現代社会にダンジョンが現れた時の税金について
これはあくまでも、現代にダンジョンが現れても社会制度はそのままだった場合のお話です。
●はじめに
最近現代日本にダンジョンが出現する、という題材がローファンタジーもので見かける事が多くなったような気がします。
ダンジョンを異世界の存在とするのであれば、逆異世界転移といえなくもないでしょう。
ダンジョンが現れた時、現代社会の兵器が通用する敵が出て来るかどうかの設定は横に置くとしまして。
ここで取り上げるのは、ダンジョンに潜り、様々なものを得ることで生活する場合の税金の話になります。
●冒険者は個人事業主
ここではダンジョンに入り、価値のあるものを入手する人達を仮に冒険者とします。
(恐らくその職業名は作品によって色々異なると思われますので、便宜上です)
現代社会で主人公として扱われやすいのは、親に扶養される高校生や、親から独立した大人かと思われます。
この人達がダンジョンでの収集活動によって生計を立てているとしますと、無政府状態に陥っていない限り、収入と所得が発生しますので税金がかかります。
親に扶養されている高校生がダンジョンに入って賃金を得る、という話がどこかにあるとします。
ここでよく「103万を超えなければ~」という具体的な数字を書かれる事もあるかもしれません。
実は、親の扶養でいられるかどうかは所得が『38万円以上になるかどうか』です。
この差額は65万ですが、この65万という数字は「給与と言うかたちで得た収入」に対して控除される金額です。
ダンジョンでモンスターを倒したり、中にある鉱石や植物といった価値のあるものを集めて収入を得る場合、給与での収入には該当しないことが多いです。
そして今の国の税金の解釈では、ダンジョンで生計を立てる方は個人事業主とみなされることが多いです。
仮に103万稼いだ場合、何もしなければそのまま事業所得103万と計算されます。
一応基礎控除といって、どんな場合でも所得から38万差し引いて計算することはできますが、それでも65万残ります。
こうなると、所得は38万以上となって扶養は受けられなくなりますので、親は扶養している家族が1人減り、その分税額が上がります。
そしてあまり知られていませんが、所得が33万を超えた場合、今度は都道府県や市町村といった自治体の税金が発生します。
市町村によって異なりますが、市県民税というものが所得のおよそ10%の税率でかかります。
そしてこれとは別に、国民健康保険税というものもかかってきます。
こちらは課税が決まった翌年に払うよう通知が来ますが、所得のおよそ15%の税率がかかります。
100万円の所得を得たら4分の1(だいたい25万円)くらいは、都道府県や市町村にとられると考えて下さるとありがたいです。
●稼ぎすぎると税金の種類も増える
親の扶養に入れないからなど、様々な理由からダンジョンからより多く稼ごうとすると、別の税金も群がってきます。
所得で250万以上を稼ぐと、今度は個人事業税という税金がかかります。
こちらの税率は所得の5%です。
さらに税額が一定以上の額まで上がると見込まれると、今度は『予定納税』というものが発生する可能性があります。
これは『貴方の来年の税金が高くなりそうなので、今年のうちにある程度税金をおさめてください』という税金の先払いにあたります。
ちなみにこの予定納税ですがほぼ強制になります。
おおよそですが40万以上の金額を先に納付するような形になるでしょうか。
そしてダンジョンから得たものを、買い取り先に売却して得た金額が1000万以上となった場合、2年後に消費税の支払いが待ち構えています。
現段階での法律では食料品など一部が8%ですが、それ以外は10%のため、それぞれの売却で得た売上金から経費を差し引いたうえで税率をかけたものが消費税となります。
なおこちらの税金は、現段階では売り上げが1000万以下となれば翌年から支払いの対象から外れます。
●所得から控除できるものも増える
ただ、これでは『稼ぐだけ税金を取られてしまう』と思われる方も多いかと存じます。
その場合、ある種類の支払いが経費として認められることがあります。
今回の場合ですが、ダンジョンに入ってモンスターを倒したり、中にあるものを収集して現金化することで生計を立てているとします。
