日曜日、思わぬ用事……
日曜日の高松……
何がありますか……
高松は実家に帰り、早めに床に着いた。
ここの所、トレーニングに仕事に講師に練習にと大忙しの高松は、20時頃に布団に入ったが、すぐに眠ってしまった。
夜中、高松はトイレに起き、居間に向かった。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し飲んでいると声を掛けられた。
「あれ?兄ちゃんどうしたの?」
高松の兄、高松一信が立っていた。
「いつの間に帰ってたの?」
「ああ、22時頃かな?」
「忙しそうだね?」
「そうだな」
「義姉さんは?」
「実家だ…明日、親戚で集まりがあってな……俺は忙しいから、息子と2人で行ってる……」
「そう……一重は元気なの?」
「ああ、元気だ……栄浦高校でハンドボールやってるよ」
「栄浦か………コーチは猪狩康夫だね」
「何で知ってんだ?」
「俺の高校のチームメイトだよ」
「そうなのか?……どうりで凄いと思ったよ……」
「まあ、あいつは凄かったよ……」
「お前はどうなんだ?……ハンドボールはもういいのか?」
「さてね………でもさ、このままだと納得いかないよね?」
「何だ?……そろそろ休みは返上か?」
「みんな言うんだけどさ……休みじゃないよね、これからやるなら挑戦だ……」
「何にしても、やる気なのか?」
「そうだね………大分間が空いたけど、やらないといけない気がするよ………」
「そうか、何かあったのか?」
「そうだねぇ………物凄く真っ直ぐに向かって来る娘が居てね……止まってる訳にはいかなくなっちゃって………まぁ、どこまでやれるか分からないけど、やるだけやってみるよ……今年は体作って、来年から3年が目安かな……」
「何だ?好きな娘でも出来たのか?」
「辞めてくれよ……相手は16歳だぜ……甥っ子よりも若いなんて、ありえねぇよ……」
「それは、本人達次第だろう?……何にせよ、お前が進もうとしてる事は、俺は賛成だ……その娘にお礼しなくちゃな!」
「はっはっは、それはそうだね………愚か者か英雄になるか、頑張ってみるさ……笑い者にされたら、一緒に笑ってくれ!」
高松は右手を上げて寝室に消えていった。
「挑戦する事がすでに英雄だ……笑う奴は俺が許さねぇよ……」
高松の兄、一信は小さく呟いた。
翌日、高松が起きて練習に向かおうとすると、母親から呼び止められる。
「康介、午後に帰って来れるかい?」
「何かあるの?」
「荒川さんが来るんだけど……」
「荒川さんか……マスターも来るんじゃねぇの?」
「多分ね……」
「帰って来るよ……今日も泊まって、明日は朝早くに出て行くよ……」
「そうかい、頼むよ……」
「はいよ、じゃあ行って来る!」
高松は右手を上げ、車を走らせた。
高松は城北学院に行き、着替えてから職員室に向かう。すでに加藤先生と高木先生が来ている。
「おはようございます」
「「おはようございます!」」
「申し訳無いんですが、今日は午前中だけで失礼します。実家で用事が出来たもので……」
「しょうがないですね、分かりました!」
「来週は関東大会ですので、女子に伝えたい事は?」
「そうですねぇ……1つ1つのプレーを確実に…ですね」
「分かりました、伝えておきます!」
3人は体育館に向かった。
高松は男子の練習を一緒に行いながら、その中のプレーを1つ1つ確認する。
加藤先生と高木先生は練習を見ながら、高松の的確なアドバイスとその確かな指導を改めて目の当たりにし、高松の凄さを感じていた。
特に加藤先生には、高松の存在はかなり大きい。
その時々でどう導いていくか、どう気付かせていくか、時に嫌われ、時に一緒に考え、難しい年頃の生徒達を上手くまとめている。
この高松の手腕を加藤先生は見本にする為、高松の行動や言動をいつも見逃さない様にし、気が付いた事はノートに記している。
この行動は、加藤先生を知らず知らずのうちに監督として成長させていき、素晴らしい指導者となっていく。そんな加藤先生の最初の一歩は、高松の事に着目する事から始まったのである。
午前中の練習が終わると、高松は自主練に付き合った。
ペナルティスローやノーマークシュートの練習、ロングシートの練習に付き合った。
GKの梶山に声を掛け、ペナルティスローを何本かフィールドプレーヤーと勝負をさせ、駆け引きやプレッシャーの掛け方等も教えた。
高松は自主練が終わると、職員室まで歩いて行く。
「高松君!」
高松は振り返る。
「坂巻…じゃなかった、沢村さん……どうしました?」
「和希を迎えに来たんだ!」
「そうですか」
「……ありがとうね、高松君…あれから話したんだ!」
「…はい……」
「それでね……離婚する事になった……」
「そうですか……何と言えばいいか……」
「違うのよ、そんな顔しないで……話し合ってはっきりしたの、別れて和希と2人でやり直した方が絶対幸せになれるって!」
「いいんじゃないかな……納得してるんでしたらね」
「苗字が変わるし、何かと相談するかもですが……お願いね、高松君!」
「私は便利屋では無いんですがねぇ……」
「いいでしょ!昔のよしみじゃない!」
「はいはい……余り役には立ちませんけどね……」
「あっはっは、よろしくお願いします!……じゃあまたね、高松君!」
沢村は息子を迎えに部室に向かった。
高松は職員室に戻り、すぐに着替えて実家に向かった。
高松が実家に着くと、すでにお客は来ていた。
「ただいま」
「康ちゃん、お帰り!」
「久しぶりだね、康介君!」
「荒川さん、お久しぶりです……マスターは昨日振りですね」
「そうだね、昨日はびっくりしたよ!…綺麗なお嬢さんを3人も連れて来て!」
「そうなのかい?康介?」
「確かに行ったけど、学校関係だよ」
「はっはっは、マスターに関わると大変だね!」
「所で、2人は親父に報告か何かですか?」
「それなんだけどさ……康介君、見合いはしないかい?」
「は?……突然ですね」
「一信君とも話しててさ…どうだろう?」
「康介、一度経験だけでもどうだ?」
「……辞めとくよ、今は用事があるんだ」
「お袋さんはどう思ってるの?」
「私は康介に任せてるから……」
「だから言っただろう……康ちゃんはやらないよ、自分で決めて、自分で歩いていくんだから!」
「そうか……うん、この話は無かった事にしよう……康介君なら大丈夫だろう、悪かったね!」
「いえいえ、心配して頂いて、光栄です」
「はっはっは、康ちゃんらしいね、何だかさ!……さぁ、ご飯でも食べようか?」
「マスター、ここは俺の家ですよ……まぁ、マスターらしいけどさ……康介、とりあえず飯でも食べようか?」
「作ってるのは、私なんだけどねぇ?」
「そうだったそうだった……康ちゃんだけでなく、我々の分もお願いします!」
高松は久しぶりに楽しい夕食を食べた。
父親の友人であり、小さい時からお世話になった2人、そこに母親と長男が居る。
久しぶりに気兼ねなく振る舞っているのかもしれない。高松の楽しい夜は、段々と更けていく。
みんな高松が好きなんですね。
高松、頑張って欲しいですね!




