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未來さんと夏音ちゃん  作者: 梔子
2章 未來さんと夏音ちゃんと未来
22/24

Scene18 夏音ちゃんと優越感とプロポーズ

 昼休憩の時間になり背を伸ばす。私は休憩スペースのいつもの席に座ると弁当箱をテーブルに置いた。


「倉野さん今日はお弁当なの?」

「えぇ、節約しないとなので」


 仲のいいおばちゃん社員が隣に座った。


「また同棲してる彼氏がお金使っちゃたの?」

「彼氏じゃなくてただの友達ですよ、ただ私が少し金欠気味なだけです」


 未來のことを他人にあまりベラベラと説明することはできない。ただ、彼女のことを友達と言う度に、心にトゲが刺さった気分になる。

 それでも、私たちの関係はあまり理解されにくいものなのだ。


「でもルームシェアって大変なんでしょ? 嫌なところも見えてくるって聞くし」

「うぅん、どうですかねぇ……。私は友達のダメな部分が逆に助かるというか癒されますけど……」

「……倉野さん、絶対ダメな男とかに捕まっちゃダメだよ」


 おばちゃんが心配そうに言った。

 私は弁当箱に視線を移した。私はかなり不安を感じていた。

 なぜなら、私は今日これを作っていないからだ。

 風邪が治りかけで寝坊したのだが、未來にこれを渡された。つまり、未來がこれを作ったそうだ。中はまだ見ていない。私は恐る恐る蓋を開けた。


「ふふ、やればできるじゃないですか」


 中には焦げたウィンナーと玉子焼き、そして不格好なおにぎりが入っていた。


「ほら、これ見てください! 友達がこれを作ったんですよ!」

「そ、そうなんだ……」


 未來の成長が嬉しかったのは勿論だが、少しだけ悲しかった。それでも、私は彼女に感謝しながら弁当を食べた。




「ただいまぁ。あれ、未來さん?」


 返事がないので不思議に思いながら部屋の明かりを点けると、未來がいつものサメのぬいぐるみを枕にして寝ていた。数ヵ月前に私があげたものだ。

 部屋はいつものように散らかっていた。なんとなくそこに安心してしまう。


『嫌なところも見えてくるって聞くし』

『私は友達のダメな部分が逆に助かるというか癒されますけど……』


 昼休憩中の会話を思い出す。

 あれ自体は事実だ。


『私みたいな人間を見ると安心するから?』


 未來に言われたことも思い出した。

 そうだ。私は彼女のダメな部分を見て、優越感と安心を得ているのだ。それは今でも変わらない。ただ、今は少しだけ不安になっていることがある。もし彼女と私が対等になったら、私の彼女への気持ちが変わってしまうかもしれないというのが怖かった。

 そんな思考を振り払い、私は彼女の隣に倒れた。彼女のことを抱きしめる。

 私は彼女の温もりが好きだ。変わらない人間なんていない。だからこそ、私のこの気持ちが永遠だとは限らない。せめて長く続くように、彼女のいろんなところを好きになろう。


 普段は受け身なのに、いざという時は未來さんから行動してくれるところ。彼女の照れた時の顔。温もり。唇の柔らかさ。匂い。


 もっともっと知りたい。以前の私ならそんなこと怖くてできなかっただろう。

 私は未來のおかげで変われたのだ。

 だから、一番の障害を二人で乗り越えたかった。


「あれ、夏音ちゃん帰ってきてたの……」


 抱きしめる力を強めたせいか、彼女が起きてしまった。


「はい、ただいま」


 寝起きの彼女の唇を奪った。


「未來さん、お願いがあるんですけどいいですか?」

「なぁに……」

「今度の休みの日、私の実家に一緒に来てくれませんか」


 寝起きの彼女に言うのはズルな気がした。それでも、今しかチャンスがないと思った。ここを逃したら、私も彼女も永遠に逃げ続けるだろう。


「うん、いいよ。行こう」


 彼女が笑った。

 私たちはもう一度唇を重ねた。




 ベランダに出ると、風が風呂上りの身体を冷やした。私はコーヒーを飲みながら、夏音ちゃんのことを考えていた。


「実家かぁ……」


 いつかは行かないといけないとは思っていた。逃げちゃいけないと考えてた。

 それでも、あの人にまた会うと思うと怖くなった。


「夏音ちゃん、無茶しないといいけど」


 その時は私がなんとかしなければいけない。だが、私が他人の家庭にどこまで口出ししていいのだろうか。


「……これもただ逃げてるだけかなぁ」


 私は彼女と家族になりたいと思っている。それなら彼女の家庭問題は他人事ではないのかもしれない。


「どうかしましたか?」

「なんでもないよ、夏音ちゃんもコーヒー飲む?」

「私があまりコーヒー好きじゃないのわかってて聞いてますよね」

「……うん」


 彼女の拗ねた表情も可愛らしかった。

 家族になりたい。だからこそ逃げたくない。そう思っていると自然と口が開いていた。


「ねぇ、夏音ちゃん」

「なんですか?」


「……結婚しよ」


「……え?」


 彼女の顔が赤くなった。

 もう逃げないと決めたから。


「夏音ちゃん。私と、結婚してください」

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