このとき作業用として購入した衣服や靴、防具や武器など、ダンジョンの生産するモノを収集して収入を得るためにかかった費用は、消耗品費という扱いにすることが可能です。
必要経費として認められますので、支払った時のレシートや領収書は必ずもらいましょう。
これらは経費として支払ったという証明になります。
10万円以上の備品や測定機器を購入して使用していた場合は、減価償却費という名目で、かかった費用を計上できます。
例えばですが、経費を計算するためなどにパソコンを使っていたり、何かを印刷する為にコピー機を使うならそれらの購入費用も経費に含めることができます。
恐らくですが、ダンジョンで使用する武器や防具を購入した時の費用も、ダンジョンで活動するという『業務』で使用している品を購入したということですので、経費に含めることができるでしょう。
ただダンジョンで使用する武器や防具の耐用年数は、ものによって変化しますので、一年間でいくら経費として認められるのかは、税務署や税理士に相談した方が無難です。
これは減価償却費に該当するものを購入した場合は、耐用年数の年数をかけて経費として引き続ける計算方法をとるからです。
●減価償却費という落とし穴
減価償却費は、かかった費用をそのまま記載するわけではありません。
最近主流なのは、取得にかかった費用を耐用年数で割り、1年あたりにかかった費用を経費として計上する方式です。
それでも費用が大きければそれだけ経費として収入から差し引けるのは事実です。
ただこの減価償却と言うのは曲者です。
というのは、ダンジョンに潜るために使っている武器や防具などが、事業のために使っている備品という面もあるため、ある程度の額(取得価格で300万)を上回ると、今度は市町村の税金にあたる固定資産税・都市計画税が首を突っ込んできます。
事業を行うにあたって必要な備品を持っているだけでも、一定の価格以上のものは償却資産と言う税金の対象になります。
こちらはダンジョンに潜るために使用する武器や防具の耐用年数から、今の資産価値を計算して評価額を出し、それに税率1.4%(+都市計画税は0.3%)をかけて、税金を請求してきます。
この固定資産税・都市計画税の嫌なところは「その武器や防具を持っている限り」毎年請求が来ることです。
もちろん使用し続ければそれだけ劣化するので、税金の基準となる評価額は年月がたてば落ちますが、ゼロにはなりません。
よって使い続ける限り、税金は毎年発生します、
それでも固定資産税・都市計画税として払った税金につきましては租税公費という経費で計上ができます。
●これらも経費として収入から差し引けます
ダンジョン内での情報を集めるために、インターネットを使って調べものをしたり、あるいは自分から何かしらの情報を発信する等の活動を行ったとします。
このときインターネットを使うために通信費用を支払った場合、ダンジョンで収入を得るために必要な活動をしていた時間分の費用は通信費として認められることがあります。
ただ、ほとんどの場合ですがダンジョンでの活動絡みだけでインターネットを使うことはないと思います。
そのため『按分』という形で、支払った通信費用のうち何分のいくつかは仕事用、それ以外は私用というような感じで費用を分けた上でなら、仕事用としてかかった費用を経費とすることができます。
ダンジョンと家を往復する時、電車やバス、タクシーを使用した場合は、その費用を旅費交通費に計上できます。
ホテルなどに泊まった時に生じる宿泊費も旅費交通費として計上できます。
武器や防具の修繕費用も、修繕費として計上することが可能です。
同様にダンジョンに潜って作業を行う過程で、ダンジョンで収入を得るという事業の関係上、誰かと話し合いの場を設けて会議などを行った際は、その費用を会議費として経費にできます。
さらにダンジョンで収入を得るという事業の関係で親睦会などを行った場合、その費用は交際接待費として計上することも可能です。
ただしこの場合は自分の分だけを払うのではなく、親睦会全体でかかった費用を全て支払った場合のみ適用されます。
自分の分だけ支払う割り勘は、接待交際費には含まれません。
恐らくですが、ダンジョンに潜るというのは命の危険がありますので、それ相応の損害保険はあると思います。
もしその保険料を払っていた場合も損害保険として経費扱いにすることができます。
