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未來さんと夏音ちゃん  作者: 梔子
1章 未來さんと夏音ちゃんとグレープフルーツ
11/24

Scene10 未來さんと夏音ちゃんと夏祭り

 喧噪と祭囃子が聞こえてくる。駅前で私は夏音(かのん)ちゃんのことを待っていた。


 八月の終わり、家の近所で花火大会が行わる。先日互いの想いを伝えた私たちは一緒に行くことになった。つまりデートだ。

 ……そう考えるだけで顔が熱くなる。


「おまたせしましたぁ」


 夏音ちゃんの声が聞こえた。声のした方向を見ると、浴衣姿の彼女がいた。思わず見とれてしまう。


「ど、どうですか……、おかしいところはありませんか?」

「う、うん……。似合ってる」


 彼女の着ている浴衣は白を基調とした花柄のデザインだ。言葉にするのが恥ずかしかったが、とても可愛らしかった。

 それに比べると私の格好はいつものTシャツとパンツ。傍から見ると気合の差が激しい二人だ。


未來(みらい)さんも似合ってますよ」

「……それ本気で言ってる?」


 彼女は意地悪そうに笑った。


「来年は二人で一緒に浴衣着ましょうね」


 ……来年。そうだ、二人で夏祭りに行く機会なんてこれから何度もある。楽観的だが、それでいいのかもしれない。



「やっぱりぼったくりですよ、さっきの屋台」

「しょうがないじゃん、自販機も全部売切れてたんだし。こういうときくらい財布のヒモは緩めた方が楽しいよ」

「……未來さんはいつも緩みきってますけどね」

「うっ……、来月からは貯金します……」


 私はサイダー、夏音ちゃんはラムネを飲みながら二人で屋台を巡っていた。はぐれないようにと言い訳をして手を繋いでいる。


「あっ! たこ焼き食べたい!」

「しょうがないですねぇ」


 互いに手を離すのを惜しんでしまう。くだらないことだが、なんだかそれがとても愛おしかった。

 どう見てもカタギではなさそうな屋台のお兄さんに話しかける彼女を見て、なんとなくハラハラしてしまう。


「たこ焼きひとつください」

「あいよっ!」


 何事もなく戻ってきた彼女を見て安心した私は、がま口の財布を取り出した。


「半分出すよ」

「大丈夫ですよこれくらい。それより自分の心配をした方がいいんじゃないですか?」

「……そうだね」


 くじ、射的、その他色々。私を惑わせるギャンブルがこの先いくつも待ち構えていた。




「お金……なくなっちゃった……」


 私はため息をついた。未來に普段の財布ではなく、小さい小銭入れを持たせたのは正解だった。

 数店は我慢していた彼女も、くじの景品に最新のゲームソフトを飾っていた屋台の魅力には勝てなかったようで。彼女は水鉄砲や光る玩具を泣きながら抱えていた。


「だから最初にあれは飾ってるだけで当たらないって言ったじゃないですか」

「でも万が一があるかもって思ったら……」

「はぁ……とりあえずその玩具はバッグにしまって、これでも飲んでください」


 私は彼女が悪戦苦闘している間に別の屋台で買ってきた缶チューハイを二つ見せた。


「どっちにします?」

「……グレープフルーツ」


 彼女にグレープフルーツの方を渡し、もう一つのレモンの缶を開けた。


「花火の時間そろそろですし、もう行きましょ」

「……うん、お金ないし」


 彼女は素直に頷き、私の手を握った。



「やっぱり場所ほとんど埋まってますね……」


 河川敷に着くと、ちょうど花火が打ち上げられた。轟音と共に空に花火が舞う。

 しばらく歩いてちょうどいいスペースを見つけたが、お世辞にも景色がいいとは言えなかった。

 自然と視線は未來の方へ向く。

 彼女に想いを伝えたこと、それ自体に今の私は後悔していない。ただ、例えば十年後の私はどう思っているのだろうか。あの時は馬鹿なことをしたと笑うだろうか。

 ……それでもいい。たとえ誰に言われようが、言ってきたのが未来の私だとしても、恋は盲目なのだから。

 未來は花火に夢中になっている。なんだかそれが気に入らなかった。周りの人たちは私たちのことなんて気にしないだろう。だから、私は彼女の頬にキスをした。


「えっ、いきなり何!?」


 彼女の顔が赤くなった。そうだ、私は彼女のこういう表情を見て、好きになったのだ。


「別に、花火に夢中だから悪戯しただけですよ」

「なにそれ、一緒に見ようよぉ」

「わかりましたよ」

「ても、悪戯されたら仕返ししなきゃね」


 そう言って怪しげな笑みを浮かべた。

 何をされるかわからず身構えた瞬間、口をふさがれた。柔らかい感触と、柑橘の匂いが伝わってくる。花火の音がしたが、それに意識を割く余裕なんてなかった。


 ファーストキスは、グレープフルーツの味がした。



「……酔ってます?」


 時間が止まってしまったみたいに、二人ともしばらく固まっていた。やっと出てきた言葉がこれだ。自分で自分が嫌になる。


「……そうかも」


 未來が顔を赤くしながら言った。

 ……嘘だ。ただ何も考えずに勢いでした行動を誤魔化しているだけだ。


「……お願いがあるんですけど」

「な、なに……?」

「もう一回、してもいいですか?」


 答えを聞く気は最初からなかった。今度は私から、彼女と唇を重ねた。花火も周りの目も気にしない。完全に二人だけの世界だった。


 永遠の愛なんてない。それは母を見て理解していた。それでも、彼女との関係はずっと続いてほしいと願った。

 ……このまま時間が止まればいいのに。そうすれば、私と未來の関係は永遠になる。

 きっと未來はこれからもいろんなことを一緒に楽しみたいから、時間は止まってほしくない。そう言うのだろう。そんな彼女が、なんだか眩しかった。

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