高松とインターハイ予選……
城北学院のインターハイ予選……
土曜日、高松は朝から城北学院に来ていた。インターハイ予選であり、土曜日は城北学院と国浦学院の体育館を使い、ベスト4を決める。準決勝と決勝は県の体育館を使用する。
高松は半袖のワイシャツにノーネクタイのいわゆるクールビズで試合を見に来ていた。
体育館に入ると、城北学院のハンドボール部の男女共、高松の元に集まる。
「さて、始まりますが……最終目標は何ですか?」
「男子はインターハイに出場し、結果を残す事です!」
「女子もインターハイに出場する事です!」
「加藤先生、高木先生、間違い無いですか?」
「「はい!」」
「……でしたら、最後まで油断をしない…負ければ終わりです……気を引き締めて、引き締め過ぎる事はありません。しっかりやりましょう」
『はい!』
城北学院ハンドボール部は、それぞれアップをはじめた。
高松はゆっくりと観客に紛れる様に、試合を見渡せる位置を陣取る。
高松はベンチに入る事を依頼されたが、それについては断っていた。あくまでサポートに徹する事にしたのだ。
インターハイ予選初日、城北学院ハンドボール部は、男女共にしっかりと勝利し、翌日の準決勝に駒を進めた。
もう片方のブロックでは、国浦学院が順当に勝ち上がっている。
高松は城北学院ハンドボール部を集めた。
「まずは、なかなかいい滑り出しです」
『はい!』
「……では、今日のいいプレーは、忘れて下さい」
『!?』
「高松さん、何を言ってるんですか?」
「ちょっと理解が出来ないです!」
「先生2人に理解して貰おうとは思いません…選手のみなさんはどうですか?」
『???』
「高松さん、説明をお願いします!」
「そうですよ、訳が分からないですよ!」
「……2人は後で説教ですね……いいですか、今日の大戦相手と明日の相手はどちらが上ですか?」
「それは、明日の方ですけど……」
「それが何か?」
「はぁ、明日は今日の様に上手くいく事が少なくなるんです。だから、今やる事は、今日のダメだったプレーの反省と明日への備えなんです……結果が出てから満足すればいいでしょう……特に、インターハイへの切符がこの大会の目標なら、当たり前の事です……分かりますか?」
『はい!』
「成る程……」
「そうか……」
「……インターハイ出場が決まっても、この2人には感謝の必要は無いかもしれませんね……」
『はい!』
「ちょっと高松さん!」
「お前等も、はいじゃないだろう?」
『あっはっはっはっは!』
ハンドボール部員達は、大声で笑った。この笑いで、明日への緊張は解れた様だ。
「さて、明日に向けて、ゆっくり休んで下さい」
『はい!』
城北学院ハンドボール部は、明日に備え帰って行った。
翌日の日曜日、朝早くから高松は県体育館に行った。
「高松!」
振り返ると山中先生が立っていた。
「おはようございます、山中先生」
「おはよう、今日はどっちの応援なんだ?」
「とりあえずは、城北学院の講師ですから」
「そうか……で、ハンドボールはどうなんだ?」
「はい……来年から復帰しようと思います」
「そうか!……何処でやるんだ?」
「この県でやります。7月に引っ越します。3年経てば、国体の権利も貰えます……挑戦です」
「そうか!…なら、木の葉クラブに入るといいな!」
「先生が昔に所属してたクラブですね?」
「そうだ……この県には実業団が無い……しっかりしたクラブに入らないとな!」
「はい、そのつもりです……その時は、口添えをお願いします」
「安心しろ、大丈夫だ……何だか楽しみだ!」
「……何処まで出来るか分からないですが、やれる所まで頑張ります」
「ああ、期待しながら見てるぞ……俺もコーチやるかな」
「それいいですね!…是非ともお願いします!」
「そうだな、やってみるか?」
「はい!」
久しぶりに高松と山中先生は熱くなった。実はこの時の話が、高松にとっても、恩師の山中にとっても大きな意味を持つ事になる。
男女ベスト4に残った高校が続々と体育館に集まる。
城北学院も国浦学院もやって来た。
城北学院は着替え終わると、高松の元に集まる。加藤先生、高木先生も一緒に集合する。
「目標は決まっています。やる事はそれぞれ分かっている筈です……後は、最後まで顔を上げてやるだけです」
『はい!』
男女共、アップを開始する。
「梶山君、港さん、ちょっとこちらへ……」
「「はい!」」
高松は男女のGKを呼ぶ。
「港さん、客席から私が合図したら攻撃参加して下さい……最後の手段です」
