤務するが、なかなか上手く行かず、苦労の日々が続いた。
そんな時、高松の予定されていたサービスがキャンセルとなり、たまたま内勤者が欠勤となり、工藤は高松に事務所の仕事を依頼した。
てきぱきと仕事をこなす高松、工藤は高松の仕事振りを認め、この日から空いた時間に高松に事務所の仕事を頼む事が多くなる。
ある日、高松のサービスがご利用者の御逝去や急なキャンセルにより殆ど無くなってしまった為、工藤は高松に事務所の仕事を依頼した。その日の午後、工藤の様子を見に来た高藤が高松の働き振りを見る。
「工藤さん、こちらは?」
「高松さんです。ヘルパーなんですけど、今日はサービスが無くなったので、事務所の仕事を手伝って貰ってます!」
「高松です。よろしくお願い致します」
「初めまして、高藤です……高松さん、社員になりませんか?」
「社員ですか?……私で勤まりますかね?」
「はっはっは、今やっている事をやるだけですよ!……ねぇ、工藤さん?」
「はい、高松さんなら大丈夫です!」
「そうですか?」
この時の会話が事の発端となり、高松は高藤の推薦もあり、社員になった。高藤曰く、高松を他の会社に取られたらかなりの痛手だそうだ。
高松と工藤が一緒に働き出して数ヵ月、新しい事業所を立ち上げる事になり、2人は共にリーダーとして着任する事になる。
立ち上げは大変であった。机や椅子の発注や車のレンタル、パソコンのレンタルに駐車場を見付けて契約まで、高松と工藤は協力しながら進めていく。勿論、事業所の宣伝も忘れない。夜中まで2人で作業をする事も何度もあった。
高藤は当時部長であったが、2人の頑張りを聞いて度々手伝いに来ていた。当時の管理者は、面倒な仕事はこの2人に任せていた。
後に、この管理者は降格になり、自主退職という形で会社を去る事になる。
高松と工藤は、がむしゃらに働いた。それは、事業所が開所されてからも変わらず、2人の頑張りで新事業所はすぐに大きな利益を出す事になった。
高藤から誘われ、高松と工藤は高藤と3人で夕食に行った。高松達が行ったのは、海鮮の美味しい飲み屋もやっている所であり、定食なんかもある。高松達は席に案内される。
3人は定食と、気になる一品料理を何品かとソフトドリンクを頼み、ソフトドリンクで乾杯をした。
料理が運ばれて来ると、食べながら色々と話した。
「高松さん、工藤さん、やりましたね!…会社始まって以来の快挙ですよ!」
「何かあったんですか?」
「快挙って言うくらいだから、凄い事ですか?」
「2人共、のんびり過ぎますよ!……たった3カ月で月の売上800万ですよ!……凄い事ですよ!」
「いまいちぴんと来ませんね……」
「基本が分かりませんからね……」
「基本ですか……うちで1番売上が有る事業所が月に1200万です……もう10年以上やって、ようやくですよ!」
「成る程……確かに凄く聞こえますね!」
「実感は無いですけどね……」
「2人は、どうやったんですか?」
「どうやったと言われましても……」
「普通にやっただけです……」
「普通って……どんな事を毎日してるんですか?」
「毎日……高松さんと話してます。サービスの事からご利用者の事……営業の仕方やヘルパー研修の仕方なんかを……」
「確かに工藤さんとよく話してますね。お互いに納得しないと、自信を持ってケアマネなんかに話出来ないですからね……時に日付が変わるまで話してます」
「日付が変わるまで?」
「それでも納得いかない時は、そのまま24時間やってるファミレスで話してますよ!」
「工藤さんがなかなか頑固で……なかなか折れないんですよ」
「高松さんのが頑固です!……自分の事は棚に上げて!」
「工藤さんには敵いませんよ」
「そっくりそのまま返します!」
「成る程……2人共に頑固なんですね!」
「「……そうなりますかね」」
この時、高藤は2人の仕事の仕方が何となく分かった。
この後も2人は、会社の期待以上に結果を残す。売上·経常損益の大幅アップや地域への浸透、ケアマネや地域包括との連携等に注力を注ぎ、会社を盛り立てて行った。
2人の活躍は本社でも評判となり、2人の昇進の話が持ち上がる。
ここで、2人の仲を別つ出来事が起きる。
当時の理事が高松と工藤に昇進の話を持ち出し、どうして売上を伸ばしたのかを聞いて来た。この理事は高藤が嫌いであり、どうにか高藤の手柄を横取りしたかったのだ。
これに対し、高松は元々昇進する事に興味が無く、全く手応えが無かった。
しかし、工藤は昇進の話に心が揺らいでいた。
入って1年弱、それでいて管理者になれたら、それは凄い事である。しかも、高藤より上役から言葉を掛けられたのだ。心が揺れない高松の方が異常かもしれない。
結果、工藤は高松と高藤を裏切る様な形になり、高松は高藤を裏切った工藤が許せなかった。それ以来、高松と工藤の距離は急激に開き、高松は工藤が嫌いになった。
どちらの考えも分かるが、だからこそ、2人の距離は開いて行った。
そして、長い年月は更に2人の距離を広げ、いつしか2人は、会話をする事が無くなっていた。
………………
「高松さん、何だか昔に戻った感じです!」
「私も懐かしい感じがします」
「何でこんな事が、私は分からなかったんですかね……」
「しょうがないんじゃないですか?……昇進は誰でもしたいですからね」
「しかし……高松さんが近くに居たのに、私は分からなくなっていた……」
「さっきも言いましたが、私は珍しい方の人間ですからね」
「……でも、結果的に会社への貢献は……高松さんの方が大きいです………私は、今まで何をしてきたんだか…………」
「工藤さん、気が付いたならやり直せばいい……遅い事は無いですよ、今の工藤さんなら大丈夫でしょう……」
「高松さん……また、一緒に働きませんか?…本社で一緒に!……私の上司として!」
「……遠慮しておきます……今の立場も、結構楽しいんですよ………それに、今の役職も出来れば降りたいくらいですからね……」
「何でですか、高松さん?」
「現場と離れると、本質的な問題が見えなくなるんです……だから、私は田中支配人を始め、他の社員との時間を作っています………本社では、なかなかそうはいきません。高藤さんみたくはなれそうもありません……誰かが現場を理解しないと、誰も居なくなっちゃいますからね……」
「……だったら、私が高藤さんを目指します!…高松さん、また私に、協力してくれますか?」
「愚問ですね……今の工藤さんなら、嫌と言われても協力しますよ」
「ありがとうございます、高松さん!」
この日を境に工藤の仕事への取り組み方が変わる。
研修終了後、高藤は工藤の変化に気付き、口元を緩めた。どうやら、高藤の思惑通りになった様だ。
この後、工藤は高藤に昔の経緯を話し、高松の評価の見直しを直訴したが、
「高松さんには、そんな物必要ありません。今の工藤さんを見れば、高松さんの功績は分かります……それより工藤さん、高松さんは工藤さんにとって、大切な人ですね!」
どうやら、高藤は全てお見通しの様だ。
高松と工藤、それに高藤、昔の様に色々な話をしながら夕食を食べる姿が見られるのも、そう遠くない未来かもしれない。
何やら仕事も楽しくなりそうです。




