高松は疲れている…
高松、本日は試合観戦……
何も無い事は無いのかな……
日曜日、高松は城北学院の体育館に朝から向かった。試合を見る為である。高松は城北学院に着くと、一旦職員室に行き荷物を自分の席に置いた。
「高松さん、今日も来てくれたんですね!」
「来ないと高木先生は怒るでしょう?」
「それは勿論です!」
「満面の笑みですね……とりあえずは見学しますよ……」
「あ、高松さん、来てくれたんですね!」
「加藤先生も同じ様な事を言わないで下さい」
「まぁ、いいじゃないですか!……みんな待ってるんだから!」
高松は加藤先生と高木先生に急かされる様に体育館に行った。体育館では、城北学院の男子部・女子部がそれぞれにアップしていた。
第1試合が女子、第2試合が男子である。
高松を見つけるとすぐに集合が掛かり、男子部と女子部が集まって来た。
『高松ちゃん、お願いします!』
『松ちゃん、よろしく!』
高松は集まった部員達を見て、右手で頭を掻いた。
「どちらにも言える事です。集中力を切らさない、これが重要です。次の大会に向けて、しっかり結果を残して下さい」
『はい!』
男子部も女子部もアップに戻っていった。
女子の試合から始まるが、城北学院はしっかりと勝った。女子は21-16、男子は20-17となかなか接戦ではあったが、両方共決勝に駒を進めた。
高松は両方の試合を見て、変わって来た事に満足したが、改善点もある為にすぐに顔を引き締めた。
男女共、もう一つの準決勝が行われている途中、高松は試合を見ながらボーっとしていた。
「高松!」
高松は呼ばれた方を向いた。
高松の高校のチームメイト、左利きのシューター、猪狩康雄が立っていた。
「何してんだよ!」
「何だ、猪狩かよ…」
「何だは無いだろう?……もう10年以上も会ってなかっただろう?」
「そんなに経つのか……随分と経ったな……」
「随分じゃねぇよ、OB会も出ねぇしさ……」
「忙しいんだよ……それより、今日はどうしたんだ?」
「関東大会やインターハイの偵察……今、栄浦高校の教員と男子ハンドボール部のコーチやってんだ!」
「そうか……ハンドボール続けてんのか……」
「高松もやれよ……お前が1番やってただろう?……ハンドボールに戻れよ!」
「……考えとくよ……」
「大丈夫なのか?……OB会にも顔出せよ、みんな心配してんだぞ!」
「悪いな………今はそんな気になれなくてな……」
「まぁ、色々あるだろうけど、たまには参加しろよな!」
「ああ、タイミングが合ったら出るよ……」
「絶対だからな!」
猪狩は高松から離れていった。
女子の決勝が始まる。
試合はなかなか白熱しているが、城北学院が要所要所をしっかりと締め、22-18で優勝を決めた。
続いて男子の決勝である。
こちらも白熱している。前半は2点差ながら城北学院がリード、後半途中、相手チームの2分間退場等もあり、23-19と城北学院が逃げ切る形になった。
男女共に城北学院の優勝で幕を閉じた。
高松は閉会式を見学していた。県ハンドボール協会会長の山中先生が賞状等を渡し、総括を話している。
高松は少し懐かしい気分になった。
「高松君!」
肩を叩かれ振り返る。
そこには、高松の高校1年・3年のクラスメイトで高松の初恋の相手、酒巻愛が立っていた。
「久しぶりだね、高松君!」
「……本当に…偶然は怖いね……」
「……偶然じゃないの……」
「はい?」
「偶然じゃないの…私、今は沢村愛なんだ……和希から高松君の事聞いたの………」
「沢村が息子さんか……成る程……」
「高松君に会えるかなって思って……」
「何か話したい事でもあるんですか?」
「……懐かしい話しがしたくて……」
「懐かしい話しねぇ……」
「高松君、一見怖そうだけど……優しかったから…」
「何が言いたいんですか?……話したい事は言って下さい……」
「あのね……高松君と恋の話しをしたかったの……私の初恋の話!」
「……野球部の松嶋の事ですか?」
「違うよ……私の初恋は、高校1年生の時のクラスメイト……隣の席にも何度もなった人……3年の時もクラスメイトだった……」
「そうですか……楽しい高校生活でしたね……」
「相変わらず鈍いよね……私はいつもドキドキして、なかなか話せなかったのに……」
「何言ってんだか……2年の始めに松嶋と付き合ってたでしょう?」
