高松の昇進話……
何やら、面白そうな事が……
6月の第1週金曜日、高松はいつも通りに仕事をしていた。まだまだ慣れていないとはいえ、本田も仕事をそれなりにこなしており、高松と主任の田中は助かっていた。
本日もかなりな業務量であり、高松は大忙しである。
午前中の業務が終わり、午後も忙しい高松に電話が掛かって来た。
「はい、お電話ありがとうございます。〇〇事業所、高松でございます」
「お疲れ様です、本社の高藤です」
「お疲れ様です、何かご用意ですか?」
「色々と高松さんと話がしたくて……これからそちらに行ってもいいですか?」
「何時頃になりますか?」
「15時過ぎになりますかね?」
「……本日の予定はありませんので、お待ちしております」
「それでは、よろしくお願いします」
高藤は本社の取締役であり、社長・副社長に続くNo3との噂される、かなりやり手の男である。
実は高藤は、高松を高く評価している。
誰からも認められた会社の重鎮、社長を始め会社の役職者から何かある度に相談されたり問題を直接解決したりする会社にとって重要な人物、それが高藤である。
高藤は高松の事業所に着いた。時間は15時を少し過ぎた所、時間にも正確な男である。
「高松さん、時間大丈夫ですか?」
「はい、それでは相談室にどうぞ」
2人は相談室に入っていった。
「高松さん、本田さんはどうですか?」
「頑張ってますよ」
「こちらの事業所も、もう1人リーダーが居た方がいいですね……本田さんはどうですか?」
「……いいとは思いますが、入って1週間ですからねぇ……せめて8月までは今のままと思っています」
「成る程…流石は高松さん、考えてますね」
「ありがとうございます」
「ですが、それまで大変ではないですか?」
「今に始まった事ではありませんので……主任の田中さんには申し訳ないと思ってますけど……」
「そうですか……高松さん、この事業所は本社からの評価は高いんですよ!」
「そうなんですか?」
「それはそうでしょう……経常損益は黒字だし、残業も少ない……更には、提出物や行政への書類等の滞りは無い、素晴らしい事業所です!」
「その割には、ボーナスは厳しいですね……」
「そこは全社の事も絡んで来ますからねぇ……」
「……それより高藤さん、話は終わりで大丈夫ですか?」
「高松さんは私との話をすぐに終わらそうとしますね?」
「そんな事は無いですけど、次に何をやるか等を考えると、すぐに行動しないとと思いまして……」
「その行動力が高松さんの凄さですね!……ですが、もう少し付き合って下さい」
「分かりました」
「では、本題に入ります」
「……はい……」
「高松さん、支社長になって頂けませんか?」
「……珍しいですね、高藤さんが冗談ですか?」
「いえ、私は本気ですよ」
「……私はコンプラに引っかかっています。誰も納得しませんよ?」
「それなんですが、もう一度内部監査室に調査依頼をしまして……タチの悪い嫌がらせと色々な事が重なった事が分かりました。処分をした他の役職については、事実確認をおろそかにしたという事で減俸処分が下されます。高松さんへの減給で引かれた分は社長からの謝罪を入れて、次回の給与に反映される予定です」
「そうですか……では、そのお金が貰える事は辞退します」
「どうしてですか?」
「私はコンプラの時、ちゃんと説明をしました。高藤さんは出張で居ませんでしたけど……」
「はい、私は居ませんでした……本当に申し訳ありません」
高藤は頭を下げた。
「辞めて下さい、そういう訳ではありません……あの時、10名くらい居た役職の誰もが私の話を信じてくれなかった……今更処罰して、お金を返すから無かった事は、大分都合が良すぎると思いませんか?」
「確かに都合が良すぎるかもしれませんが、高松さんの力がこの会社には必要なんです。だからこそ、もう一度内部監査室が動いたんです」
「そうでしょうか?……失礼を承知で言いますけど、高藤さんが動いたからではないですか?……高藤さんが言ったから、もう一度調べ直したんではないですか?」
「高松さん、私はあなたのその、はっきりと言葉に出して伝える所、大好きですよ……確かに私が動かしたのかもしれません。しかし、高松さんを慕う社員は本社にもたくさん居ます。そもそも、高松さんがそんな事する筈無いと言って来たのは、本社の高松さんと関わりがあった人達ですよ!」
「……それは有難いですね……」
「高松さん、あなたを高く評価している人達はたくさん居ます。一緒に働きたいと思っている人はたくさん居ます。どうですか?支社長として、頑張ってくれませんか?」
「……そう言って貰えると、素直に嬉しいです……ですが、買い被り過ぎだと思います……私はそんなに仕事は出来ません……今でも手一杯です」
「いや、高松さんなら出来ます。昇進して下さい!」
「……今はお受け出来ません。今は大事な仕事をしてますから……」
「高校の講師ですか?……失礼だが、高松さんで無くとも何とかなりますよ」
「いえ、私じゃないといけないんでは無く……私が学んでるんです。多分、とても大切な事です……」
「高松さんが学ぶんですか?」
「はい、色々学びますよ……私には少なくとも、勉強にはなっています」
「そうですか……高松さんの中では、いつまでで一区切りだと考えていますか?」
「3年ですね……今1年生を見てます。この子達が卒業の時が1つの区切りだと思っています」
「そうですか……でしたら、その時に改めて話をします。ですが、場合によっては、この支社の支社長になって、講師も続けて貰うかもしれませんよ!」
「そういう事なら、昇進は前向きに考えさせて頂きます」
「……しかし、高松さんらしいですね。なかなか居ませんよ、昇進を断る方は!」
「すいません……とりあえずは食べていけますからね……納得しながら、自分らしく生きていたいんです」
「やはり、私は高松さんが大好きですね……きっと、そんな高松さんだからこそ、みんな高松さんと仕事したいんですよ!」
「ありがとうございます」
「しかし、こんなにみんなから好かれて、何故に独身なんですかねぇ?」
「高藤さん、それは言っちゃダメなやつです。そればかりは、私1人では無理ですから……」
「はっはっは、やはり高松さんは楽しいですね。いつか本社で、私と仕事をしましょう。私も高松さんと仕事がしたいですね!」
「ありがとうございます。ですが、私は本社は苦手でして……」
「そうかもしれませんが、いつかお願いしますよ!」
高藤は上機嫌で高松の事業所を後にした。
高藤が機嫌がいいのは珍しいが、高松は大体が高藤と会うと笑い話をしている為、高松にとって高藤はいつも上機嫌である。
どうやら、高藤の存在はこれからの高松には大きそうである。
高松は色々考えているみたいです。




