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東方 白狐伝  作者: 蛸夜鬼
拾章 永夜異変の巻+一編
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第七話 狂気の瞳の月兎。そして⋯⋯

 襖を開けたその先は、長い長い廊下だった。しかしただの廊下ではなく、壁や天井は無く周囲には宇宙の様な空間が広がっていた。


雪「これは⋯⋯おっと」


 空間へと手を伸ばすと、その手は空を切る。どうやら映像や幻影では無いようだな。確か輝夜は魔法に似た術が使えた筈だ。それを使っているのだろうか?


雪「しかしこれは、美しいな」


 写真や映像でしか見たことがないものの、宇宙空間にも似たこの風景には魅了される。これを楽しみながら廊下を進んでいると、目の前にツーピース制服の様な服を着た、兎耳の生えた少女が立っていた。


 誰だろうか? 以前ここに訪れた時は居なかった筈だが⋯⋯もしや、俺が風邪を拗らせた時に永琳が言っていた、助手とやらだろうか。


 そんな事を考えていると、少女も俺に気付いたのか視線を送ってくる。すると少女は俺に指を向けてきたと思うと⋯⋯


雪「うおっ!?」


 弾丸の様な弾幕を放ってきた。咄嗟に反応して避けたが、随分と早い⋯⋯手加減無しで放たれたとしか思えないな。


雪「随分な挨⋯⋯」


少女「侵入者は排除する! この先には行かせないわ!」


雪「おいおい⋯⋯」


 初めてじゃないか? 台詞を中断させられたのは。少しばかり心が傷付くんだが⋯⋯まあ、相手はやる気みたいだ。話は聞いてくれそうもないし、やるしかないか。


 少女の気の早さに少し呆れながらも構える。すると少女の紅い瞳が妖しく輝いた。


雪「うっ⋯⋯?」


 それを見ると立ち眩みに似た症状が起き、目の焦点が合わなくなった。視界に映る全てが歪み、何重にも重なる。これは⋯⋯相手の能力か何かか?


雪「くっ⋯⋯やりづらいな⋯⋯」


少女「悪いけど、出し惜しみはしないわ! てゐから貴方は強いと聞いている。最初から全力で行かせてもらう!」


雪「あいつ⋯⋯」


 助けてやったのに口利きはしてくれないのか。まああいつも永琳の元で働いてるんだからしょうが無いと言えるが⋯⋯だが納得はいかないな。


 てゐへの不満を覚えながら、少女が繰り出す攻撃を避け、防御する。しかし視界が歪んでいる中、まともに戦える事が出来るわけもなく、苦戦を強いられた。


雪「くっ⋯⋯そこか!」


少女「どこに撃ってるの? 私はそんな場所にはいないわよ!」


雪「チッ、やりづらいな⋯⋯!」


 時折攻撃の隙を見て氷弾を少女へ飛ばすんだが、幻影でも引き起こしてるのか手応えが無い。ここまでやりづらい相手は初めてだ。勝てるかどうか不安になってきたな⋯⋯。


雪「悪いが出し惜しみは出来ないんでな。直伝『マスタースパーク』!」


少女「っ!」


 俺はマスタースパークを発動すると、それを横薙ぎに放つ。少女の驚いた声が聞こえ、当たったのかと思ったが⋯⋯


少女「あ、危ない⋯⋯」


雪「障壁まで張れるのか⋯⋯」


 少女の周囲に障壁が張られ、マスタースパークを防がれてしまった。少女はキッと俺を睨むとスペルカードを放ってくる。


少女「幻波『赤眼催眠(マインドブローイング)』!」


 中二病めいたスペカ名と共に弾幕が全方位に発射する。更に少女の目が再び妖しく輝き、それと同時に弾幕が分裂し、再度拡散する。


 いつもの状態なら避けられたかもしれないが、幻影を見ている状態ではまともに避けられず、何発かに被弾してしまう。すると、激しい頭痛と共に精神が掻き乱される様な感覚が襲った。


雪「ぐぅっ⋯⋯!?」


少女「私の能力で精神破壊の効果を付けたわ! そのまま精神を掻き乱されるが良い!」


 精神破壊、か⋯⋯随分と物騒な能力を持っているな⋯⋯そんな冗談を考える暇もなく頭痛は更に激しくなり、何やら幻聴が聞こえてくる。


威厳のある男の声『雪─、──は本──出来───だな。我ら狐──族────が。訳───ら────り手────遊────な』


雪「っ!?」


 その幻聴を聞いた瞬間、ドクンと強く心臓が鼓動する。聞いたこともなく、飛び飛びで良く聞こえもしないのに、妙に苛立つ声だ。


雪「何だ、これは⋯⋯! 誰だこの声は⋯⋯!」


 この心を掻き乱す声は何だ! 聞き覚えもないのに、何故こんなにも掻き乱される!?


