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最後の恋……  作者: 澤田慶次
20/221

高松とハンドボール……高校時代その3

まだまだ続く、高松の高校時代……

3月24日、25日、26日と選抜全国大会である。

大会1日目は1回戦のみ、2日目にベスト16と準々決勝、3日目に準決勝・決勝と行う。

インターハイだと1日に1試合だが、春の選抜大会はタイトなスケジュールである。とはいえ、夏の1試合は春の2試合よりきつい物である。

国浦学院は1回戦・2回戦と順調に勝利し、準々決勝に駒を進めた。準々決勝の相手は石川代表・金沢工業、通称・金工(かなこう)である。


準々決勝は2日目の2試合目とあって、フィールドプレイヤーにとってかなり辛い試合であった。

高校生だから当然といえば当然だが、前の試合の疲れが残り、体力的に厳しい試合である。

どちらの高校も厳しい中の試合であるが、高松はGKという事と毎日の自主練、更には国浦学院までの交通手段が自転車しか無く、毎日片道90分も自転車を漕いで通っている為、体力は全く問題がなかった。

試合は両校疲れが出ているが、精神力で試合を進めていた。

しかし、金工のシュートは1人元気な高松にはなかなか決まらない。疲れからコースが少し甘くなる金工、それを見事に止める高松のプレーは国浦学院のチーム全体に勢いを付ける形となり、実力的には殆ど変わらない、いや、寧ろ金工の方が僅かに上回っていたチーム状況を一変し、18-12で国浦学院が春夏通じて初のベスト4に進出した。

この試合で高松の名前は全国に轟く事になった。


翌日の準決勝、国浦学院の相手は神奈川代表・神奈川商工、通称・神奈商(かなしょう)である。

長い事関東トップに君臨し、全国でもトップクラスの実力で、昨年の選抜優勝校である。

選抜大会前の評判では、本命が栄浦高校、対抗が神奈川商工であった。

実際の実力的には、殆ど変わらない筈であったが、神奈商は勝ち方を知っているチームであり、高校でハンドボールをやっている者なら誰もが知っているチームで、対戦するチームは試合の前にそのブランド名に打ち勝つ必要がある。

しかし、高松は別である。

ハンドボールの名前しか知らない中学時代を経て、高校でハンドボールを始めた高松は、自分が強くなる事に精一杯で神奈商の事を知らなかった。

矢島キャプテンから、

「神奈商か……1つの山場だな!」

と試合前のミーティングで話しが出た際、

「山場?……決勝が山場では無いんですか?」

「何言ってんだ?…いいか高松、神奈商って言ったらビデオが出てるくらい有名なんだぞ!」

「はぁ、そうなんですか……残念ですけど、俺は知らないです……神奈商に勝つとビデオに出演出来ますかね?」

余りに素っ頓狂な返答の為、チームはリラックス出来た。当の高松は本当にビデオに出演出来るのではと思っていたらしい。


試合が始まるが、国浦学院はリラックスしており、余計な力みも無く、普段通りの力を発揮していた。

僅差とはいえ、国浦学院が終始リードしていたが、2点差で迎えた後輩12分、高松は相手サイドのワンマン速攻に対し間合いを詰め、しっかりとシュートを防いだが、相手と激突し右瞼をカットしてしまい血が流れた。高松は治療の為、一旦退場し大会救護室にて治療を受ける。

その間は、2年生の控えGKがゴールを守るが、アップも無しに突然の出番となり、後半18分過ぎに高松がコートに戻った際には、逆に2点差を付けられていた。

そこからは高松の好セーブもあり、神奈商になかなか得点を与えなかったが、神奈商も死力を尽くしてディフェンスし、残り1分を迎えても神奈商の1点リードであった。

残り1分で神奈商ボール、国浦学院は守って速攻を考えていた。

ハンドボールは攻撃しているチームが30秒経つと、オーバータイムという反則となり、ディフェンスしているチームのボールになる。

神奈商はそれを分かっている為、時間いっぱいを使って1点を取る作戦を立てた。

ここで高松が勝負に出る。

高校生という事を念頭に、ある程度フリーにすれば必ずシュートを打ってくると考えていた。この辺が高松独特の捉え方である。

高松の父親は町の柔道場の師範であり、高松も小さい頃は道場に通っていた。お陰で初段を持っている。その父親から、よく心理について教えられていた。

ピンチの時の心理状況、逆にチャンスの時や苦しい時、勝っている時の終了間際等、小学生から叩き込まれていた。だからこそ、高松はどんな時でも緊張し過ぎるという事が無いのである。

高松は相手の、しかもエースにシュートを打たせる様にチームに指示を出す。相手がシュートを打つと同時にサイドプレイヤーに飛び出す事も含めてである。

勝つ事を義務付けられたチームは、いつも息苦しい為に早く楽になりたい。しかも、後1点取れば勝利が確定するとなれば、監督の指示すら無視をし兼ねない。ここが高松と他の選手の決定的な差である。

高松はどんなに苦しかろうと、どんなに惨めだろうと勝つ事が最優先であり、勝つ事が全てであった。だから、もし高松が神奈商のGKだったら30秒をフルに使い、シュートをわざととんでもない方向に打たせ、しっかりと時間稼ぎをし、1点を守る戦い方を選んでいた。

しかし、高松は国浦学院である。

神奈商は高校デビューの高松の事は余り知らない。その為に高松の作戦にまんまと引っ掛かる。

わざとフリーにすると、まだ20秒程しか経ってないにもかかわらず、神奈商はシュートを放った。高松はそのシュートをしっかりと止め、サイドの矢島キャプテンにパスを出す。そのパスを矢島キャプテンはしっかりキャッチし、相手GKと1対1になった。高松の作戦通りである。

矢島キャプテンはチームで随一の決定力を誇り、この大会でも現在得点王であった。誰もがゴールを確信したプレーは、矢島のシュートを相手GKが触れる事が出来ず、決まったと思った瞬間、

「バコッ」

という音と共にボールはポストに弾かれ、観客席に入ってしまった。

この息詰まる対戦に冷静でいられないのは、相手チームだけではなかったのである。

GKから試合は再開され残り時間は28秒、神奈商は残り時間いっぱいボールを回し逃げ切る形になった。

結果、国浦学院は3位で春の選抜大会を終えた。


この大会は、国浦学院に勝った神奈川商工が勢いをそのままに栄浦高校を2点差で振り切り優勝を飾った。

高松の全国デビューは物凄いインパクトを与えたが、高松が納得する物ではなかった。

段々とハンドボール一色になってきました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] なかなか熱い試合ですね! 高松さんのハンドボールに隠された実力がわかる エピソードですね!
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