第九話 異変も終わって
雪「何だ、もう始まってるのか」
月から幻想郷へと戻り、いつも通りの宴会場である博麗神社へとやって来ていた。とっくに始まっていたのか、中には酔い潰れている者もいる。
紫「あら、お帰りなさい。先に飲んでるわよ。はい、お酒」
雪「すまないな」
紫に酒を注いでもらい、一気に呷る。疲れた身体に酒が染み渡る⋯⋯ああ、美味いな。
紫「それで、貴方の言う後始末は終わったの?」
雪「ああ。これであの老害共が永琳達に関わろうとする事は無いだろう」
紫「(雪に老害なんて言葉使わせるなんて、一体何しでかしたのかしら)」
紫がそんな事を考えてるとはいざ知らず、俺は少し離れた場所で宴会を楽しんでいる永琳達を眺めていた。
そんな中、端っこでチビチビと酒を飲んでいる⋯⋯確か鈴仙という少女に目が行った。
雪「ふむ⋯⋯すまない、少し席を外す」
紫「ん、そう?」
鈴仙へと近寄ると、彼女は俺に気付いたのか一瞬目が合ったが、すぐに逸らす。
鈴仙「⋯⋯」
雪「隣良いか?」
鈴仙「え、あ⋯⋯はい」
鈴仙に断りを入れると隣に座る。戦っていた時の威勢はどこへやら。随分ビクビクとした様子で俺の事をチラチラと見ている。
雪「⋯⋯焔が世話になったみたいだな」
鈴仙「っ⋯⋯知ってるの?」
雪「俺であって俺ではないもの、らしいからな。それに俺が気絶するとき、体を借りるとも言っていたからな」
彼女に何をしたのか分からないが、あの性格だ。想像するに容易い⋯⋯自分の体で暴れるのは勘弁願いたいな。
っと、俺が鈴仙に話し掛けたのは焔についてじゃないんだ。
雪「なあ、一つ聞きたい事があるんだが」
鈴仙「何?」
雪「⋯⋯精神攻撃を喰らったとき、俺は最後なんて叫んだんだ?」
そう。あの妙に心を乱される声を聞いて、気絶する直前に何かを叫んだ筈なんだ。もしかしたら、俺を転生させた神とやらに消された、前世の記憶を知る手掛かりになるかもしれない。
前世の事など一切分からないし、知った所でと言った所だが⋯⋯知ることが出来るなら知りたいと思うのが自然だろう?
鈴仙「それを知ってどうするの?」
雪「いや、ただ気になっただけだ」
鈴仙「そう。と言っても私も何となくでしか覚えてないわよ」
雪「構わない」
鈴仙「⋯⋯『俺は殺してない。どうして信じてくれない。何でこんな目に合わなきゃいけないんだ。絶対に許さない』。確か、こんな感じだったわ」
雪「そう、か」
どういう意味なんだ⋯⋯言葉だけの意味なら、俺は前世で殺人の冤罪でも掛けられていたのか? これだけでは、前世の事は特に分からないな⋯⋯まあ、元々分かるとも思ってなかったが。
鈴仙「満足?」
雪「ん、ああ。すまないな変な事を聞いて。それじゃあ、宴会楽しんでおけよ。どうせ今後も異変のたびにあるんだろうが」
鈴仙の元から離れると、永琳と輝夜が手招きしていたので隣に座る。永琳はともかく、輝夜は少々酔ってきているようだ。
輝夜「雪、随分遅刻してたじゃない。その様子じゃ全然飲んでないでしょ? はい、注いであげる」
雪「ん、すまないな。どうだ、幻想郷の宴会は」
永琳「悪くはないわね。少し騒がしいのは難点だけど、慣れれば気にならないわ」
輝夜「そう言えば永琳に聞いたわよ。月の英雄と言われてる人がイナバに負けたらしいじゃない?」
雪「幻影や精神攻撃を仕掛けてくる相手は慣れてないんだ。仕方ないだろう」
ニヨニヨと笑いながら茶化してくる輝夜をあしらいながら酒を飲む。実際、精神攻撃を主に戦う相手は鈴仙が始めてだ。
永琳「そういえば雪、狐なのに幻影に弱いのね。狐の妖怪や神霊は幻影系の攻撃に強い筈なのに」
雪「俺自身、幻影が苦手だからな。それも関係してるかもしれない」
俺が何か一つに幻影を掛けたり、せいぜい一日程度の時間が精一杯なのに対して、同じ狐である藍は俺の何倍も掛けられるらしいからな。苦手なのは明白だ。
永琳「そうなの? 珍しいわね」
雪「まあ俺の武器は氷だし、最近は全く使わないから苦にはならないがな」
輝夜「随分割り切ってるのね。私なら苦手なものは苦手なままにしとかないのだけど」
雪「勿論克服はしようとしたぞ? だが一年以上かけても無理なんだ。流石に諦めた」
旅を始めてから道中で練習はしてたんだがな。どうにも俺には不向きらしい。結局、先も言ったが一年かけても無理だったから諦めた。
永琳「⋯⋯狐なのに幻影が苦手なのはやはりおかしいわ。そういうのって、大体過去に何か原因があるのだけど⋯⋯そうだ。雪、私の作った薬に『過去を思い出す薬』があるのだけど、使ってみる?」
雪「そんなのがあるのか」
永琳「ええ。何かをきっかけに記憶喪失になったり、心の奥底に隠した記憶を呼び起こすものだけど⋯⋯どうかしら?」
雪「⋯⋯そうだな。使わせてもらおう」
永琳「じゃあ、明日の昼頃に永遠亭に来て。用意しておくわ」
雪「分かった」
⋯⋯過去を思い出す薬、か。前世の記憶も思い出せるのだろうか。そんな考えを片隅に置くと、二人と話しながらこの宴会を楽しむ事にした。




