第七話 人妖対戦・中
勇也「あの黒い影全部妖怪っスか⋯⋯世界の終わりって感じっスね」
雪「⋯⋯そうだな」
俺は再度通信を軍全体に入れる。
雪「第一班隊長の狐塚 雪だ。レーザー砲の操作を出来る者は直ちに発射準備に取り掛かってくれ。射程に入ったら砲撃班長の号令の元、一斉発射だ」
そこまで言うと通信を切ってレーザー砲のエネルギーを充填している明理に近付く。
明理「レーザー砲で倒し切れますかね⋯⋯」
雪「無理だろうな」
良くて百近くが限界だろう。レーザー砲を再発射するのにも時間が掛かるから、精々二発撃って二~三百倒せれば良いところか。
そして十分もしない内に妖怪の前列が射程に入り、砲撃班長の号令でレーザー砲が放たれる。明らかに着弾して妖怪を吹き飛ばしたのに、減ってる気がしない。再度の砲撃でも同じだった。
大隊長『こちら第一大隊長! レーザー砲はもう撃てない! 全隊、各々の武器で応戦せよ!』
大隊長の通信で全隊は武器を持って壁上から降りる。俺達も例に漏れず壁上から下へ降りた。
雪「お前ら、危なくなったらすぐに逃げろよ」
勇也「了解っス」
明理「了解しました」
依姫「隊長も気を付けてくださいよ? 幾ら強くても⋯⋯」
雪「分かってるさ⋯⋯行くぞ!」
軍は武器を構えて妖怪に応戦する。俺は他の奴が死なない様に立ち回るか。
─────
俺達が戦いを始めてから一時間半が経過した。相手はこちらよりも数が多く、身体能力は高いが連携が取れていないのが救いとなって犠牲者は少ない。しかし、疲弊によって全員の動きが鈍くなっている。
雪「大丈夫か、お前ら」
勇也「へ、へへ⋯⋯余裕っスよ」
明理「まだ⋯⋯大丈夫、です」
依姫「私もまだ、行けます!」
コイツらも疲れてきてるな。さて、そろそろ通信が入る筈だが⋯⋯。
月読『皆の者、月読だ。妖怪と戦闘している全兵士はロケットの発射準備が整っている。直ちに撤退せよ』
すると月読から通信が入る。この通信を聞いた者は我先にと撤退を始めた。
雪「俺達も下がるぞ! 俺が殿を務めるから、お前らは妖怪共を牽制してくれ」
三人「「「了解!」」」
俺達は他の兵が撤退しやすくなる様に妖怪共を牽制していく。そして兵士達が壁の中に入るのを確認すると三人を壁内へ入り、壁外にいるのは俺だけとなった。
依姫「隊長、早く中に!」
依姫が叫ぶ。俺はすぐ近くにいる妖怪を殺し、門を通る─────
雪「悪いな、お前ら」
依姫「⋯⋯えっ?」
────振りをして、開いている門を力業で強引に閉めてから凍結させた⋯⋯俺が外にいる状態で。
勇也「な、何やってるんすか隊長!」
雪「お前ら早く逃げろ。ここは俺が守る」
明理「ふざけないでください! 隊長も逃げるんです!」
依姫「何で、何でこんな事⋯⋯!」
雪「⋯⋯お前らを守りたいからだ」
あの日、月読に呼び出された日⋯⋯俺は月読からロケットを守る為に死んでくれと頼まれた。
ロケット発射準備が終わっても発射までに時間は掛かる。その間にロケットが襲われては元も子もない。だから月読は、この都市の中でも異質な存在である俺に頼んだんだ。
俺も、永琳達を守れるならと引き受けた。撤退を命令された時に、俺だけが妖怪と最後まで戦うとな。
勇也「ざっけんじゃねえぞ隊長! アンタ、こんな所で死んで良い人じゃねえだろうが!」
勇也がいつものおちゃらけた口調を崩して怒鳴ってくる。
雪「すまない⋯⋯」
そう言った直後、何もしない俺に痺れを切らしたのか妖怪共が襲いかかってきた。俺は氷でその妖怪を吹き飛ばす。
雪「すまない、もう話す時間も無くなってきた様だ。最後に一つだけ良いか?」
明理「最後、なんて⋯⋯言わないでください!」
雪「⋯⋯お前達から見て、俺はどんな隊長だったんだ?」
依姫「⋯⋯とても、とても頼りがいのある、隊長です」
俺の質問に、勇也も明理も答えない中で依姫だけが泣きながらも答えてくれた。
雪「そうか⋯⋯なら、最後まで頼りがいのある隊長としていさせてくれ。じゃあなお前ら、月でも元気でやれよ」
そう言うと俺を引き留めようとする三人の声が聞こえてくる。俺はそれを無視して変化を解き、白狐の姿になった。
雪「この姿になるのも久々だな。やはりこの姿が一番馴染む」
そして数千はいるであろう妖怪共を睨むと、周りに大量の氷柱を創造した。
雪「さて、こっから先は通行止めだ。通りたいのなら俺を倒してから行くんだな」
俺の言葉が理解出来たのかは分からない。しかし妖怪共は俺に敵意を向けると大きな雄叫びと共に襲い掛かってきた。
お昼頃に最終話を投稿します。それではお楽しみに。