高松、業績を上げる……
高松は本業も大変……
高松は7月より支社長として勤務している。とはいえ、支配人との兼務となっている為、出勤場所は基本変わらない。
しかし、高松の役割は増え、更には支社としての売上·経常損益のアップが必須となり、なかなか大変である。
7月のとある月曜日、高松は訪問看護事業所と居宅に寄り、パンフレットをある程度貰い、事業所には朝一で連絡を入れ、そのまま病院に営業に出掛けた。
高松は遠い病院から営業をしていくつもりである。その為、朝早くに移動してしまい、9時を少し回った所で訪問する予定である。
高松の会社は、営業も自分達で行う為、上に行けばそれだけやる事は増えるし、売上が上がらなければ、本社からのプレッシャーも強くなる。
ここで高松が高藤から評価を受ける要因の1つが出て来る。
高松は基本、営業の際は、営業先が休み時間や始まる前にそちらの近くに移動してしまい、時間を見計らって訪問する。その為、朝一あるいは午後一の訪問相手は高確率で会う事が出来る。昼休憩等は、後でどうとでもなると高松は考えている。
実際は、昼休憩はなかなか取れてはいないのが現状ではある。
高松は厚生病院の駐車場に着いた。時間は8時50分、高松はコンビニで買ったホットのコーヒーを飲みながら少し時間を潰した。
9時15分、高松は厚生病院に入り、受付に話をする。
受付より担当の方を呼んで貰った。
「いつもお世話になっております。私、7月より○○会社の北関東支社の支社長をしております、高松と申します」
高松は頭を下げ、名刺を渡した。
「ありがとうございます、地域連携室の上条と言います」
「お忙しい所、申し訳ございません。我々ですね、ここから南に30分位の所にサービス付き高齢者向け住宅をやっておりまして、一緒に訪問介護もやっています。訪問看護と居宅もありますので、退院等でお困りの時は、是非とも声を掛けて頂きたいと思いまして」
「え?……看護もケアマネも居るんですか?」
「はい、大丈夫です。勿論、看護のみでもケアマネのみでも引き受けています。こちらがパンフレットです」
「ありがとうございます、ちょっと待ってて貰っていいですか?」
「はい、大丈夫です」
上条は一旦高松から離れていった。
上条が帰って来る。
「すいません高松さん、色々相談したいんですが……」
「はい、大丈夫ですよ」
「そっち方面で退院出来るんですけど、ケアマネとか訪問看護·介護を付けたい方、施設入居を検討したい方がかなりいるんですよ……高松さん、お願い出来ませんか?」
「構いませんよ、いつでも相談は受付てます……サ高住が満床の場合、知り合いの施設も聞いてみます」
「ありがとうございます!とりあえずですね……ケアマネと介護·看護が必要な方が5人いますので……家族には話しますので、お願い出来ますか?」
「はい、そのくらいなら大丈夫ですよ」
「後ですね……この先に南澤病院があるんですけど、ここの関連病院なんですよ……」
「はい……」
「そちらでも、退院させたい方がおりまして……」
「分かりました、この後寄って見ます」
「ありがとうございます!こちらからも連絡しておきます。白川宛に訪問して下さい!」
「ありがとうございます。それでは、受け入れの準備は進めさせて頂きます」
「はい、よろしくお願いします!」
高松は上条に頭を下げ、受付にもお礼を言って病院を後にした。
帰り道に先程紹介された、南澤病院の白川相談員の所に顔を出した。
白川からも上条と同じ様な話をされ、今週のうちに10件近い新規をお願いしたいとの事、高松は2つ返事で快く引き受けた。
高松はこの後も営業し、事務所に帰ったのは夕方であった。
高松が事務所に戻ると、高松宛のFAXがかなり届いていた。本日回った営業先からの新規の問い合わせである。
高松は新規の依頼書を見ていると、電話が鳴った。
「はい、○○事業所、高松でございます」
「高藤ですけど、高松さん、大変なんです!」
「どうしたんですか?」
「午後から新規の依頼が凄いんですよ!」
「……ああ、高藤さんは居宅に来てたんでしたね」
「そうなんですけど、これはどうしたんですか?」
「ああ、本日営業に行きまして……成果物ですかね……」
「なんと……いったい何をして来たんですか?」
「特には何もしてないですけど……とりあえずですね、全部引き受けて来ました」
「それにしても、居宅で新規が今日だけで21件ですよ!」
「そうですか……介護は入居の案件も含めますと…………24件……そちらの居宅から更に新規を踏まえると……考えたくない数ですね……」
「高松さん、看護はどうですか?」
「介護の依頼の所に看護もお願いしたいとの依頼は…………17件……看護の事業所に確認しないとですけど……結構ありますね……」
「高松さん、こちらの居宅から看護の依頼もありますから、凄い事ですよ!」
「そうですか?……余り手応えが無いんですけど……」
「いやいやいや、こんなに新規が来るのは見た事無いですよ!」
「そうですか……高藤さんに喜んで貰えたなら光栄です」
「喜ぶどころか…………余りに凄過ぎて言葉になりませんよ!」
「でしたら高藤さん、新規を断らない様に、強く言って下さいね」
「当たり前です!この後看護の事業所にも行って、全部引き受けさせます!」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「はい、任せて下さい!」
この後も新規の依頼がきた。結局、居宅は27件の新規、看護は自社ケアマネからの新規も含めて32件、介護は自社ケアマネからの新規も含めて39件となった。
売上として、介護だけで今月少なくとも200万の上乗せになり、支社として考えると、その1.5倍は硬い。物凄い成果となった。
しかも、7月はまだ始まったばかりであり、まだまだ病院関係からの新規が望める。高藤は高松に、来週の営業を一緒に行く約束を取り付け、本日の業務を終了とした。
この後も病院からの新規は緩やかにはなって行くが、途切れる事なく続いていく。更には、7月の業績で北関東支社は居宅·看護共に黒字化し、支社としては売上450万のアップと経常損益300万のアップという驚異的な成長を遂げた。
この結果に、高松を昇進させる事に難色を示していた上役達を黙らさせ、更には高藤の株を上げる事となった。
また、高藤は高松の手腕を改めて確認し、改めて高松を高く評価した。
しかし、高松本人は違っていた。
(……参ったな~…緩やかに上がっていかないと、目立つんだよな~……目立ちたくないな~……高藤さん、静かにしてくれないよな~……)
高松はなるべく目立ちたくは無い様である。
この数ヶ月後、高松は社長に呼ばれて本社に行き、社長と高藤から執行役員への話があったが、
「無理に進めるなら、退職届を出します」
との強い言葉を返し、一旦この話は消える事になる。
しかし、高藤は諦めた訳ではないらしく、何かあると高松に昇進の話をし、何度も口説く形になる。高藤は高松と仕事をしたかったのかもしれない。
この売上·経常損益の単月アップは、高松の会社の記録となり、語り継がれる事になるが、それはもっと後の話である。
(……昇進はもういいよ…………)
高松の心の声である。
違った意味でも大変です。




