第八話 酒宴の準備と⋯⋯
雪「⋯⋯これはまた、綺麗に咲いたな」
目の前で咲き誇る桜を見た俺は、自然とそんな言葉が零れる。
⋯⋯幽々子が起こした異変(後に春雪異変と呼ばれる)が終わった数日後。奪われていた春度は幻想郷中に広まり、この世界にやっと春が訪れた。お陰で幻想郷は今花見ばかりやっている。
それと、幻想郷の結界に開いていた冥界への入り口は閉まらずそのままとなってしまった。空さえ飛べればいつでも冥界に訪れる事が可能になってしまった訳だ。
?「春ですよー」
雪「ああ、そうだな」
空に見える冥界の入り口を眺めていると、桜並木の奥から白い服を着た妖精が近付いてきた。彼女は『リリーホワイト』。春告精と呼ばれている妖精だ。
先程春の訪れに興奮していたのか、辺りに弾幕をばら撒いていたのを収めた所、何故か分からんが彼女に気に入られてしまった様だ。春とはかけ離れた名前と容姿をしているんだがな⋯⋯?
リリー「雪さんは何をするんですかー?」
雪「ああ、宴会の準備をな」
リリー「お手伝いしますよー」
雪「助かる」
今回は異変解決の宴会だ。酒持ちは幽々子と妖夢なんだが、二人だけでは大変だろうと場所の準備を手伝うことになった。
まあ準備と言っても敷物を敷いて、用意してくれた酒とかを置いとくだけなんだがな。料理は妖夢が用意してくれるらしい。
沢山作らなければならないし、俺も手伝おうとしたんだが「大丈夫です。沢山の料理を作るのは慣れてますから」と言っていた。まあ、その時に視線が幽々子の方に行っていたから何となく理由は察したが⋯⋯。
?「到着~♪」
?「良かった、まだ宴会は始まってないようね!」
?「二人とも、練習始めるよ」
すると、何やら楽器を持った三人の少女がやって来る。確か⋯⋯冥界の入り口で霊夢との弾幕ごっこに負けていた少女達だな。名前は確か⋯⋯
雪「プリズムリバー楽団、だったか」
人里でも有名な三姉妹の騒霊(ポルターガイストの事らしい)の演奏隊。長女の『ルナサ・プリズムリバー』がバイオリン。次女の『メルラン』がトランペット。三女の『リリカ』がキーボードだったか。
宴会や祭りなどで呼ばれ、その幻想的な演奏は人間達の心を揺さぶる程だそうだ。俺も一度聞いてみたいと思っていたんだが、運が良いな。
リリカ「あれ、先客? というか、もしかして私達の事知ってるの?」
雪「ああ。プリズムリバー楽団の名前は良く聞くからな。三人は⋯⋯幽々子に呼ばれたのか?」
メルラン「そうよ。本当は異変が起きた時に呼ばれてたんだけど、博麗の巫女に邪魔されちゃって⋯⋯」
ルナサ「今日、改めて演奏の依頼を受けたという訳」
雪「成る程」
そんな事を話した後、俺は再び準備に戻る。プリズムリバー楽団の三人も演奏の練習に入った。
ルナサ「二人とも、準備は良い?」
リリカ「オッケーだよ~」
メルラン「いつでもいけるわ!」
ルナサ「じゃあいくよ⋯⋯3、2、1」
──────────♪♪
雪「む⋯⋯」
リリー「わぁ⋯⋯」
プリズムリバーの演奏が始まった瞬間、俺とリリーホワイトはその音楽に耳を傾ける。
こう、音楽の世界に引き込まれると言うのだろうか。演奏が耳に入ってきた瞬間、その方に意識を向ける以外の選択肢が浮かばなかった。
三人が奏でるその幻想的な音はいつの間にか俺の手を止め、俺はじっとその音に聴き入る。そしてその演奏が終わった瞬間、俺とリリーホワイトは自然と拍手を送っていた。
雪「⋯⋯いや、凄いな。今まで聴いてきた演奏で一番素晴らしかった」
リリー「綺麗な演奏でしたよー」
リリカ「わ~い! ご静聴ありがと~!」
メルラン「あらら、いつの間に聴かれてたのかしら」
ルナサ「えっと、その⋯⋯ありがとうございました」
リリカは見た目相応に、メルランはふんわりとした笑顔を浮かべながら、ルナサは少し恥ずかしそうにする。
雪「音楽は好きだが、それでも時間を忘れる程聴き入ったのは初めてだ」
そう、素直な感想を伝えると三人は嬉し恥ずかしそうに笑顔を浮かべる。
雪「すまないが、もう一曲何かを聴かせてもらえないか?」
リリカ「だってよ姉さん。どうする?」
メルラン「良いんじゃない? 新たなファンのご要望だもの」
ルナサ「⋯⋯それじゃあ、練習がてらもう一曲だけ」
そう言って三人は息を整えると、楽器を持つ。
ルナサ「それでは⋯⋯聴いてください─────」
─────幽霊楽団~Phantom_Ensemble
その曲は先程よりも、美しく、儚く、幻想的な音色で⋯⋯何と説明すれば良いのだろうか。言葉が見つからない程に、美しい演奏で俺の心を揺さぶった。
⋯⋯美しい演奏だ。そんな事を考えながら、俺は桜並木の下で幻想の音色に耳を澄ませた。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。次回こそ宴会編となります!
今回、リリーホワイトとプリズムリバー三姉妹を出してみましたがどうでしょうか? プリズムリバー三姉妹の口調が分からなくって少し苦戦しました(笑)。
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!