19 帰り道で
19 帰り道で
その後で江ノ島を散策し、空が赤くなり始めた頃、海の見える街を後にした。日常とは違う雰囲気、デートによる胸の高鳴り、日常とは違う空間で過ごした余韻、帰り道と言う寂しさ等色々な気持ちが混ざり、車のなかでも話しはつきなかった。ヒロも時間を惜しむかのように色々な話を楽しんでいた。
しばらくすると少し疲れもあり、言葉は少な目になった。少し混みはじめていたものの、渋滞することなく進み、見慣れた街に戻ってきたころヒロが話し出した。
「レイ、実はさ…」
「どうしたの?」
「私、神奈川の大学って言ってたでしょ。でも、本当はロンドンの学校なんだ」
「えっ」
後ろの席で二人が顔を見合わせている。
「親の紹介も有って、春から向こうに住むことになっちゃった」
「ちょっと、何言ってもるの?ヒロ、よく分からないんだけど」
「ごめんね、うそついてて。早く話さなくちゃと思ってたんだけど、今日のこともあったから、なかなか言い出せなくて。許してね。キュウタ君もありがとうね」
「許してもなにも…。だって、あんなにジン君と仲良くしてたし…」
「ジン君には、今日1日、彼女にしてデートを楽しませて下さいって頼んだんだ。ね、ジン君。わがまま聞いてくれてありがとうね」
「いや…何言ってるんだよ。今日は楽しかったよな?」
後ろの二人に向かって呼び掛けた。
「おぅ。楽しかった。弁当も美味しかった。それにしても突然だな…」
「で、いついくの?どのくらい?」
「出発は2週間後。最初の1年は帰らないと思う」
「そうなんだ…」
田神は目を伏せて答えた。
「せっかく仲良くなったのに、寂しくなるな…」
キュウタも適切な言葉が思い浮かばない、と言った雰囲気だった。
ヒロの家に着いた。
「今日は本当に楽しかった、ありがとう」
「こちらこそ、ごちそうさま」
「ごちそうさま。今日の事は忘れられないよ」
「もうしばらく日本にいるから連絡するね」
車を降りて荷物を取り出そうとトランクに廻った。一瞬だけ二人から死角になった。その時、ヒロの顔が近づき、唇が頬に触れた。
「ジン君、今日は本当にありがとうね。なんか、色々とごめんなさい。迷惑お掛け致しました」
「全然。可愛い子には優しくしろ、って言うのが我が家の家訓だからね」
「ありがとう。誉められると調子に乗っちゃうから」
「これ以上調子に乗らせたら大変だから、今の一言は撤回しておくよ」
恥ずかしがることなく自分の気持ちに素直に行動するヒロ。自分の選んだ道に進むために1つの気持ちに諦めを付けたヒロ。人生は何故か試練の繰り返しだ。僕にはヒロの気持ちを受け入れ、処理するだけの能力があるのだろうか。
「本当にありがとうね。さようなら」
「元気でな」
ヒロが車の中は三人になった。何となく雰囲気が重い。
「ジン君、知ってたの?」
田神がミラー越しに真剣な視線を向けながら聞いてきた。
「いや、知らなかった。少なくても昼に弁当を食べるまでは」
「どういうことだよ、ジン」
キュウタも不思議そうに聞いてきた。
「ちょうど水族館に着いたとき、トイレに寄っただろ。その時にヒロからメッセージが届いたんだよ」
「なんて?」
「春から留学するからみんなで遊びに行くのは今日が最後になる、だから、最初で最後になるけどわがまま許してくれって」
「複雑だよな…。それで仲良く振る舞ってたのか?」
「無理に、と言う訳ではないよ。純粋に楽しかっただろ?」
「確かに、ヒロの言葉に時折思い詰めたようなところがあったよね」
「そう言われるとそうかもな」