「はい!」
「梶山君、私の右手が上がったら合図です」
「はい!」
「……2人共、いい表情です。1番後ろで、どんな時も声を出していきましょう」
「「はい!」」
2人はアップに戻って行った。
準決勝は、男女共勝利し、無事に決勝に駒を進めた。
女子決勝…………
城北学院は国浦学院との対戦である。
高木先生が試合前に作戦等を話すが、何処と無くぎこちない。
高松は割って入った。
「ここまで来ました。後少しです……さぁ、インターハイに行きましょう!」
『はい!』
城北学院はコートに入って行った。
「ありがとうございます、高松さん……」
「信じましょう。後はサポートをするだけです」
「はい!」
高木先生はベンチに、高松は客席に向かう。
試合が開始される。
国浦学院のボールからスタートし、流れる様なパスワークからシュートまで持っていくが、GK港がこれをセーブし得点を許さない。
港のこのプレーが城北学院の緊張を解き、いつものプレーが出て来る。
国浦学院も食い下がるが、リズムを掴んだ城北学院は次々と華麗なプレーを決め、前半を11-9と2点リードで終えた。
ハーフタイム後、後半か始まる。
高松はハーフタイムで、前半のプレーを忘れ、もう一度、1から積み重ねていく事を指示した。
後半、国浦学院は怒涛の攻撃を仕掛けて来るが、高松の指示通り、もう一度積み重ねる事に集中している城北学院に焦りは無い。
自分達の出来る事をしっかりとやり、国浦学院の攻撃にしっかりと対応する。
国浦学院の猛攻を何とか凌いだ城北学院、後半を9-10と1点差で終え、トータルスコア20-19で城北学院女子ハンドボール部のインターハイ出場が決まった。
男子決勝…………
加藤先生の話の後、高松が話し始める。
「君達の引退は、まだまだ先です……嫌になる位の暑い会場が君達を待っています……しっかりと切符を取って来て下さい」
『はい!』
城北学院はコートに入って行く。
「加藤先生、最善のサポートですよ」
「はい、高松さん!」
加藤先生はベンチに、高松は客席に向かう。
試合が開始される。
国浦学院ボールでスタートする。
国浦学院は素早いボール回しからポストにボールを入れる。
この時、GK梶山のビッグプレーが出る。
ノーマークシュートを梶山は絶妙のタイミングで間合いを詰め、しっかりと防いだ。
このプレーが梶山自身にも勢いを付ける。
国浦学院のシュートを要所要所で止める梶山、国浦学院はなかなかリズムに乗れない。
しかし、それでも国浦学院である。
城北学院の攻撃をしっかりと防ぎ、前半を10-10で折り返した。
ハーフタイム、高松はいつも通りを強調した。
後半がスタートする。
どちらも譲らない展開となり、かなりの接戦であった。
なかなか点差も付かず、後半残り1分、18-19と国浦学院リードで城北学院ボールである。
この時、高松は右手を大きく上げた。梶山か小さく手を上げる。
城北学院のシュートは国浦学院のGKに止められ、ワンマン速攻のパスが出されるが、梶山がこれをインターセプトし、すぐに攻撃する。
ディフェンスが崩れている国浦学院は、これを止める事が出来ない。
城北学院はしっかりとシュートを決め、同点とした。
残り時間36秒、国浦学院の攻撃。
高松は右腕を先程より高く大きく上げた。頷く梶山。
国浦学院のボール回しの際、梶山の指示で意図的に国浦学院のエースをフリーにする。
ここで1点を取り楽になりたい国浦学院は、高松の読み通りにシュートを放つ。
GK梶山は織り込み通り、このシュートをしっかりと止めた。
高松が練習の時から説明していた通り、得意なコースに放たれたシュートを梶山は止め、シュートと同時に走り出したサイドの大橋キャプテンにパスを出した。
大橋はこれをしっかりとキャッチし、1対1のシュートをしっかりと決めた。
後半残り2秒、城北学院は逆転に成功した。
試合再開するが、すぐに終了のブザーが鳴る。
国浦学院は再開後にすぐにシュートを放つが、ゴールバーを超え、枠内には決まらなかった。
前半10-10、後半10-9、トータルスコア20-19となり、城北学院ハンドボール部は、男女共にインターハイ出場を決めた。
高松は勝利が決まると、すぐに体育館を出て行き、帰って行った。
表彰式の後、高松と喜びを分かち合いたい選手達であったが、高松の姿はすでになかった。
この後、高松を捕まえておかなかった加藤先生と高木先生は、男女ハンドボール部員から多大な避難を浴びた。
城北学院ハンドボール部、男女共におめでとう!




