道は幾つも何度でも
世界はどうしてここまで残酷なのだろう。社会は広い様に見えて実は一本道の重なり合いでレールから外れればすぐに堕落してしまう。私は生きる上でそれが一番嫌いだったのだ。
「考え事?」
私を心配した美帆先輩は口にしていた。
「いえ、何も.......」
黙って少し先を歩く私は焦燥感に駆られていた。というのも、高校一年からこの学校は進路を考えていかなくてはならない方針らしいのだ。
今のご時世だと何処もそんなものだと自分に言い聞かせてはいるのだが。
「そんな強がらなくったっていいだろ。ほら、やるよ」
「え」
彼女は私に向けて固形物を渡した。手の平を開くと小さな銀紙で包まれたチョコだった。
「隠してる事があるなら無理に言わなくていい。だけどそんなに気張ってたら疲れるだろ」
「ですが」
「落ち着いて甘いものでも食べとけ。そろそろ休み時間終わっちゃうけどな」
予鈴が鳴り、美帆先輩は自分の教室へと戻って行く。ぱくりと貰ったチョコを口に頬張ってもあまり味はしなかった。甘さよりも今は苦さの方が目立つ様に。
退屈な授業を終え、私は美帆先輩が部長をしているパソコン部にお邪魔することに決めた。無駄足だとしても何か発見があるかもしれない。自然と足は軽くなった。
「よう」
「お邪魔します」
「これが特急券の子ちゃん?初々しくて可愛いじゃん」
私をジロジロと見て近くの椅子に座っている女の子は笑った。美帆先輩とは違い、完全に明るいと言った感じではなく、鞄にはちょっとしたアニメグッズがちらほらとぶら下がっていた。
「自己紹介まだだったね」
「はい」
「私は袖山 桃代。偶然かもしれないんだけど実家が桃農家でね。美味しい桃が採れるんだ」
「へぇ~食べてみたいです」
「そうだね。今度持ってくるよ」
桃代先輩は部長である美帆先輩に向かってシシと嫌な感じで笑った。新入生を手懐けるのは私の方が向いているとアピールするかのように。
「とにかく、望ちゃんはどうしたい?」
「どうしたいとは」
「これからの事。この部活に入って活動するもいいけど、何か気乗りしてない感じだからな。悩み事があるなら相談にも乗るけど」
私は彼女の言葉を聞いてハッとしたと同時に顔からまたしても文字が浮かび上がっているのを見つけた。『心配』『どうしたの』『スタミナ丼』.......最後のが凄く気になった。
「スタミナ丼って何ですか」
「えっ、なんでそれを!その事は誰にも話してないぞ!?」
「最近、人の顔から文字が出てるのを読み取れてしまって.......不思議ですよね」
言うと美帆先輩は照れ顔で答えた。
「べ、別に私が分かりやすい人間って訳じゃないんだよ。学食でお昼摂り終えた後にスタミナ丼の存在を知った事とか」
「全部言ってるじゃないですか」
部長のお腹がぐぅと鳴った。
「望!お前怖いぞ!ここまで言い当てられたら乙女のプライドまで傷つく!」
「難儀ですね」
後ろでクスクスと桃代先輩は笑っていた。それを横目に私は本気でこの症状に困っている事を部長に伝えた。
「別に直さなくていいんじゃね?」
「はい?」
「便利な能力じゃん。人の心がわかるって」
「でも、私の中では少しずるい気がして」
部長は私の耳元まで顔を近付けて答えた。
「それだけお前が誰かに優しくできるって事だよ」
すっと顔を向かい側に戻し、彼女は笑った。その近い距離で耳元に語られた緊張感からか私は急に恥ずかしくなり、赤面を隠せずにいた。
「部長、今なんて」
「フフ。やはり私の方が桃代より人心掌握は優れていたようだな」
「何を。試してみるか」
「望む所」
2人はじいと向かい合って見つめていた。パソコン部と言いつつ、全く機械を使わぬままに(敵を欺く機会は窺っている様だが)
「あの」
「どうした。特急券の子」
「私、こんな楽しい部活、今まで入ったことがなかったです。正式に入部させてください」
「「その言葉が聞きたかった!」」
こうして私の他人の心を『読める』能力のおかげで部活に入り、先輩との親交を深める事すらできてしまう訳なのでした。