突然の出来事…
疲れた中年…
毎日いい事が無い、今日もいつも通りに終わる…
そんな筈の日曜日…
男はプラットホームで電車を待っていた。
時間は21時を少し過ぎており、日曜日のプラットホームは人混みも疎らである。
都心から大分離れた、関東とはいえ地方にあたる、北関東の少し華やかな街の中にあるプラットホーム、ここから物語は始まる。
電車を待つ男の名前は[高松康介]42歳、独身である。
彼は大手介護会社の従業員であり、現在、自身の会社が新しく立ち上げたサービス付き高齢者住宅の管理者に抜擢されていた。
会社としての地位は課長となり、側から見ると昇進をし、素敵な独身ライフを送っている様に見えるかもしれないが、実際は全然違っていた。
最高責任者である為、色々な場面で頭を下げるのはしょうがない事ではあるが、本社のミスも結局の所は謝るのは高松であり、利用者や家族がクレームを出してくるのは高松にである。
また、請求等の業務も基本は本社であるが、ミスがあると現場に連絡し、お客への対応を現場の責任者に押し付けた。
結果として、高松は全く関係ない事で謝る機会がかなり増え、更には、少しでも書類の遅延や業績が落ちたりすると、本社から呼び出しをされ、その都度、本社にて厳しい注意を受ける。
そして、ごく最近にかなり面倒な事に巻き込まれた。
新しく入ったヘルパーが、何かと理由を付けては休み、その度に管理者である高松が介護サービスを背広姿で行なっていた。
自分の仕事を後回しにし、お客様に迷惑をかけない事を第一にしていたからである。
その為、高松の残業はかなり跳ね上がるが、管理者という事で残業代は殆ど出ない。深夜帯まで掛かった時に、その加算分だけ出る為、月70時間の残業の対価が500円程度というのは当たり前であった。
また、高松が大変な事は部下である正社員は分かっている筈だが、口だけで労い、手伝う事は殆どしなかった。
しかし、高松は管理者である為、売り上げ等も管理していかなくてはならず、時には厳しい事も言わなければいけない。その事を部下に言ったタイミングと問題ヘルパーからの退職の話が重なり、更には問題のヘルパーからの全く身に覚えが無い事を本社へ訴えられ、内部監査室からの調査が入った際は、たまたま強く言った事をパワハラだと言われてしまい、結果として、コンプライアンス委員会にかけられ、ボーナスの減給処分にされた。
聞き取りの際、身の潔白を訴えたが会社の上役、自分の遥か上の役職の者10名程度から、変わる変わる反省の促しや高松が一方的に悪いとの話を1時間以上もされた為、高松は結果として罪を認め、頭を下げる結果となった。
本日は日曜日である。
本来なら管理者である高松は休みであるが、急な欠勤が出た為に急遽出勤したのである。
この出勤で休日出勤等の手当ては無く、更には公休の振り替えすら貰え無いのにである。
やっと仕事が終わり、プラットホームに着いた時には、1日は終わり掛けていた。
「明日も仕事か〜…」
高松は背伸びをし、不意にプラットホームに降りて来る階段に目を向ける。
すると、かなり急いで物凄い勢いで1人の若い女性が走って降りて来た。その女性は周りをキョロキョロしながら、こっちに走って来る。
(何してんだ?…まぁ、関係無いか…)
高松は目線をスマートフォンに移す。
「すいません!」
「…俺ですか?」
「はい…私、太田まで行きたいんですけど…」
そう言って女性は高松にスマートフォンを見せる。
そこには現在の駅から太田駅までの経路が写っているが、電車の出発時間は後1分である。
「ここじゃないよ、階段登って向こうのプラットホーム!」
「えっ?ここじゃないんですか?私良く分からなくて…」
「とりあえずこっち来て!」
高松は走り出した。女性は付いて来るが、2人がプラットホームに着いた時には電車は出てしまっていた。
高松はスマートフォンで太田駅までの次の電車を調べる。
「後20分くらいだね…まぁ、ここで待ってれば間違いないよ!」
「あの…竜舞駅まで行きたいんですけど…」
「竜舞駅?どこ?」
「太田駅の先で…」
「ちょっと待って!」
高松はスマートフォンで竜舞駅を調べる。
無人駅で最終到着時間は23時15分、周りには何も無く街灯さえあまり無い。
更には、この駅からだと2時間以上は掛かる。
高松は少し考える。
「君、いくつ?」
「はい、15です…」
「うーん…竜舞駅は無人駅だよね?」
「はい…」
「…分かった、車で送って行くよ…会社の車だから、変な心配は無いけど、心配ならこれも渡しておくよ」
高松はそう言って名刺を渡した。
「えっ…いいんですか?」
「まぁ、しょうがないかな…ここで会ったのも何かの縁だからね…」
「ありがとうございます!」
2人は駅を出て、高松が使っている会社の車が置いてある駐車場まで歩いた。
いつも通りに終わる筈の高松の1日だったが、少しだけ変化が訪れた。
これから変わっていく高松の人生は、もしかしたらここから始まったのかもしれない。
大変そうな事に巻き込まれた様子…
どんな事が起こるのやら…