呆れている女の声『─也、冬──見───。この──、我ら────応しい────せん。弟に─────恥ずか────の───?』


雪「黙れっ⋯⋯何も喋るな⋯⋯その声を聞かせるな⋯⋯!」


 声が変わる。中年の男の声だったのが、今度はその男と同じくらいの、中年の女の声だ。心の乱れが、更に大きくなる。何も言うな! 黙れ、煩いっ!


親しげな男の声『兄──、また新───聞か───! それ────兄───────。───事────く熟──だし、僕───違い─』


雪「黙れっ! 俺の心を掻き乱すなっ! 何も喋るな!」


三人の声『『『貴様が犯した罪から目を逸らすな⋯⋯殺人鬼が』』』


雪「っ⋯⋯!! 黙れぇええええええっ!!」


 その三人の幻聴を聞いた瞬間、俺の中でブツンと何かが切れる音がした。その後は何かを叫んだ気がするが、気が狂っていたのか何を叫んでいたのか覚えてない⋯⋯いつの間にか、俺の意識はフッと途絶えていた。


焔『少しの間、お前の身体お借りするぜ』


 意識が薄まっていく中で、焔の声を確かに聞きながら⋯⋯。



~少女 side~



 私、『鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバ』は動揺していた。


 精神破壊の効果を付与した弾幕に被弾した侵入者が幻聴でも聞いていたのか叫び散らし、そして気を失ったのだ。だがそこまでは、彼女が今まで見てきた精神が破壊された者の状態とほぼ同じだったから別に問題は無い。


 問題は、気を失った筈の侵入者が突然立ち上がり、気付くと容姿が変化したのだ。といっても大きく変わった訳ではない。雪の様に白かった髪が漆黒へと変わり、白磁の様な肌が焼けた様に褐色へと変化していく。目は燃える様な真紅から、冷たい蒼へと変わっていた。


鈴仙「一体何が⋯⋯」


 こんな事、今まで一度も無かった⋯⋯そんな事を考えながら、目の前の侵入者を警戒する。どの道、この廊下の先にいるお師匠様達に会わせる訳にはいかないのだ。私は再び弾幕を放とうとすると⋯⋯


焔「おっと、お嬢さん。おいたはそこまでにしようか?」


 いつの間に目の前に居たのだろうか。容姿の変わった侵入者が私の腕をガシッと掴んでいたのだ。


鈴仙「っ!? いつの間に⋯⋯このっ、離せ!」


焔「そりゃあ無理って話だ。離したら弾幕撃ってくんだろ? こう、BANGBANG! ってな」


鈴仙「くっ⋯⋯!」


 腕を掴んだままケラケラと笑う侵入者。最初とは打って変わったその様子に私は恐怖感を抱きながら、この状況を打破しようと狂気の瞳を発動する。


焔「ん?」


 侵入者はキョトンとした顔で私の瞳を見つめる。掛かった⋯⋯! これで侵入者の精神は狂い、そしてまた幻影を─────


焔「へぇ、これで幻影を見せてたのか。面白い能力だなぁ⋯⋯でも、こんな少し気合入れて何とでもなるモンで幻影見せられるとか、雪もまだまだだぜ」


鈴仙「なっ⋯⋯!?」


 効いてない!? そんな、最初は確実に効果があったのに。私が動揺している事に気付いたんだろう。侵入者はフッと馬鹿にしたように笑う。


焔「効かねえのが不思議か? 残念だったな。雪とは違うんだよ俺は」


鈴仙「⋯⋯貴方、何者?」


焔「おっと、自己紹介がまだだったな。誇れよ、お嬢さん。俺が表に出て初めての自己紹介を聞ける名誉を受けられるんだ」


 侵入者は先程まで離さなかった手をパッと離すとキザったらしく、ボウ・アンド・スクレープ式の挨拶をした。


焔「俺の名は狐塚 焔。この身体の主、狐塚 雪を最も愛し、そして最も憎む者。よろしくな、兎娘」


鈴仙「狐塚、焔⋯⋯」


 今の話を聞いた限りこの狐塚 焔という男は、さっきまで私と戦っていた狐塚 雪の人格の一つ⋯⋯? 二重人格者だったの?


焔「さて、挨拶も終わらせた所で⋯⋯折角表に出てこられたんだ。このまま何もせずにってのは味気ねぇ⋯⋯なあ、兎娘」


 ゴオッ! と、突然の熱風と共に凄まじい圧が私を襲う。さっきまでとは全然違う⋯⋯明らかな殺意を確かに感じ取れる。そして次の瞬間⋯⋯


焔「俺の相手になってくれよ! マスタースパーク!」


鈴仙「くっ!」


 最初に放たれた純白の光線とは相対した、漆黒の光線が発射された。咄嗟に能力を発動してバリアを張る。しかし手加減がされていないのかバリアにヒビが入り、破壊された。


鈴仙「なっ! きゃあっ!」


焔「ハハハハハハッ! 良いねぇ、精神世界で試し撃ちすんのとは全く違った感覚だ! 手応えを感じる! 素晴らしいなぁ、表に出てこられんのは!」


鈴仙「くっ⋯⋯狂視『狂視調律イリュージョンシーカー』!」


 光線に吹き飛ばされたが、それを受け身を取って態勢を立て直すとスペルカードを発動すると、廊下一面を埋め尽くす程の弾幕を放つ。ここから狂気の瞳を使って、透明化させたりしてディレイを─────