また細かい話になりますが、ダンジョンで得たアイテムを買取を行う業者なり政府なりに納品して、指定の口座に代金が振り込まれるというパターンが多いかと思われます。
その場合、銀行間でお金をやり取りする場合に生じる『支払手数料』というものを差し引かれている可能性がありますので、それも経費として認められます。
何が経費になるのかわからなければ、税理士を雇うというのも手です。
この場合、税理士の雇用にかかった費用も経費として認められます。
これら経費になるものを引っ張り出して収支内訳書に記載できるようにすれば、収入=所得ということはなくなるはずです。
そうなれば、収入で103万稼いだとしても、経費を差し引いて所得35万円以下になれば親の扶養から外れる可能性は小さくできるはずです。
●ダンジョンでの収入は源泉徴収という形で既に税金を納めていることが多い
ダンジョンで収入を得る作業として、何らかの物品を収集して買い取り業者(もしくは政府)に物を納め、代金を得る流れがあったとします。
もし業務提携や業務委託など、何らかの事業の形態で買い取り先(もしくは政府)に雇われていた場合、源泉徴収票や支払調書と言った収入金額や『既に納めた税金の金額が記載されている証明書』は必ず請求して下さい。
こういった源泉徴収票などの証明書は、作成することが法律で義務づけられておりますので、もし相手側が用意しない場合は税務署に話をして、作らせる方がいいでしょう。
そしてダンジョンに潜って働く人たちは賃金を得ているとき「既に天引きで所得税を払っている」状態になることが多いです。
基本的に業務委託などの場合、所得のおよそ10.125%が源泉徴収として差し引かれていますが、自動的に引かれている時は「何の経費も控除もない収入=所得×税率」で計算された税額です。
普通でしたら納め過ぎな状態ですので、確定申告できっちり経費や控除に該当する書類を提出できれば、納めすぎた税金を取り戻す事が出来ます。
この時の申告の結果が、通常であれば暮らしている場所の各自治体にも送られますので、しっかり経費を計算して所得を低くできれば、市県民税や国民健康保険などの費用を抑えることも可能です。
●結論。ダンジョンに入るなら1年前から帳簿をつけましょう
もし経費となる支払いを所得から差し引きたい場合は、申告の前の年の1月1日より帳簿をつけるのが堅実です。
なお帳簿の状況に応じて、控除されなかったり、一定の金額を控除されるものに分けられます。
控除される場合は青色申告と言いますが、額は2種類のうちのいずれか(10万控除かそれ以上の控除)に振り分けられます。
この場合の控除というのは、そのままでしたら「収入-経費=所得」という計算のところを、「(収入―経費)-控除=所得」という形で、所得がある程度控除されることを言います。
ただし青色申告になるためには、青色申告会などの関連の団体に入会し、年に数回帳簿のチェックを受ける必要があります。
10万以上の控除を受けたい場合は、一部のなろう小説ではおなじみの『複式帳簿』を完全に使いこなす必要があります。
最近では難しい箇所の計算をやってくれるソフトもありますので、購入するのも一つの手です。
もちろんこのソフトの購入費用も、経費として認められます。
この青色申告では、いろいろ書類を出すよう要求してきますが、相手が知りたいのは「どのような支出があるか」ではなく「どのような収入があるか」です。
なので、収入の方がしっかり証明できれば所得控除は受けやすくなると思われます。
なお、ここまで記載した内容はあくまでも『ダンジョンが出現しても、現在の日本における法律や国の各制度が正常に機能している場合』のお話です。
ダンジョンが出現したことで政治が機能しなくなったり、公共サービスが受けられなくなったり、給与が支払われなくなる事態であったときは、別の制度になっているか「やったもの勝ち」の無法状態になっている確率が高いです。
その場合は税金を気にする必要もなくなるでしょうが、隙を見せたら臨時政府とやらの団体にいろいろ言いがかりをつけられて、税金という名の上納金を払わされる可能性が高くなるでしょう。
そのときは諦めるか、物理的に武装して戦うことをお勧めします。
ここまでお目通し下さり、ありがとうございました。
参照資料:
勘定科目一覧表巻末資料内、勘定科目一覧表兼消費税の税区分表
所得税および復興特別所得税確定申告の手引き・確定申告書B用他