高松の研修……
高松は仕事でも忙しそうです。
土日と大会に参加するメンバーで練習をした高松、月曜日は何処か元気であった。いつも通りに出勤し、いつも通りにパソコンを開いて仕事をしながら、他の者の出勤を待つ。
「おはようございます!」
「よろしくお願いします!」
「今日もお願いします!」
続々とみんなが出勤してくる。高松は1人1人に挨拶をしながら、自分の仕事を進める。もうすぐ9時になろうかという時、
「おはようございます、今日もお願いします」
「遅い!…研修を受ける者が1番遅いのはどうしてですか?」
出勤して来た工藤を高松は一喝した。
「いや、時間は間に合ってますよ?」
「なら、9時きっかりには、仕事の電話の1本くらい出来ますね?」
「…いや…ちょっとそれは……」
「上長が手本にならなくてどうするんですか?……上の人間がしっかりとやらなければ、誰も付いて来ません。それが分からないなら、すぐに本社に帰って下さい」
「……すいません、高松さん……明日からはもっと早く来ます……」
「遅かったら、追い返しますからね」
「……気を付けます……」
高松の一喝に課員達は驚いたが、余りにも高松の言葉が最も過ぎて、みんなが笑ってしまった。
「……笑われるくらい当たり前の事ですからね、工藤さん……」
「はい、すいません……」
高松は気を取り直して朝礼を始めた。本日も新規の契約や初回サービス等があり、なかなかに忙しい。その合間に田中支配人の研修をする高松、自分が居ない時の為に要点をまとめた[高松虎の巻]を田中に渡し、自己研鑽を促す。
自分からやる気を出させ、自分で考えて行動させる。高松の研修はこれが基本である。その為、高松が教える人物は勝手に学習し、勝手にレベルアップしていく。高松の意外な才能かもしれない。
そんな高松に付く工藤は、高松の凄さをまざまざと痛感する。
自分がなかなか上手くいかない、育てる事を高松は簡単にやって退けている。更には、売上·経常損益のアップも平行してやっているし、何より、支配人になったばかりの田中が、売上·経常損益のアップの為の策略を自分で考え、高松と話し合っている。
支配人になったばかりの者が、そんな事をしているのを工藤は見た事が無い。工藤は高松と自分を比較し、自分の不甲斐なさを痛烈に感じた。
午後になり、高松は市役所に用事がたる為、工藤の研修を一時的に田中にお願いし、高松は事業所を出た。
「田中支配人、パソコンやりながらでいいので、少しお話いいですか……出来れば、本田リーダーもお願いしたいんですが……」
「構いませんよ」
「私も大丈夫です!」
「ありがとうございます……高松さんに無理矢理何かやらされてる事は無いですか?」
「大丈夫ですか?工藤さん?……高松さんはそんな事しませんよ!」
「いつでも部下やご利用者、ご家族を先に考えて、自分の事はいつも後回しですね!」
「ここだけの話として、何かありませんか?」
「無いですよ!…コンプラだっておかしいと思ってたんですから!」
「嫌な事を誰よりも先にやってる高松さんを、何で変な風に言うんですか?」
「いや…そういう訳ではないんですけど……高松さんの評価が凄い高いんですけど………みなさんには負担が掛かって無いか心配で……」
「だったら、高松さんの負担を減らして下さい!…高松さんが倒れたら、会社としても大ダメージですよ!」
「工藤さん、高松さんの悪い所を見付けるくらいなら、高松さんのいい所を真似したらどうですか?」
「…………………………」
「高松さんの評価が高いのは当たり前です。逆に、まだ低いくらいです……高松さんより工藤さんのが役職は上かもしれませんが、高松さんを悪く言うなら、許しませんよ!」
「1つだけ、高松さんに直して欲しい所があります」
「本田さん、それは何ですか?」
「仕事が多くなっても、私達をなるべく早く帰して、自分1人で片付けてしまうんです……もう少し、私達にも手伝わせて欲しいです。家族だって分かってくれます!」
「…………高松さんがどんな人か大体分かりました……素晴らしい、理想の上司ですね……もしかしたら、高松さんにあんなに怒られたのは、私だけかもしれませんね……」
「多分そうですね」
「私も見た事無いです」
「……私、高松さんに付きながら……自分の今までを反省します……高松さんは許してくれるでしょうか?」
「高松さんは、分かってくれる人ですよ!」
「工藤さん、高松さんを見習って下さい!」
「お2人共……ありがとうございます……」
工藤は2人に頭を下げた。
高松が市役所より戻って来る。
「田中さん、工藤さんの研修ありがとうございました。私は居宅と訪問看護の所に回りますので、工藤さんと出ます……何かあったら、携帯に連絡して下さい……では、工藤さん行きますよ」
「はい、高松さん、よろしくお願いします」
「気を付けて下さいね!」
「行ってらっしゃい!」
「ありがとうございます」
高松は工藤と事業所を出て、高松の運転で居宅に向かう。
「高松さん……」
「はい、何ですか?」
「まずは、コンプライアンス委員会の事……誠にすみませんでした……」
「いやいや、こちらこそ……その後に強く言ってしまい、申し訳ありません」
「いえいえ、高松さんが謝る事は無いです……私、今まで何か勘違いをしていた様です……上に上がる事ばかりを考えていた……」
「悪い事では無いんじゃないですか?……あんまり昇進に興味が無い方が珍しいと思いますよ」
「ありがとうございます……でも、上に上がった所で……周りが付いて来なければ、何も出来ません……痛感してます……」
「……工藤さん、昔、一緒にやってた頃に戻って来ましたね……もう大丈夫でしょう……」
「高松さん……」
「昔は、2人でいつもどうしたらいいかを話してましたよね?……そして、部下や末端で汗を流している人が居るから、我々が我々の業務を出来る……2人で話した結論です……それさえ思い出せば、大丈夫でしょう」
「高松さん、あの時の報告……今から訂正します!……高松さんに正当な評価をお願いして来ます!」
「それは辞めて下さい!…私は昇進に興味か無いんです……珍しい方の人間なんです……」
「高松さん、昔と変わらないですね!」
「工藤さんも、段々戻って来ましたよ!」
「「あっはっはっはっは!」」
高松と工藤は、本当に久しぶりに、2人で心から笑った。昔の仲の良かった2人の様である。
高松、なかなかいい上司みたいですね。




