世界を知る者達……
高松と橘のお出掛けはまだ続いています。
高松と橘は大学を出て、近くの定食屋に入って昼食を摂った。高松が大学時代によく通った店である。
定食屋のご主人は息子に代替わりしていたが、味は変わらず美味しかった。
高松と橘は話ながら歩いていた。
高松は不意に人にぶつかった。
「おっと、申し訳ない」
「痛い、痛い痛い痛い痛い!」
「これは骨が折れてんじゃないか?」
「慰謝料貰わないとな!」
見るからにチンピラである。チンピラ3人に絡まれた。
「兄ちゃん、慰謝料よこせや!」
「10で許してやる!」
「10でいいんですか?……では、これで」
高松は財布から10円玉を出して渡そうとした。
「舐めてんのか!」
「あれ?……肩が折れてるんですよね?」
「うるせぇ、10万で許してやるって言ってんだよ!」
「それとも何か?……そっちのお嬢さんで許してやろうか?」
「……どっちもお断りですねぇ……無かった事にしましょうか?」
「訳分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ!」
「痛い目見せてやろうか?」
「ほう……痛い目ってのは、どんな感じなんだ?」
チンピラ2人の肩を組んで、1人の男が間から顔を出した。
「俺も知りたいなぁ……教えてよ!」
もう1人の肩を後ろから押さえて、もう1つ顔が出て来た。
「これはこれは、池本さんに徳井さん」
「ご無沙汰してます、高松さん!」
「俺達も参加していいですよね!」
「別に構いませんけど……彼等は痛い目に合う気は無いと思いますよ」
「そんな事無いでしょう、痛い目に合わせるという事は痛い目に合う可能性がある……常識でしょう?」
「そうですよ、こんな当たり前は誰でも分かりますよ!」
「そうだよな、徳井……ギブアンドテイクだよな!」
「ちょっと違うかもしれないですけど、そうですよね、池本さん!」
「……その悪乗りは石谷そっくりですねぇ……さて、3人共、どうしますか?……私1人でも痛い目を見る可能性が高いのに、100%痛い目に合いますねぇ……世の中に絶対という言葉は無いと思ってましたが、これは絶対ですね……」
「「「……………………」」」
3人の顔が青ざめている。
「謝るなら今のうちですよ……今なら間に合います」
「ちょっと高松さん、もう遅いんじゃないですか?」
「手遅れですよ!」
「いいえ、まだ大丈夫ですよ……力での解決は最後の手段です……さて、どうしますか?」
「きょ、今日の所は……」
「悪いのはそっちだよな?」
「答え方次第で、高松さんに関係なく対応するけど?」
「!?……俺達が悪かった!」
「もうしません!」
「ごめんなさい!」
3人は走って逃げて行った。
「ありがとうございます、池本さんに徳井さん」
「いえいえ、それよりそっちのお嬢さんは大丈夫ですか?」
「はい……大丈夫です、ありがとうございます……」
橘はお礼を言いながら高松の右腕を掴んで、少し後ろに隠れた。
「大丈夫ですよ、橘さん……この2人は私の知り合いで、私の親友の教え子の様な物です」
「しょうがないですよ高松さん、徳井は無法者に見えますからね!」
「いやいやいや、池本さんの方が絶対に怖く見えますよ!」
「そんな事はない!……俺は優しさが滲み出てるだろ!」
「絶対怖いですって!」
「……2人共怖いですよ……普通はあんな絡み方しないですからね」
「大丈夫です、康介さんが居れば怖くないです!」
「何だかんだで高松さんだよね!」
「まぁ、そうでしょうね!」
「……何か勘違いしてませんか?」
「多分、勘違いはしてないよな!」
「そうですね、そこは池本さんの言う通りだと思います!」
「さて、我々はこれで失礼します」
「たまには石谷チーフに連絡して下さいね!」
「それは約束します。ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
橘は高松の後ろから顔を出し、お礼を言った。
池本と徳井は軽く手を上げて去って行った。
高松と橘は近くのデパートに歩いて行く。
「康介さん、あの2人を知ってるみたいだったけど……」
「さっきも言ったけど、私の親友の教え子ですよ」
「どんな2人なの?」
「ああ、そうですよね……あの2人はボクシングの世界チャンピオンですよ……世界ミドル級4団体チャンピオンの池本純也さんに、WBC世界ライト級チャンピオンの徳井清隆さん……凄い2人です」
「凄い……そんな2人と知り合いなんですか?」
「はっはっは、親友が優秀なんですよ……私の手柄では無いですよ」
2人はデパートに入って行く。
橘はネックレスを見ながら高松に話し掛けている。
「なんか、さっきの人達と康介さん……同じ様な匂いがする」
「??……臭いますか?」
「そうじゃなくて……上手く言えないんだけど……何だか他の人とは違う様な……」
「確かにあの2人は違いますね、世界一ですからね……でも、私は普通ですよ」
「そうかなぁ……康介さんは他の人とは違うよ!」
「……どう違いますか?」
「う~ん……見てる位置というか、見方というか……」
「……多分、気のせいですよ」
「違うと思う……例えばなんだけど、ナスカの地上絵があるでしょう?」
「はい、ありますね」
「昔は空を飛べなかったから、何か分からなかったんだけど……飛行機とか出来たら分かったでしょう?」
「確かにそうですね」
「私達や周りの大人は、目の前の事にどんどん近付くけど、康介さんは距離を取ってしっかりと把握してる感じ……みんなより先に行ってる感じかな……」
「なかなか難しいですね……まぁ、いつかは分かる時が来ますかね」
「その時は、ハンドボールの事も踏まえて教えてね!」
「……そうですね、その時が来ましたら教えますよ」
「えへへ、ありがとう!」
「それより、そのネックレス気に入ったんですか?」
「そうなんだけど……5000円は高いかな……」
「そうですか、それでは」
高松は橘が見ていたイルカのネックレスを購入し、橘に渡した。
「え?……こんなに高いの悪いよ……」
「はっはっは、テストの成績が良かった事とお礼です」
「??……お礼って何?」
「それも、追々分かりますよ」
「教えてよ、康介さん!」
「後でね……」
「意地悪!」
「はい、確かに私は意地悪ですよ」
高松は橘にネックレスを渡し、2人で帰って行った。
高松はもう一度挑戦しようと思わせてくれた橘に、本当に感謝しているのだった。
この時の橘の発言だが、あながち間違いではない。
高松康介は、ハンドボールなら確かに世界レベルを知っている。
しかし、それはもっと後の話である。
その日の夜……
高松の個人携帯が鳴る。
「おい、高松!」
「何だよ石谷~!」
「何だじゃねぇよ、こっち来たなら顔出せ!」
「連れが居たんだよ!」
「連れと来ればいいだろう!」
「いや、池本さんと徳井さんを怖がっちゃって……」
「確かに怖いかもな……しかし、それとこれは別だ、今度飯奢れ!」
「分かったよ、相変わらず強引だなぁ」
結局、高松はご飯を奢らされる事になった。
こちらの関係も、何やらありそうである。
高松、何となくですが、変わって来た感じがします。




