高松、テストを返す……
さて、高松の作ったテストの結果は?
7月の第一水曜日、高松は城北学院に出勤する。
いつも通り、高松は誰よりも早く来ており、パソコンで自分の本業の仕事をこなしている。高松は少し渋い顔でパソコンを打っている。
(……売上そのものを上げないと話にならない……何かしらの行動しないとなぁ……高藤さんに迷惑掛けられないからなぁ……)
どうやら、業績の事で悩んでいる様である。
「おはようございます、高松さん!」
「おはようございます、鈴木先生」
「高松さん、私、考えたんですけど……私が高松さんのアパートに行って、料理や片付けをやった方が良くないですか?」
「???……何故にその様な考えに?」
「ほら、高松さんは一人暮しだから、栄養とか考えないと体壊しちゃうし……引っ越しの片付けは1人じゃ大変でしょう?」
「荷物は少ないので大丈夫です……料理は、私は普通にやりますよ、独り者ですからね」
「え?…高松さん料理するんですか?」
「……やりますけど……意外ですか?」
「はい!……でも、一度食べてみた~い!」
「おはようございます、康介さん!」
橘が元気に挨拶しながら職員室に入って来た。
「おはようございます、橘さん」
「あのね、今の所テスト結果は凄くいいの!……だから、康介さんにお礼したくて!」
「お礼ですか……何やら怪しい感じがしますが……」
「そんな事無いよ、1日私を自由に出来るって事でどう?」
「朝から何言ってるんですか、高松さんを困らせるんじゃありません!」
「鈴木先生には関係無いでしょう?」
「朝から余り良くない発言ですよ!」
「康介さんに相手されないからって、私に当たらないでくれますか?」
「橘さんが邪魔してるんでしょう!」
「康介さ~ん、年増先生がいじめる~!」
「何ですって!」
2人が高松の方に目を向けたが、高松は会社携帯のメールを見ながら渋い顔をしていた。
「康介さん、話聞いてんの~?」
「高松さん、橘さんが酷いんですよ!」
「はいはい、話は聞いてますよ……仲良く豊島園に行くんですね」
「「全然聞いてな~い!」」
3人でやり取りをしていると、他の先生方が来た。橘は自分のクラスに移動した。
高松は会社携帯を見ながら、何かを考えている。どうやら、売上をかなり上げないといけないらしく、社長から直接メールが届いていたみたいである。
ホームルームが終わる頃、高松は1年1組に向かう。本日はテストを返し、解答の説明等をしていく予定である。
高松は1組に入っていく。
号令の後、高松が話し出す。
「みなさん、大変素晴らしい出来でした……それでは結果を返します」
高松は1人1人の名前を呼び、テストを返していく。その際、1人1人に言葉を掛けていく。
返されたテストには、赤字で高松からの言葉か書かれていた。
これは、すべてのテストに書いてあり、約240名居る1年全員に高松は行った。
「最後に加藤先生」
「はい……」
テストを渡す高松、
「もう少し考えましょう。言いたい事をしっかりと伝えて下さい」
「はい、ありがとうございます……」
加藤先生の点数は82点となっていた。
「このクラスのトップは96点でした。学年トップは98点です。このクラスの最低点は82点です」
「え?そうなんですか?」
加藤先生は立ち上がり、大きな声を出した。
「加藤先生、静かにお願いします」
「ああ、すいません……」
加藤先生は椅子に座り直す。
「大変素晴らしい出来でした。みなさんが色々感じ、色々考えて頂けてる事がよく分かりました。本当に素晴らしいと思います……最低点の方は、みんなを見習う様に」
加藤先生が少し下を向く。
「松ちゃん、最低点は誰?」
「授業ちゃんと聞いてねぇんじゃねぇの?」
「しっかり授業受ければ、そんな点数取らねぇよ!」
「高さんに迷惑掛けんなよ!」
「はっはっは、なかなかいい事言いますねぇ……しかし、みなさんは他の科目ではどうですか?」
さっきまで騒いでいた生徒が静かになる。
「どの授業も同じです。私も高校時代に思っていました。先生方は自分の分野だけなのに、なんで俺達は全部やるんだよ…ってね」
「それ、俺も思う!」
「私も!」
「古文や漢文なんて、今じゃ使わないし!」
「加藤先生はどう思いますか?」
「いや、将来の選択肢を増やしたり、その道に進もうと思った時に最低限の知識を備えておかないと……」
「成る程、流石は教師ですね……これは私の観点なので、こんな考えもあると思って下さい……古文や漢文がちゃんと読める事で、昔の作者の考えや物の見方なんかが正確に分かります。他人の考えに触れる事で自分も成長します。数学については、その考え方が合理的で問題にぶつかった時の解決策に役立ちます。現国は、正しく理解する為に必要です……意外に、勉強は無駄ではないんですよ」
クラスが静かになる。
「私はみなさんより27年多く生きています。みなさんが痛感するのは、まだまだ先の事かもしれませんが、必ずその時は来ます。来た時に慌てない様に、しっかりとやっていきましょう」
『……はい……』
「はっはっは、そんなに静かにならないで下さい……私はみんななら出来ると思っています。困ったら、相談でもして下さい」
『はい!』
本日の授業はこんな感じで進んで行った。
生徒達のみならず、先生方にも高松の考え方は参考になった様だ。
全て授業が終わった職員室。
「1年担任のみなさん」
珍しく高松が立ち上がった。
「テスト結果ですが、先生方がとても成績が悪かったです」
1年の担任達は下を向く。
「しかし1人、とても優秀でした……山田先生、最高点です、素晴らしい」
高松は山田先生に拍手を送る。他の先生方は山田先生を見る。
「照れるなぁ!」
「生徒達に手本となる様にお願いしますね」
『すいません……』
「ちなみに最低点は……」
『言わないで下さい~!』
山田先生以外は高松を止めた。山田先生以外、クラス最低点である為、自分が最低点だと誰もが思っていた。
「……そうですか?……なら、辞めておきます……まぁ、私も自分の採点しましたけど、何とか80点位でしたけどね」
「ちょっと高松さん!」
「それは無いですよ~!」
「高松さん酷いな~!」
職員室の雰囲気が一気に明るくなった。
この後、高松は部活に参加し、スポーツジムに寄ってからアパートに帰った。スポーツジムは同じジムが今のアパートの近くにあり、改めて入会する事なく通う事が出来ていた。
テストの事だが、高松は先生方の雰囲気を察し、自分の点数で落ちを作った。高松が作ったテストで、高松がずっとやっている世界の問題である。高松の点数が低い訳がない。
しかし、高松はそうする事で周りの雰囲気を和ませ、誰も傷付けない様にしている。そんな高松だからこそ、誰もが高松を気にしており、高松に一目置くのかもしれない。
だが、高松は覚悟している事がある。
いつかは誰かを傷付けたとしても、進まないといけない道があるという事を…………
そんな決断をする日は、そんなに遠く無いかもしれない。
高松らしい一面がありました。
なかなか面白い結果でした。




