高松の捉え方……
まだまだ続くインターハイ。
今日はどうですかね?
高松は翌日、インターハイハンドボールの会場に足を運ぶ。男子は今日、神奈川商工と試合である。優勝候補の一角であり、高松の時代から関東トップクラスの実力を維持している。更に言うなら、高松の前の世代から関東トップクラスであり、全国でもトップクラスである。
高松はこの時、贔屓目無しに五分五分だと思っていた。
後は、場面場面でどう対応していくか、選手個々の対応力に掛かっている。高松は何を話すか、少し考えていた。
「高松さん、おはようございます!」
「今日も早いですね!」
「おはようございます……みんなは何処ですか?」
「あっちで準備してます!」
「今日は強豪が相手ですからね!」
「そうですか……」
高松は部員達の元へ移動する。加藤先生、高木先生は高松の後に付いていく。
高松を見付けると、城北学院の部員達は高松の元に走って来る。
「おはようございます、よく眠れましたか?」
『はい!』
「今日は強豪と対戦ですが、条件は向こうも同じです。やる事は変わりませんので、いつも通りにいきましょう」
『はい!』
「1つだけ、私と約束して下さい……試合中に下を向いてプレーを放棄する様な態度は絶対にしない……約束出来ますか?」
『はい!』
「よろしい……さあ、しっかりとアップして下さい」
『はい!』
部員達はアップを始めた。高松は加藤先生と高木先生をチームから離し、話をする。
「いいですか……今日は下手をすると、途中で試合が決まってしまいます……絶対に下を向かせないで下さい」
「分かりました!」
「……高松さん、下を向くと何でダメなんですか?」
「……いい質問です……下を向く事は、戦意喪失に見えます。相手が元気になりますよね……更に言えば、下を向いていたら、チャンスが見えなくなります……戦えませんね……」
「下を向く事で、そんなに不利益な事があるんですね……」
「ですので、今日は下を向いたらすぐに交代です……ベンチも大変になりますよ……」
「分かりました、頑張ります!」
「明日も試合が出来る様に、最善を尽くします!」
「……とてもいい返事ですね……頑張りましょう」
「「はい!」」
女子の試合が始まる。
女子の対戦チームは、愛知県の名古屋西高校であり、春の選抜で3位の高校である。全国でも名前が通っている学校である。
前半、名古屋西が速いパス回しからシュートを放つがGK港がこれを防ぎ、ワンマン速攻へと繋げ先制点を奪う。
ここから試合は激しくなっていく。
城北学院がいいプレーで点を決めれば、名古屋西も点を入れ返す。
GK港かファインセーブを見せれば、名古屋西のGKも負けじと城北学院のシュートを止める。
どちらもなかなか自分達のペースに持っていく事が出来ず、一進一退の攻防が繰り広げられ、前半を11-11で折り返す事になった。
ハーフタイム、高木先生から話をされるがいまいち話がまとまらない。
「やる事は何ですか?……磯貝さん?」
「はい、最後まで下を向かず、自分の出来る最善のプレーをする事です!」
「みんな分かってますね!」
『はい!』
「……後半、期待してますよ」
『はい!』
城北学院はコートに戻って行った。
「ありがとうございます、高松さん!」
「……落ち着きましょう。我々は見守るのみです……」
「はい!」
後半が始まる。
後半も試合展開は前半と変わらない。どちらも譲らず熱いプレーを見せている。
後半15分、試合に動きが出る。
城北学院のディフェンスの際、足が縺れてしまい、相手と一緒に転倒してしまう。これが2分間退場となり、城北学院は2分間、1人少ない状況でプレーする事になる。
この時間に名古屋西に連続得点を許し、3点差を付けられる。
2分間が過ぎ、退場者が戻って来ると互角の戦いになるが、なかなか点差が縮まらない。
後半28分過ぎ、点差は2点差で名古屋西リードである。
ここで名古屋西のシュートをGK港がしっかり止め、速攻で1点を返す。残り時間は1分名古屋西の攻撃、なかなか厳しい展開である。
名古屋西は時間をフルに使い、1点を取る作戦の様である。
ゆっくりとボール回しをし、ゆっくりと時間を使っていく。
焦りを我慢出来ず、痺れを切らしたのは城北学院であった。
パスを無理にインターセプトしようとした時に名古屋西がスピードを上げ、一気に攻めて来る。結果的に1人少ない状況でディフェンスをする城北学院だが、守備は乱れている。ゴール前にカットインされ、しっかりとシュートを決められた。
これが致命的となり、結果、24-22で城北学院は名古屋西に敗れた。
続いて男子の試合である。相手は後藤監督率いる神奈川商工である。
前半、神奈商は怒涛の攻撃を仕掛けるが、城北学院はGK梶山を中心に守っていく。守りからリズムを作ろうとする城北学院と攻撃からリズムを作る神奈商は真っ向からぶつかる。
守って速攻をし、得点を重ねる城北学院に対し、セットプレーで色々な事をし、得点を重ねる神奈商。両チームともGKがしっかりとシュートを止め、試合は激しさを増していく。
なかなか点差が開かず、両チームにとって我慢の試合となり、前半12-11と神奈商の1点リードで後半を迎える。
ハーフタイム、加藤先生が話をする。
「気持ちを強く、やる事をもう一度確認しましょう!」
『はい!』
「加藤先生の言う通りです……自分達が出来る最善のプレーですよ」
『はい!』
選手達はコートに戻っていく。
「高松さん、何とか勝たせて上げたいですね……」
「そうですね……」
後半戦が始まる。
後半は城北学院が先制する。そこからの展開は前半と大差ない物となる。どちらも自分達の出来る事をしっかりとやり、試合に出ている者が最善のプレーをしている。
白熱している試合も後半を半分過ぎる。
両チームがお互いの特色を存分に出し、点差はなかなか開かない。
熱い中の試合とあって、お互いが体力を削られていくが、気合いで両チームとも乗り切っていく。
残り時間5分、神奈商の1点リード。
城北学院はお互いに落ち着く事を声掛けし、しっかりとプレーに集中する。
神奈商は色々仕掛けるが、なかなか城北学院が乗って来ない為、決め手に欠けている。とはいえ、そこは神奈川商工である。しっかりと1つずつのプレーをこなしていき、自分達のリズムは崩さない。
試合は拮抗したまま、残り時間1分となる。点差は神奈商の1点リード、ここで高松は右手を上げた。
しかし、このサインが梶山に届く事はなかった。
梶山には、この試合展開に余裕を持つ事が出来ず、高松の読み通り城北学院のシュートを止めた相手GKは、すかさずワンマン速攻のパスを出した。
これが見事に通り、しっかりと1点を決められ、試合は決した。
トータルスコア23-21、神奈川商工の勝利となり、城北学院のインターハイは、男女共にベスト16となった。
男女共に高松の元に走って来る。全員の目が赤い。
「……よくやりました……と言って、納得は出来ないでしょう。それは、それぞれが1番よく分かっている筈です……負けた事はいつか財産になります。これからみなさんがどう進むか分かりませんが、今日の事は必ず役に立ちます。今日の事を絶対に忘れないで下さい」
『はい!』
城北学院は宿舎に戻る。
実に惜しい試合であったが、これが現実である。高松は空を見上げた。
「なかなかに、人生は厳しいなぁ……」
ポツリと呟き、高松はホテルに戻って行った。
試合には負けてしまいましたが、いい経験でした。