焔「おいおい、俺は遊びに出てるんじゃないんだぜ? ちゃちい弾幕なんて撃ってんじゃねえよ!」


 焔がそう叫んだ瞬間、奴の手から巨大な炎が放たれた。その業火は全てを燃え尽くさん勢いで迫り、弾幕を消滅させた。


焔「スペルカードだっけか? 人間と人外が平等に戦う為のルールだか知らねえが⋯⋯そんなん無視して、

殺す気でやってきな! こんな風になぁ!」


 狐火にも似た弾幕と、漆黒の弾幕が無数に放たれる。凄絶な勢いで迫るそれはとても避けられるものではなく、足や腕、胴体に被弾する。


鈴仙「─────っ!!」


 瞬間、声にならない程の激痛が体に走った。冷や汗が出るほどの激痛⋯⋯こんな、明らかな殺意で攻撃してくるなんて⋯⋯! 私は、一体何を呼び起こしてしまったの⋯⋯!?


焔「はぁ~⋯⋯何だ、もうダウンか?」


鈴仙「うっ⋯⋯」


 焔は私の髪を乱暴に掴むと、無理矢理顔を上げさせる。焔はその蒼い目を、壊れた玩具に向けるような冷たい目を向けてきた。その目を見た瞬間、私はゾッと背筋が凍り付いた。何か手は⋯⋯このままじゃ、殺される⋯⋯。


焔「折角表に出られたのになぁ⋯⋯初戦が簡単な弾幕でダウンする程度の相手だったのは残念だ。暴れたりねぇなぁ⋯⋯どうせ次寝た時にまた精神世界に戻っちまうんだし⋯⋯」


 寝た時にまた精神世界に戻る⋯⋯? その言葉を聞いて、一つの方法を思いつく。失敗したらどうなるか分からないけど⋯⋯でも、少しの戦っただけでも分かる。コイツは、野放しにしてはいけない!


焔「うおっ! 何だ⋯⋯っ!」


 私は痛みを我慢して腕を動かし、焔の顔を掴んで無理矢理目を合わせ、狂気の瞳を発動した。さっきは効かなかったけど、不意を突けば⋯⋯!


焔「ぐっ⋯⋯テメェ何しやがるっ!」


鈴仙「カハッ⋯⋯!」


 不意を突かれて狂気の瞳を見てしまった焔は、顔を押さえながら私を蹴り飛ばす。強い衝撃と激痛が体に走るけど、作戦は成功した!


焔「テメェ⋯⋯俺に何をしやがったぁ!」


鈴仙「ゲホッ⋯⋯脳部位の一つ、側座核に存在する特定のニューロンを活性化させる波長の光を貴方に強く見せた⋯⋯簡単に言えば睡眠を強く誘発させるのよ」


焔「っ⋯⋯この野郎⋯⋯ふざけた真似、しやがってぇ⋯⋯!」


鈴仙「貴方が自分で教えたのよ⋯⋯貴方に何の目的があるのか知らないけど、物騒な事を言ってる貴方を野放しには出来ない!」


焔「ク、ソ⋯⋯次、会った時⋯⋯覚え、てろよ⋯⋯クソ兎ぃ⋯⋯!」


 焔はそう言って倒れると、静かに寝息を立て始める。すると黒かった髪が白に戻り、肌も褐色から健康そうな日焼けのない白い肌へと戻る。


雪「すぅ⋯⋯すぅ⋯⋯」


鈴仙「はぁ⋯⋯ハードな仕事だわ」


 それにしても表の人外雪と、裏の人外の焔ね⋯⋯どういう経緯で二重人格になったのかは知らないけど、随分と大変そうな人。


鈴仙「⋯⋯そういえば、狐塚 雪って月の英雄と同じ名前よね」


 大昔、まだ月人が地球に住んでたという時代。万を超える妖怪の大群を、たった一人で立ち向かい逃げるまでの時間を稼いだという伝説の人物⋯⋯。


鈴仙「まさか、ね」


 その時から数億年は経ってるらしいし、それに妖怪の大群と戦って生きている筈はない。同名の人物でしょう。


 そう結論付けていると、襖の向こうから何人かの声が聞こえてくる。まだ侵入者がいたのね。まださっきの戦いのダメージが癒えてないのだけど⋯⋯月から逃げ出した私を匿ってくれた師匠達の手を煩わせる訳にいかないものね。


 そんな事を考えながら、私は痛む体を押さえ、今から入ってくる侵入者への警戒を強めた。

 どーも、作者の蛸夜鬼です。今回は如何だったでしょうか?


 いや~、久々の五千文字越えですよ! 昨日0時まで書き続けましたから、今回は手応えがありますね!(酷い戦闘描写に目を逸らしながら


 さて、実は今立て込んでいまして、少し短いですが今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!

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