「だって……高松君が振り向いてくれなかったし……」
「そんな余裕なかったですよ……1年の時にインターハイが終わって、当時の田中キャプテンに色々託されたんですからね……ハンドボールの事で精一杯でした……」
「あの時……あの時、私から告白してたら付き合ってた?」
「さてどうでしょう……過去は変わらないから、あんまり考えない事にしてるんです……ただ、私もあの時初恋をしていました……1年と3年の時にクラスメイトになった人で、2年の始めに松嶋と付き合った奴にね……私の初恋は1年の終わりでしたかね……」
「高松君!」
「だからって過去は変わらないですよ……変えられても変える気は無いですけどね……」
「今から始められないかな……これから新しく始めるのはどう?」
「……旦那と上手くいかない…昔に好きだった男が現れ、しかも独身……傷付いた自分を理解してくれて、優しく受け止めてくれる………この人なら分かってくれる………そんな所ですか?」
「え?」
「当たらずとも遠からずって所ですかね?」
「高松君………」
「このまま流されるのは簡単です……私も43歳です、高校を卒業してから20年をとうに超えています……流されたい時があるのも知っていますが……だけど、それはダメですね……解決にはならないですからね…」
「でも……優しさが欲しい時だってあるの!」
「優しさねぇ……弱ってる君を抱く事が優しさですか?それが望みですか?……だったら私は適任じゃないですね……私が知る優しさは、例え嫌われたって……一生恨まれたって……間違った方向に進むのを止める事だと教わっていますからね……今君がやる事は俺に抱かれる事じゃない、これからの事を家族と話す事ではないですか?……私は間違ってる事を受け入れる気は無いですからね………」
「………ありがとう高松君……きっと高松君なら、私を止めてくれるって思ってた……」
沢村は涙を拭きながら高松に頭を下げた。
「息子に気付かれますよ……元気出して下さい………大丈夫、困ったら相談くらいは乗りますからね……」
「うん、ありがとう!」
高松は沢村の肩を軽く叩き、軽く右手を上げてからその場から離れた。
高松が体育館の外に出ると高木先生が声を掛けて来た。
「高松さん!」
「うお!……大分大きな声ですね……」
「沢村君のお母さんと何話してたんですか?」
「……特別な事は話してませんよ……」
「大分仲が良さそうでしたけど?」
「ああ、高校の同級生ですよ……今日は他にも会ったし、そういう日なんですかね?」
「知りません!……高松さん、沢村君のお母さんは離婚して無いですからね!」
高木先生が物凄い剣幕で高松に話していると、違う方から声がする。
「康介さ〜ん!」
「……橘さん、どうしました?」
「康介さんが試合を見に来てるって聞いたから!」
「高松さん、私との話が終わってません!……橘さんは少し待ってて下さい!」
「別にいいじゃん!……歳取ると五月蝿くなるのかな?康介さん?」
「橘さん!何ですって?」
「康介さ〜ん、高木先生が怖〜い!……私が若くて可愛いからって!」
「高松さんはそんなお子ちゃま相手にしません!……高松さんが困ってるでしょう!」
「困らせてるのは高木先生でしょ!」
「……とりあえず止めましょうか……高木先生、私も分別ある大人です……心配ご無用です……」
「うっ……分かりました、すいません……そんなに怖い顔で睨まないで下さい……」
「橘さんはどんなご用ですか?」
「私は、康介さんとご飯を食べに行きた〜い!」
「それはダメ!私が許しません!」
「高木先生には関係無いでしょ!」
「いいえ、大有りです!……ダメな物はダメです!」
「なんでよ〜!」
「はぁ……お二人共、いいですか?……私は分別のある大人ですし、これから用事があります……私にも都合があります……他人の事も考えましょう……」
『……ごめんなさい……』
「では、私はこれで………」
高松は試合会場を後にした。
高松は特別用事は無い。今日については、一昨日の夜勤で仕事を進めた為、暇と言っても過言では無い。
しかし、今日は色々と話をした為に少し疲れていた事と、高木先生と橘に付き合わされたら明日の仕事に支障が出るくらいに疲れると思い嘘を付いた。
高松は上手く2人から逃げ、アパートでゆっくり過ごすのだった。
色々あります。
やはり、高松は大変……




