Scene20(365) 未來さんと夏音ちゃん
鏡を見る。自分が純白のドレスを着ているのが違和感しかなくて、恥ずかしくなってきた。
「これやっぱり変だよね?」
「前着た時は未來さんノリノリだったじゃないですか」
夏音ちゃんも私と同じドレスを着ていた。しかし私と比べると、とても似合っているように見える。
……やっぱり恥ずかしいなぁ。
「だって今日はいろんな人に見られるんだし……」
「別に知り合いしかいないんですから、大丈夫ですよ。そうやってる姿を見られた方が、後々後悔しますよ?」
それは正しいのだが、羞恥心を消すことはできなかった。
すると扉が開き、紫音ちゃんと涼香さんが入ってきた。
「二人とも似合ってるね」
「すごく綺麗です!」
二人の視線がつらい。もちろん彼女たちは純粋にそう言っているのだろう。だがそれを素直に受け取れない自分がいる。あの頃から変わったつもりでいたのだが、人はそう簡単に変われるものでもないらしい。
「ほら、二人ともこう言ってるんですから、自信持ってください」
「……うん」
ひさしぶりに会った二人は、前よりも仲が良さそうに見えた。
紫音ちゃんは以前言っていた目標を叶え、今は涼香さんと同棲しながら同じ大学に通っている。なんだか一年前の私と夏音ちゃんを見ているようで微笑ましい。
「……ほんとに結婚おめでとう。お姉ちゃん、未來さん」
改めて言われると、急に実感が湧いてきてしまう。夏音ちゃんにプロポーズしてから、すでに半年ほど経っていた。
「邪魔しちゃ悪いし、早く戻ろ?」
「……そうだね」
そう言って二人は出ていった。
私は扉が開いた瞬間に見えた人影を見逃さなかった。
「葉月も入ってきていいんだよ?」
「……バレてたかぁ」
葉月が頭を掻きながら部屋に入ってきた。
「来ないんじゃないかって思ってた」
「私もそう思ってました」
「せっかく招待されたのに行かないのも悪いと思って……」
そう言いながら葉月は目を逸らした。彼女は明らかに嘘をついている。私は少しかまをかけてみることにした。
「新しい彼女に行ってこいって言われたんでしょ?」
「な、なんでそれを!」
……どうやら正解のようだ。葉月に新たな交際相手ができた、それがなんだか自分のことのように嬉しかった。
「……帰る!」
彼女は部屋から出ると、大きな音を出して扉を閉めた。そんな彼女を見て、私たちは思わず笑ってしまう。
「ふふ、多分帰らないですね」
「何食わぬ顔で席についてるだろうね」
そしてその光景を想像して、もう一度笑った。
「なんか今日は騒がしいね」
「結婚式ですから」
その後も知り合いが何人も来た。式はまだ始まっていないというのに、若干疲れていた。
「……少しだけ補給させてもらっていいですか?」
「えー、この後もするのに?」
「別に何回してもいいじゃないですか」
「うん、いいよ」
そして私たちは唇をゆっくりと重ねた。
●
目を覚まし時計を見ると、家を出る時間の直前だった。
「夏音ちゃん! なんで起こしてくれなかったの⁉」
「え、まだ家を出る時間じゃないですよね?」
「今日は用事あるから早く出ないといけないって言ったのにぃ……」
「だったらちゃんと目覚まし時計をセットしてくださいよ」
呆れた表情で夏音ちゃんが私を見た。
急いで着替えを済ませ、最低限のメイクをする。その間、彼女はスマートフォンの画面を眺めながらパンを齧っていた。
「準備できた!」
「それじゃあ、行きましょうか」
私たちは家を出た。
彼女と働いている場所は別なのだが、朝は駅まで一緒に行くのが習慣になっていた。
「そういえばずっと気になってたんだけどさぁ……」
「なんですか?」
「……それ」
「どれですか?」
「いや、いつまで敬語なんだろって思って。もう結婚してから二年も経ってるのに」
「うぅん、でもこの話し方で慣れちゃってますからねぇ……」
「じゃあ、せめてさん付けはやめよ?」
「それなら未來さんも私のこと、ちゃんって呼ばないでくださいよ。子供扱いされてるみたいですから」
「……わかった」
いざ呼び捨てしようと思うと緊張してしまう。私は息をのんだ。
「……夏音」
「うぅ……。み、未來…さん……」
「はい、夏音ちゃんの負け!」
「いつから勝負になってたんですか!」
私は照れ隠しのために大声で言った。
「いきなり喋り方や呼び方を変えるのは恥ずかしいですよ」
「じゃあ、これからの課題ってことで」
「そうですね」
彼女が笑いながら私の手を握った。周りには人もいて、なんだか恥ずかしかった。
「こういうことは普通にできるくせに……」
「そんなことありませんよ。私だって結構照れてるんですよ?」
その後もくだらない話をしていると、駅にたどり着いた。
「……いってきます」
「いってらっしゃい。私もいってきます」
「いってらっしゃい、夏音ちゃん」
繋いでいた手を離す。
きっとこれからも、ずっとこの日常が続いていくのだろう。
永遠なんてないのかもしれない。それでも今は信じるしかない。
私は夏音ちゃんのことが好きだ。この気持ちは、きっと永遠に変わらない。そう信じている。
電車に乗り発車するのを待っていると、視界は自然と別のホームで電車を待っている未來のことを映していた。
彼女は去年就職して、私たちは対等な関係になった。
以前の私はそのことを恐れていた。だがこの気持ちは変わることなんてなかった。
私は未來のことが好きだ。永遠にそれが変わることなんてないだろう。
私が彼女に抱いていた優越感も、彼女が私に抱いていた劣等感も今では消えてしまった。それでも……。
二人の何の変哲もない日常。それはまだ始まったばかりなのだ。




