高松とアリス……
橘アリスは高松の事が気になってしょうがない。
高松の後をすぐに追い掛けます。
1回戦が終わった高松は、職員室に戻り上着を羽織る。上着は薄手の前にチャックの付いたパーカーであり、高松がドイツに渡る時、本田からプレゼントされた物であった。
高松は職員室の自分の机に座った。高松以外は誰も居ない。
「失礼しま〜す!」
高松が声がした方に顔を向けると、橘が職員室に入って来た。
「康介さん、格好良かった!」
「……ありがとうございます…」
「康介さんて、凄いよね!」
「??…普通だと思いますが?」
「そんな事無いよ〜、ハンドボールも凄いし、サッカーも凄いじゃない!」
「……ただ上手く出来ただけです。たまたまです…」
「前にもそんな事言ってたよね?…本当の事教えてよ、康介さんはどんな人なの?」
「私ですか?……そうですねぇ……私は…高松康介、43歳、4月20日が誕生日なので歳が1つ増えました…O型で現在独身……こんな所ですかね…」
「足りないよ、ハンドボールの事は?……何で独身なの?……康介さんが前に言ってた、集中してた時期って何?……何でいつも優しく出来るの?」
橘は真剣な眼差しで高松を見つめる。
「………そうですねぇ………独身なのは…」
「相手が居ないって言うのは無し!」
「ははは、参りましたね……確かに相手は居ないんですけどね……結婚を考えた事はありました…ただ、タイミングが合わなかった…そんな感じです。集中していた時期については、これから分かる事です。自分なりの答えを見付けて下さい…ハンドボールは…関係無いのではありませんか?」
「関係なくない!……私はどうしても知りたい!」
「……拘りますねぇ……私とハンドボールの事を知って、何か得がありますか?」
「だって……だって、好きな人の事は知りたいって思うもん!…そんなの当たり前でしょ!」
「……ストレートに来ましたねぇ……でも、それは多分、勘違いですよ…」
「そんな事無い!」
「……橘さん、あなたは私を父親と重ねてるんじゃないですか?……だから、私が気になるんじゃないですか?」
「違う!……私は康介さんが…」
「私はあなたのお母さんとの方が歳が近いんです……どう考えても、あなたの気持ちは間違いである可能性が高い……」
「可能性であって、絶対じゃないでしょ!……何で康介さんは、ちゃんと向き合ってくれないの?」
「………少し話を戻しましょうか……私が優しい理由ですが、私は優しくないですよ……ただある程度、人生ってやつに見切りを付けてるんです……だから、見返りも求めないし押し付けもしない……」
「康介さん……」
「人生に見切りを付けている奴が結婚なんて出来ません……相手の人生を背負う責任なんて持てません……あなただけでは無い……私への好意は、お応え出来ません……私には、そんな権利は無い…」
「何言ってるの、康介さん……」
「後、ハンドボールの事でしたね……確かにハンドボールはある程度やっていました。期間にして約14年間、30くらいまでやっていました……私にはある程度の期間という感じです……これで大丈夫ですか?」
「何で康介さんは、人生に見切りを付けてるの?…何で気持ちに応える権利がないの?」
橘の目からは涙が溢れ出した。
「………ある程度諦めて生きていた方が楽なんです………誰にも迷惑は掛けない……自分のせいで不幸になる者は現れない……恩義ある大切な人を不幸にした私には、誰かと幸せになる権利は無いのかもしれません……」
「そんなの分かんないじゃん……やって見なければ分からないでしょう?」
「やってみて、誰かを不幸にするのは頂けません……謝っても謝りきれません……」
「康介さん…」
「さぁ、話はこれくらいにしましょう……球技大会が残ってますよ」
「待って、逃げないで!」
「……………」
「ちゃんと答えてよ……何で向き合ってくれないの?何でちゃんと見てくれないの?……昔に何かあったかも知れないけど、大切なのは今でしょう?……私は康介さんをこんなに必要としてるのに………」
「橘さんらしい、前向きな発言ですね……とても素晴らしいです……そうですねぇ…確かに今が大切なんです。良く分かってるんですけどね……それでも私は過去に拘ってしまう、弱い男なんです……愛想が尽きたでしょう?」
「何で自分をダメだって言うの!」
橘は高松の元に走って行き、高松に抱き付いて泣き出してしまった。
「康介さんはダメじゃない、凄い素敵な人なんだよ!」
高松は右手で自分の頬を掻きながら、左手で優しく橘の頭を撫でた。
「ありがとう、橘さん……本当にありがとう…………今はまだ、何も応えられないし、前に進めていないけど……ちゃんと前に進んで、いつかちゃんと応えます……今はそれじゃダメですか?」
橘は高松から離れ、高松の顔を真っ直ぐに見つめる。高松も真っ直ぐに橘を見つめた。
「分かった、大丈夫……それまで待ってる!」
「でも、応える前にいい人が居たら、遠慮なくそちらにいって下さいね」
「何よそれ〜?」
「そこは約束して下さい」
「分かりました〜」
「1つだけ、私から言わせて下さい」
「何ですか〜?」
「……泣くのは反則です……ずるいですよ」
「あ〜!康介さんの弱点なんだ〜!……分かった、何かあったらすぐに泣く!」
「いや、そうじゃ無いでしょう」
「あははは、康介さんが焦ってる!……楽しい!」
「あのね……楽しそうなので、まぁ、いいとしますか……」
「康介さん、一生独身で居るつもりだったの?」
「微妙ですねぇ………でも、結婚は悪くは無いとは思います」
「それなら、私にも可能性はあるね!」
「はいはい、可能性なら確かにありますね……」
「あ!認めた……少しは向き合ってくれたね!」
「……そういう事にしておきます……」
高松は橘に押し切られる形になった。橘の真っ直ぐな気持ちに応えないといけないと思った。
そして、多分これが、高松康介のこれからを変えていく分岐点だったのかもしれない。
高松は知らず知らずのうちに、失くした何かを少しずつ取り戻していく。
高松が少しずつ変わっていきます。
高松、どう変わるのか?




