最終話 春の風邪
春雪異変が終わり、その後の宴会から更に数日⋯⋯幻想郷にはすっかり春が戻り、異変の面影も無くてなってきた頃。
雪「ゴホッ、ゴホッ⋯⋯」
俺は風邪をこじらせていた。どうやら春の安定しない気温によるものらしい。朝、起きたら身体が妙に怠く、熱、頭痛と喉の痛み、止まらない咳という症状で気付いた。風邪など何年ぶりだろうか。
雪「怠いな⋯⋯ゴホッ⋯⋯」
当たり前だが、この家には俺しかいない。近所に誰か住んでる訳でもないから、病身だとしても飯などは自分で用意しなければならないし、診療所にも行かなければならない。
だが、この風邪は予想以上に重いらしく、どうにも身体が怠くて動く気にならない。元来この身体は病にかかりづらいため、薬など傷薬程度しか置いていない。
雪「ゴホッ⋯⋯作れるか⋯⋯?」
俺は布団から手を伸ばすと、能力を使って氷人形を作り出したが、どうにも不格好になってしまった。まあ良い、十分動く形にはなっただろう。
そして近くにあるペンと紙を持って来させると、そこに風邪の症状を記して人形に渡す。
雪「これを永琳に渡してきてくれ⋯⋯道は妹紅に聞けば⋯⋯ああそうか、ちょっと待て」
しまった、氷人形は喋れないんだったな。もう一枚紙を持って来させると、今度はそこに氷人形を案内してくれる様に頼む文章を書く。
雪「じゃあ、頼む⋯⋯ゴホッ、ゴホッ⋯⋯」
氷人形を向かわせると、俺はもう一度布団に潜る。ああ、その前に汗に濡れた服を着替えなければ⋯⋯氷人形に着替えを持ってこさせよう。そう思ってもう一体人形を作ろうとするが、まともに動くようなものは出来なかった。能力のコントロールがどうにも上手くいかないな。
雪「しょうがないか⋯⋯」
俺は諦めて布団に潜る。寒い。汗で服が濡れてるから余計に寒い。そんな事を考えながら眠ろうとする。だがこんな状況で眠れる訳もなく、ただ時間が過ぎていく。
そしてしばらくの経った頃、玄関の戸が開く音が聞こえる。氷人形が帰ってきたのだろうか。トタトタと足音が近付いてきて、それは俺が寝てる部屋の前までやって来た。
雪「ああ、戻ってきたか氷人形⋯⋯」
永琳「ちょっと雪、大丈夫?」
雪「⋯⋯何で永琳がここにいる?」
身体を起こすと、氷人形の横に俺の友人⋯⋯永琳が立っていた。その手には薬が入ってるらしき小袋と、診療医が持つような鞄がある。
永琳「貴方が風邪を引いたからに決まってるでしょ? 氷人形を送ってくるくらいだから動けないんだと思ったのよ」
雪「永遠亭は、大丈夫なのか⋯⋯?」
永琳「最近出来た助手に任せてるから少しは大丈夫よ。ほら起きて」
そう言って永琳は俺の身体を起こす。
永琳「ちょっと、服びしょびしょじゃない。まず服を着替えましょう。どこにあるの?」
雪「そこの箪笥⋯⋯ゴホッ、ゴホッ」
永琳「はい、着替え。まず汗拭くから脱いで」
雪「いや、それくらいは氷人形に手伝わせる⋯⋯」
永琳「あら、別に気にしなくて良いのに」
永琳から服を受け取った俺は汗を拭くとすぐに着替える。濡れてる服は氷人形に渡して⋯⋯あとで洗濯しよう。
雪「⋯⋯着替えたぞ」
永琳「じゃあ、診察するわよ」
で、診察してもらったがやはり風邪らしい。永琳も春の不安定な気温によるものだと考えたみたいだ。
永琳「はい、氷枕持ってきたからこれ敷いて。後で濡れタオル持ってくるわね。ご飯は食べたの?」
雪「いや⋯⋯」
永琳「じゃあ何か作ってくるわ。ちょっと待ってて」
そう言って永琳が部屋を出て行く。暫くして、彼女は粥を持って戻ってきた。
永琳「はい、食べれる?」
雪「ああ⋯⋯」
身体を起こし、粥を受け取ろうとする。だが永琳はそれを俺に渡さず木匙で粥を掬い、息を吹きかけて少し冷ますと
永琳「はい、あーん」
それを俺の口元に持ってきた。
雪「⋯⋯一人で食べれる」
永琳「布団から動けなかった人が何言ってるのよ」
雪「むぅ⋯⋯」
気恥ずかしさを感じながら、粥を食べる。少し薄い塩味だが、病の身にはそれが嬉しい。結局最後まで永琳に食べさせてもらうと、今度は薬と水を渡される。
永琳「次は薬ね。良く効く薬を持ってきたから、これ飲んで」
雪「ああ⋯⋯」
それを受け取って、粉末状の薬を口に含む。強烈な苦みが口に広がり、一瞬嘔吐きそうになる。それを我慢すると水で一気に流し込んだ。
雪「苦いな⋯⋯」
永琳「良薬口に苦しよ。ほら、濡れタオル乗せるから寝て」
そのまま寝かされると、額に濡れタオルを乗せられる。それは冷えていて、熱を持つ頭に心地良い。
⋯⋯いつの間にか寝ていたのだろう。次に目を覚ました時には日はすっかり傾いていた。ただ、薬が効いたのか身体の怠さや頭痛など、症状は随分と楽になっていた。
永琳「あら、起きたのね」
雪「ああ、随分楽になった。迷惑掛けたな永琳」
永琳「別に迷惑だなんて思ってないわよ。一応、お粥を作って台所に置いてあるけど傷みやすいから早めに食べてね。薬も三日分置いておくわ」
雪「分かった。永琳、今日は助かった」
永琳「良いのよ。私だって助けてもらってばかりだもの。じゃあ、私はそろそろ行くわね。あ、薬は一日三回、食後に飲んでね」
雪「ああ」
永琳「じゃあね、ゆっくり休んで早く治すのよ」
そう言って永琳は永遠亭へと帰って行った。今度、何か礼をしに行かなければな。何か菓子でも持っていこうか。
皆さん、明けましておめでとうございます。新年早々スノボやって筋肉痛の蛸夜鬼です(勿論感染症対策はしっかりやりました)。
今年もまた、沢山の小説を書いていきたいと思っていますので、どうか応援よろしくお願いします。
さて、新年の挨拶もこの辺にして次章は遂に拾章ですね。どうぞ楽しみにしていてください!
それでは今回はこの辺で。また次回、お会いしましょう! 皆さん、今年もよろしくお願いします。