高松の甥……
テストも終わり、ハンドボール部はインターハイに向けて練習中……
何かありそう……
7月に入り、高松は住所が変わった。引っ越しが終わり、住所を移動したのだ。
高松は元々荷物が少ない為、土曜日に引っ越しをし、必要な物だけ段ボールから出し、日曜日の本日は城北学院に来ていた。
高松は着替えて職員室に行く。
「おはようございます、高松さん!」
「おはようございます、早いですね加藤先生」
「はい、今日は練習試合なんです!」
「そうなんですか……相手は何処ですか?」
「栄浦高校です……午前と午後にフルタイムで1試合ずつ行います!」
「栄浦ですか……なかなかな所ですね」
「はい、向こうから申し込まれたんです。関東大会でもいい試合しましたし、今日も少し期待してます!」
「まぁ、練習試合ですから……勝敗よりも課題を見つけましょう」
「はい、分かりました!」
「おはようございます、2人共早いですね!」
「今日は練習試合ですからね!」
「ああ、栄浦とですね?」
「はい!」
「私はいつも通りです」
「確かにそうですね!」
「所で高松さん、栄浦のGKが凄いんですけど……何か攻略の手立てはありますか?」
「……そんなに凄いんですか?」
「はい、関東ナンバー1の呼び声高いです……」
「何て名前ですか?」
「いや、自分は名前までは知らないですが……」
「確か、カズシゲって呼ばれてましたよ!」
「成る程、一重ですか……大した事は無い、思い切ってシュートを打てば大丈夫です」
「高松さん、本当に凄いんですよ!」
「半端無いんですから!」
「はっはっは、2人共身構え過ぎです……関東大会で優秀選手賞もしくは、最優秀選手賞を獲得したんですか?」
「いえ、獲得してないですけど……」
「関東大会で最優秀選手賞を獲得したGKっているんですか?」
「さて、どうですかね……ただ、2人が弱気だと、チームに影響出ますからね……大した事はない、同じ高校生ですよ」
高松は体育館に移動した。加藤先生と高木先生は心配な表情で高松の後に付いて行った。
高松が体育館に入る。
「よう、高松!」
「猪狩、なかなかいいチームみたいだな」
「何言ってんだよ、関東大会で城北学院とは危なかったんだからな!」
「そうか……インターハイでは気を付けろよ」
「他人事な言い方だな!」
「当たり前だ、他人事だ」
「しかし、高松のその格好は、何だか嬉しいな!」
「そうか?……時間あるんだろ?少し付き合えよ」
高松は猪狩を誘い、コートに入る。
高松と猪狩はキャッチボールをし肩を温めると、高松は城北学院の酒巻を壁役に立たせた。
酒巻は6mラインより少し前に立ち、シュートに合わせて両手を上げる。簡易ディフェンスであり、シュート練習の時は当たり前の事である。
猪狩は何発もシュートを放っていく。
猪狩は高校卒業後、大学に進みハンドボールを続けた。大学では、高松と対戦した事も何度かあった。
大学卒業後は実業団に進み、28歳まで現役を続けた。
高松と一緒にオリンピックにも出場し、石谷や岡崎とは違う、高松康介をハンドボール選手として語れる数少ない人物である。
猪狩のシュートは強烈である。現在の実業団の選手と比べても遜色の無いシュートを、自由自在に打ち込んでくる。
しかし、真に驚くべきは高松である。
猪狩の強烈なシュートを高松は苦もなく止めている。猪狩のシュートを止める度に、物凄い衝撃音が響くが高松は痛がる訳でもなく、さも当然の表情で淡々とシュートを止め続ける。
猪狩は20本近いシュートを放つが、1本もゴールに決まらなかった。
「高松、最後にペナルティやろうぜ!」
「おう、勝負だ……酒巻、手を叩いてくれ」
猪狩が7mラインに立ち、高松はゴール前に構えた。
酒巻が手を叩く。
猪狩は1回フェイントを入れ、猪狩から見て左上にシュートを放つが、高松はこれを最初のフェイントの際に、わざと猪狩から見て右に少し動き、その後のシュートをしっかりと止めた。
城北学院も栄浦高校も2人のプレーを固唾を飲んで見守っていた。
「相変わらずだな……やられたよ高松!」
「な~に、お前がまだまだ本気じゃなかっただけだよ」
高松と猪狩はハイタッチして別れた。高松が止めたボールは栄浦高校の方に転がり、高松一重がそれを拾う。
猪狩は一重からボールを受け取ると、
「高松、ボール!」
と言って、高松にボールを投げた。高松はボールを受け取ると軽く右手を上げた。
「猪狩先生……」
「おう……お前の叔父さんは、相変わらずスゲェな……こっちは全力なのに、あいつはまだ5割位かな……一緒のチームで良かったと、何度思った事か……大学の時に敵にしてみて、改めて凄さを認識したっけ……」
「そんなに凄いですか?」
「ああ、スゲェな……あのタイミングで引退して良かったよ、高松の代わりを務めるには、実力も精神も足りないよ……」
「……あんまり、ハンドボールの事は言わないんです……」
「そうか……そうだなぁ…………長い関東大会の歴史の中で、唯一GKで最優秀選手賞を獲得した人物と言えば、少しは分かるんじゃないか?」
「!?……それ、本当ですか?」
「間違い無いぞ、俺は優秀選手賞だったからな!」
「……超える為には、生半可じゃダメですね……」
「そうだな……あいつを超えるのは、簡単じゃない……頑張るしかねぇな!」
「……猪狩先生嬉しそうですね……」
「そうかもな!」
猪狩の顔は少し緩んでいた。
城北学院と栄浦高校はアップを始める。
両チーム共、先程の高松と猪狩の勝負に煽られ、かなり激しいアップになっている。
両チーム共に監督は体育館の職員室におり、2人の勝負を見ていない。両チームの監督がコートに降りてくると、その激しいアップに少しびっくりしていた。
両チーム共監督の元に集合する。
両チーム共に監督より指示を仰ぐ。
「いいですか、相手も高校生です……必要以上に相手を過大評価する事は無い……まずはやるだけやって、そこから考えましょう」
『はい!』
高松の言葉に城北学院の選手は、かなり気合いの入った返答をする。
加藤先生は驚いている様だが、この試合が楽しみになってきた。
本日の練習試合は、両チームにとってとても意味のある物になった。
結果は、午前中は栄浦高校が21-19で勝利し、午後は城北学院が19-18で勝利した。
栄浦高校の監督は加藤先生に、
「インターハイでも対戦出来るといいですね」
と一言掛け、改めて加藤先生と握手した。
「叔父さん!」
「何だ、一重」
「俺、どうだった?」
「世間が評価してくれるさ……まずは精進だな」
「…そうだね、分かった……」
一重は頭を下げて走って行った。その先で猪狩が軽く手を上げた。高松は猪狩に手を上げ返した。
「高松さん、彼とは知り合いだったんですか?」
「……甥です……兄貴の子供です」
「成る程、凄いGKの謎が解けた様な気がします!」
「……気がしてるだけですね……」
「いや、そんな事は無いと思いますよ!」
加藤先生は今日の練習試合で何か手応えを感じていた。
インターハイまで1ヶ月を切り、楽しみが増してきた様だ。
しかし、それと同時に加藤先生にとって、高松の謎は深まるばかりであった。
当の高松は、
(……録画するの忘れてた……)
このタイミングで、何とも言えない失敗に気が付き、少し落胆していた。
インターハイに繋がる試合でした。




