第十話 幻想郷巡り 紅魔館
雪「おお、見えてきたな」
妖怪の山と地底に向かった翌日。俺はまた妖怪の山方面に飛んでいた。先には妖怪の山の麓にある、霧が掛かった巨大な湖と、特に目立つ真っ赤な館が見えている。
ここは霧の湖。昼間になると深い霧で包まれる視界の悪い湖。ここには妖精や妖怪が集まりやすい。何故昼間に霧が出るのかは分かってないらしい。
そしてその近くにある紅い館⋯⋯紅魔館。まだ噂にはなっていないが、恐らく数ヶ月も経てば幻想郷中に広まるだろう。
雪「よっ、と⋯⋯」
俺は館の前に降り立つ。すぐ目の前には重々しい門があり、久しい⋯⋯という程久しくもないが、見知った寝顔を見つける。
雪「⋯⋯」
美鈴「ぐー⋯⋯」
雪「おい、起きろ」
美鈴「ふぁっ!? ね、寝てませんよ咲夜さん⋯⋯って、あれ?」
雪「数日ぶりだな、美鈴」
美鈴を起こし、声を掛ける。美鈴はキョロキョロと辺りを見渡したが、俺の姿を見るとポカンとした表情になった。
美鈴「え⋯⋯? 雪、さん?」
雪「ああ」
美鈴「⋯⋯雪さぁあああん! 生きてたなら何ですぐ帰ってきてくれなかったんですかぁああ!」
雪「うおっ!?」
美鈴は大声を上げると肩を掴んでガクガクと揺らす。なんだなんだ。一体何があったんだ。
雪「落ち着け美鈴。一体どうしたんだ」
美鈴「どうしたも何も、雪さんが死んだと思って妹様が暴れたんですよ! 落ち着かせるまで凄く大変だったんですからね!」
ふむ、そんな事があったのか。もしやまた地下室に引き籠もってるんじゃないだろうな。他のみんなも心配だ。だが既に部外者である俺が館に⋯⋯いや、そんな事を言ってる暇じゃないな。
雪「美鈴、悪いが門を開けてくれないか。怒られたら後で俺が弁解してやるから。頼む」
美鈴「は、はい! どうぞ!」
美鈴はパアッと表情を明るくすると門を開く。俺は美鈴に礼をすると紅魔館の中に入っていった。
~白狐移動中~
妖精メイド「侵入者待てー!」
雪「どうしてこうなった」
紅魔館に入り、地下室に向かう階段がある大図書館に向かおうとしたらメイド服の妖精に襲われた。何だコイツらは。レミリアが霧の湖に住む妖精でも雇ったのだろうか。
雪「まったく、美鈴も教えてくれれば良いものを⋯⋯」
俺は妖精メイドに幻術を掛け、コイツらが混乱している内に大図書館へ向かう。だが、また咲夜の能力で空間を弄ったんだろう。外観よりよっぽど広い。というかここはどこだ。
雪「⋯⋯迷ったな」
建物の中で迷うなんて創作物の中だけの話だと思っていたが⋯⋯いや、まさか自分で体験するとは。
咲夜「お久しぶりです」
雪「おお、咲夜か」
すると後ろから声を掛けられ、振り向くと咲夜が立っていた。
雪「久しいな」
咲夜「はい、本当に⋯⋯再会の余韻を楽しみたい所ですが、お嬢様がお呼びです」
雪「レミリアが? 俺はフランの所に行こうとしたんだが⋯⋯」
咲夜「お願いします」
⋯⋯まあ、一度レミリアの話を聞いてからが良いか。ある程度事情を知ってからの方が後々楽だろう。
雪「分かった。案内してくれ」
咲夜「はい。では失礼して⋯⋯」
咲夜がそう言った瞬間、紅魔館の廊下からレミリアの部屋の扉の前に出る。恐らく咲夜が時間を止め、俺を移動させたのだろう。
咲夜「お嬢様はこの先です。それでは私は失礼します」
雪「ああ、分かった」
そして咲夜は消え、俺は扉をノックする⋯⋯返事がない。もう一度⋯⋯やはり返事がない。
雪「⋯⋯レミリア。雪だが」
レミリア「⋯⋯うー」
