18 楽しい時間
18 楽しい時間
水族館にはお昼前に到着した。平日の昼間にしては順調なドライブなのではないか。時間的にもちょうど良いので、先にお弁当で昼御飯にすることにした。
「あの辺り、ちょうど良いかも」
田神が少し先にある海の見える公園を指差した。
「やっぱり海は気持ちいいね〜」
「そうだね、天気も良いしね」
「二人とも、海辺の散歩が様になってるよ」
「ありがとう」
「俺たちも海って感じじゃないか?」
「日焼けの具合とか、溶け込むかも」
「キュウタは海って言うより、土木作業員だろ」
四人でベンチを囲み、ヒロの自信作を広げた。さすがに自信作と言うだけあって、素晴らしく充実していた。
「ヒロ、今日は気合いの入り方がいつもと違うね〜」
「うん、デートでお弁当なんて機会、もうないかもしれないからね。では、みなさん、どうぞ」
メインのおにぎり、サンドイッチをはじめに、定番の唐揚げ、玉子焼き、さらにはチョップドサラダにポットに入ったスープまである。
「すごいな。ヒロ、これ全部作ったのか?」
キュウタが驚きながら聞くと
「半分くらい。スープとサラダとサンドイッチ」
「それだけでもすごいな」
「玉子焼きは気合いを入れて作りましたからね。はい、ジン君食べてみて」
「ありがとう」
玉子焼きは、ヒロにリクエストしていたメニューだった。個人メッセージだったので、一瞬そのやり取りが他の二人に知られたのではないかと思い、1人でドキドキしてしまった。これほどオープンに振る舞うヒロはどんな気持ちなのだろう。
「ジン君、感想は?」
田神が余計なツッコミを入れてくる。
「うん、美味しい」
「それだけ?もう少し何とか言えないのかね〜。ねえ、ヒロ?」
ヒロはスープをカップに注ぎながら微笑んで僕を見つめながら呟いた。
「美味しいのは当たり前だよ、愛情が入っているから」
「ヒロはやっぱりジンに気がある。そう思わないか?」
トイレで手を洗いながらキュウタが話しかけてきた。
「そうか?」
「確実だね。ジンを見る目が違う。可愛くて料理も出来てお嬢様、言うことないな。お前は羨ましいな〜」
「確かにそうなんだよな、あの笑顔で見つめられるとドキッとするよ。それは感じる」
「チャンス到来だな。ま、今日来ているだけでも可能性はかなり高いと思うよ。あとはジンの気持ちしだいじゃないか?」
「そんな簡単な話しじゃないだろう」
「いや、お前なら大丈夫。タイミングは今だよ。自信もって突っ走れ」
「簡単に言うね〜。人の事より自分の心配しろよ」
「まぁな、確かにそうだった」
その時、スマホにメッセージが届いた。ヒロからだった。
【ジンさん、実はお願いが有るんだ。二人には内緒にしておいて欲しいんだけどね…実は、卒業したら留学します。突然ですけど。そのお餞別と言っては変ですけど1日彼氏になってもらえませんか?】
その内容にとても驚かされた。このメッセージはあらかじめ用意していたのではないだろうか。「ヒロ…、わかったよ」と心のなかで呟いていた。
水族館に来るのはとても久し振りな気がする。最後がいつだったのかも覚えていないが、高校に入ってからでは無いと思う。不思議な事だけど、何故か来館者を子供のように変えてしまう力を持っている。
小さな熱帯魚の世界が広がっている。顔を寄せあって窓を覗き込むため、自然と距離が近くなる。深海の暗い世界では、迷子にならないように自然に腕を絡めてくる。
知らない人から見ると、恋人同士だと思われるのでは無いだろうか。キュウタと田神は付かず離れずの微妙な距離感を保ちながらも、海中散策を楽しんでいた。たまに子供のようにはしゃぐヒロが田神を巻き込みながら、子供のようなキュウタも混ざり合い、ふざけあった。時折田神と重なる視線は笑顔だったが、その笑顔の意味を考える余裕はなかった。
途中のショップで、お弁当のお礼も込めて何かプレゼントすることにしたのだが、ヒロが選んだのは小さなアザラシのぬいぐるみだった。
「ありがとう。良い想い出になるな〜」
「なんか二人並んでる姿、絵になるね〜」
キュウタが冷やかしを入れると、
「恋人同士みたいでしょ?」
そう言いながら僕に腕を絡めてきた。
「本当、くっついちゃえよ」
「そうなったら最初に二人に教えてあげる。ね、ジン君」
とぼけて笑いながら歩きだすと、
「あ〜逃げた〜」
そう言いながら後を追ってきた。




