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06 キュウタの人気

06 キュウタの人気


 2月も後半になると受験戦争も終戦を迎え、卒業式が近づくと、何故かみんなそわそわし始める。今までの思い出の再確認、やり残したことの反省、旅立つ事への解放感、仲間との別れに対する哀愁。そんな中で、二人の呼び掛けに反応したのは、陸上、サッカー、ラグビー、ハンドボール、テニス、剣道、柔道、バスケットボール、バレーボール、バドミントン、ダンス、水泳。主要な部活の誰かしらは参加することになった。

 そして、卒業式までに参加を表明した予定者約100名。予想外の人数だ。自分の事しか考えていない暇な高校生二人が思い付きで考えた訳なので、少しは考えて声を掛ける等と言うことなど考えられる訳がない。内容も考えていなければ、会場探しすらままならないわけで、キュウタの担任に泣きついて学校の調理実習室を借りることになった。先生と言うのはやはり相談してみるもので、どうせなにも考えていないんだろうと瞬時に見透かされ、学年の担任一同で軽食や飲み物を用意してくれる事になった。日頃の先生とのコミュニケーションの成果が実った一瞬だった。ただ、当日その面々が参加することになった事は否めない。


 それぞれの部活の部長や、主力選手は顔や名前に覚えがあるものの、ネームプレートを作成して良かったとつくづく感じた。制服を着ていないと余計に知っている顔も一瞬誰だかわからない。そもそも、同じ学校の同じ学年で3年間過ごしても、一度も会わない人がいるのだから、人との出逢いと言うのは本当に難しく、不思議なものだと想う。

 祝賀会は、生活指導も担当する体育教師の試練とも思える長い訓辞のような挨拶で幕を明けた。この教師を前にすると、なぜか背筋が伸びてしまう威圧感を感じるが、この儀式からも卒業だと思うともの寂しい気持ちになる。その後、キュウタが代表で挨拶し、紙コップでの乾杯となった。卒業式から1週間しか経っていないのだけれど、とても懐かしい感じがするのはなぜだろうか。久し振りの再会に、あちらこちらで思い出話が繰り広げられ、これからの友情を語り合っている。

 さて、本題となるミッションを達成させるための作戦を開始しなければならない。キュウタは社交的ではあるが、特定の人と打ち解けると言うのは苦手のようだ。それが片想いの相手であればなおさら乗り越える壁が高くなってしまう。その為に、受付で配った名簿に、「この高校での出逢いを無駄にしてはもったいない。これからはいつまでも同窓生なのだから、積極的にメッセージを交換しよう」と言うキャッチコピーを載せていた。さらに、先の挨拶でもキュウタ自ら参加者に向けて呼び掛けていた。しかし、これは意外な結果をもたらした。

「キュウタ君、今日はお誘いありがとう」

 キュウタと同じクラスのエリが、バスケ部女子を引き連れて話しかけてきた。

「おぅ、バスケ部。こちらこそみんなで来てくれてありがとう」

 キュウタにとっては5人の女子ではなく、バスケ部一堂なのだろう。

「やっと卒業だね〜長かったような短かったような」

「そうだな、ほとんど部活の記憶しか無いけど」

「その気持ち解る。進学したらしっかり遊ばなきゃ」

「良い考えだね。その時は是非お誘いいただきたいものだな」

「誘ったって来ないくせに」

「そんな事無いよ、予定次第だよ」

「そうだ、せっかくだからみんなとメッセージ交換しようよ」

「えっ、俺と?」

 突然の女子からの誘いにキュウタが驚いた顔をすると

「だって、さっき自分で言ってたじゃない、この学校での出逢いを大切にって。キュウタ君は未来の スターの卵なんだから、ファンの女の子も多いんだからね」

「そ、そうだな。なぁ、ジン。出逢いを大切に、だよな」

 動揺を隠しながら必死に冷静を保とうとしているキュウタ。内心、僕に振らないでくれと思いながら、

「そうそう。今回の祝賀会のメインテーマだからな」

「じゃあ、みんなでね。みんなキュウタ君と会いたがってたんだから、ね」

 そう言いながらバスケ部一堂を振り返った。

「はじめまして、リオです。私もメッセージ交換して良いですか?」

「私は西園です。キュウタさんと同じ大学に決まったんです。ヨロシクお願いします」

「おぅ、ヨロシクな」

 こんな感じで、男女問わずメッセージの交換が進められた。歩く先々で会話を交わし、男子だけではなく、多くの女子ともメッセージを交換していた。いつもの顔、懐かしい顔、初めて見た顔、が流れていった。相変わらずの砕けた顔もいれば、想いを寄せていて、はにかんで頬を真っ赤にしている顔もいる。それにしても、キュウタの人気は本物だった。毎年のバレンタインでも気付いてはいたが、同じ会場の中で繰り広げられる展開を見ると、その事実を改めて実感させられた。


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