Scene14 未來さんと葉月ちゃんとプレゼント
「あのぉ……、そろそろ機嫌直してもらっても……」
「……嫌だ」
どうしてこんなことになったのだろう。目の前で不機嫌そうにしている茶髪の女性を見て考えた。
原因は夏音ちゃんだ。彼女がどうしてもやってほしいことがあるから、ここで待っていてと言われた。そして律儀に待っていると見覚えのある女性がやって来たのだ。
「ねぇ……、私もよくわかってないんだからさぁ……。葉月聞いてる?」
白雪葉月、私の元交際相手だ。
「……帰る」
「お願い! 帰らないで!」
私は帰ろうとする葉月の腕を掴んだ。
彼女はやれやれといった表情でこちらを見た。
「……まだ何かあるの」
「実はちょっとお願いが……」
この状況を夏音ちゃんが作りだしたと考えると、とても恐ろしかった。
数日前、突然知っている番号から二回目の電話があった。また惚気話かと思い私はイライラしながら電話に出た。
「……もしもし」
『あっもしもし、葉月さんですか?』
その声に聞き覚えはあったが、番号の持ち主ではない。
「……なんで夏音さんが未來のスマホから通話かけてるの」
電話をかけてきたのは倉野夏音だった。正直未來から来るより辛い。
……独り身の私をバカにしに来たのか?
なんとなく卑屈になってしまう。
「なに、貴女も惚気話しに来たの?」
『い、いえ! そういうわけじゃなくて……』
彼女はゆっくりと、未來が私に電話してきた夜のことを語りだした。簡単に説明するとこうだ。
未來が私に相談したことで、ちょっとした問題が解決した。お礼がしたいから今度の休日に一緒にお話がしたい。ついでに未來へのプレゼントを探したい。……結局は惚気話だ。
「まあ、いいよ。暇だし」
『本当ですか⁉ ありがとうございます!』
別に感謝されるようなことでもない。私は知りたかったのだ。未來が夏音のどこを好きになったのかを。
「うん、じゃあ今度の土曜日、お昼に駅前でね」
そう言って私は一方的に電話を切った。なんだか仕事よりも疲れた気がした。
我ながらお人好しだ。そう思いながら隣を歩く未來を見た。
彼女曰く、夏音へのプレゼントを用意したいらしい。似た者同士だ。わざわざそんなことに付き合う必要もないのだが、少しだけ二人がどうなってるのか気になっていた。
ただ、あまり往来でするような話でもない。さっさと選んでさっさと切り上げよう。そう決意した。
「ペアルックでいいんじゃない?」
「早くタバコ吸いたいからって、いい加減に決めてるでしょ」
「……まあね」
このイライラは、多分禁煙のせいだ。
「これとかいいんじゃない?」
私はイヤリングを指差して言った。シンプルなデザインで、二人に似合いそうだ。
「うん、これいいかも」
「……お金大丈夫?」
「……多分大丈夫」
未來が財布の中を見ながら言った。
こういう時、彼女は見栄を張る癖がある。きっとギリギリ足りるかどうかといったところなのだろうが、私が彼女に金を貸す義理もない。
「お会計してくるから外で待ってて」
私は頷き、店の外へ出た。
これからどうするかを考える。どこか食事ができそうな場所を調べていると、未來が出てきた。
「はいこれ」
突然彼女が私に紙袋を渡してきた。
「……なにこれ」
中を見ると、ピアスが入っていた。まさか、これを買えるかどうかで、先程財布とにらめっこしていたのだろうか。
……そして、このピアスには見覚えがあった。
「デザインは少し違うかもしれないけど、二年前に欲しがってたやつ」
「……どういうつもり?」
「今日のお詫びとお礼に」
彼女は笑ったが、私は困惑していた。私と彼女の関係は、ただの元交際相手でしかない。そんな相手にこんなことをする価値があるなんて思えない。
これは卑屈なんかではない。……事実だ。
私は二年間、未來に子供みたいな嫌がらせをし続けた。どうしてそんな相手と一緒にいて平気なのだろう。どうして二年前と変わらない笑みを私に向けるのだろう。
諦めたはずなのに。もうその笑顔は私に向くことはないと思っていたのに。以前と変わらない彼女の姿が眩しくて、苦しい。
「もしかしたら葉月は嫌がるかもしれないけど、私は葉月のこと友達だと思ってるからね」
……友達。大学に入学した頃のことを思い出す。私にとって友達という言葉は呪いでしかない。それでも、未來に言われてなんだか嬉しくなる自分がいた。
私は私だけを見てくれる人が欲しい。それは今でも変わっていない。ただ、少しだけあの頃より前向きになれた気がする。
紙袋を鞄の中へ入れる。……この気持ちのまま、彼女と一緒にいれる気がしない。
「……帰る」
「また一緒に出かけようね!」
「……気が向いたらね」
結局二人のことを聞くことはできなかったが、私は満足してそのまま家に帰った。
今日はひさしぶりに薬に頼ることなく、ゆっくりと寝ることができた。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい、未來さん。どうでした?」
夏音ちゃんが笑った。私は彼女に今日のことを怒るべきか考えたが、笑顔を見たらどうでもよくなってしまった。
彼女の髪を撫でて、そのまま優しく唇を重ねた。
「んっ……。もう、我慢できなかったんですか?」
「そう言われると恥ずかしいから聞かないでよ」
私は彼女から目を逸らした。
「最初から、私と葉月を仲直りさせようとしてたの?」
「そうですよ。でもまさかこんなに素敵なものをもらえるとは思ってませんでした」
渡したイヤリングを彼女は嬉しそうに眺めていた。その様子を見て私も嬉しくなったのだが、財布の中を見るのがかなり怖い。
「これ結構高かったんじゃないですか?」
「……まあ、うん」
私は正直に答えた。
「これからは節約しないといけませんね?」
「……はい」
「課金もできませんよね?」
「……おっしゃる通りです」
……今日一日くらいプレゼントで浮かれてくれたっていいのに。なんというか、夏音ちゃんと葉月へのプレゼントで金欠になることまで含めて、今日はずっと夏音ちゃんの手のひらの上で踊らされた気がした。