ああ、これはダメだな。俺はため息を吐くと扉を開けて部屋に入る。その中には⋯⋯
レミリア「うー」
いつものカリスマはどこへやら。机に突っ伏し「うー」とよく分からん言葉を言っているレミリアがいた。
これはアレだな。俺が執事をしていた時もあったが忙しい事が立て続けに起きたり、カリスマという見栄をずっと張っている反動で起きる現象だな。カリスマブレイクと名付けよう。
と、そんな事はどうでも良い。まずはレミリアを何とかしなければ。
雪「おい、大丈夫⋯⋯じゃないな」
レミリア「ええ。大丈夫じゃないわ」
雪「それで、俺を呼び出した理由は?」
レミリア「フランを宥めて欲しいの。あの子、雪が居なくなってからずっと塞ぎ込んでてね。今じゃ食事も殆ど食べない始末よ。私も何度か宥めようとしたんだけど⋯⋯」
やはりか。しかし飯を食べないとは、心配だな。衰弱もしているだろう。すぐに向かわなければ。
雪「分かった。しかし地下室のある大図書館にはどうやって行けば良いんだ? 内装が変わっていて迷ってしまうんだが」
レミリア「この部屋を出て右に真っ直ぐ。突き当たりを左に進めば大図書館よ。図書館も改造されて入り組んでるからパチュリーに案内してもらって」
雪「分かった。早速行ってくる」
レミリア「ええ、お願い」
俺は部屋を出るとレミリアに言われた通りの道順を進む。暫くすると見慣れた大図書館の扉を見つけ、俺はそれを開き中に入る。
雪「⋯⋯また本が増えてないか?」
俺の記憶よりも本棚が多い気がする。前々から時折本が増えてるなと思った事はあるが⋯⋯。
パチュリー「私が増やしてるのよ。自分が書いた魔導書とか、そういうのをね」
すると待っていたのかパチュリーが話し掛けてくる。元々顔色は優れていなかったが、やはり疲れている様子だ。
パチュリー「久し振りね。一週間かそこらかしら?」
雪「ああ、無事な様で何よりだ。小悪魔は?」
パチュリー「妹様が暴れたせいで傷付いた本を集めてもらってるわ。結構酷く暴れたから、ちょっとね」
雪「そうか⋯⋯また時間があったら手伝いに来よう。悪いがフランのいる地下室を教えてくれないか?」
パチュリー「分かってるわ。こっちよ」
パチュリーが地下室に向かうので彼女に着いていく。レミリアが言っていた通り図書館も改造されているのか、俺の記憶と少々違う様だ。
暫く進むと地下への階段が見える。この先は変わってないのだろうか。
パチュリー「私の案内はここまで。この先は貴方に任せたわよ」
雪「ああ。ただ、フランの様子はどんな感じか聞いて良いか?」
パチュリー「かなり塞ぎ込んでるわね。妹様の精神は今かなり不安定よ。下手な事を言ったら⋯⋯」
雪「⋯⋯分かった。行ってくる」
俺は地下室への階段を降りる。中は薄暗く、酷く空気が淀んでいる。
そして一番下まで降りてくると、目の前に見慣れた鉄の扉が見える。俺はその扉を開け、中に入る。
フラン「⋯⋯誰?」
部屋の中には辺りに縫いぐるみが散乱し、壁や床に傷が付いている。そしてベッドにはフランが座り込んでいる。
フラン「誰だか知らないけど、出てって⋯⋯今は誰にも会いたくない⋯⋯」
フランはこちらを見ることもなく拒絶する。確かにこれは酷いな。だがこうなる程に彼女に懐かれているのだと思うと、何とも複雑な感情を抱く。
俺はそんな事を一瞬考え、部屋の中に一歩踏み入る。するとフランは魔法弾を一発、こちらに放ってきた。
フラン「出てって。誰とも話したくないって言ったでしょ⋯⋯出て行かないなら、容赦しないわ」
雪「それは出来ない。俺は頼まれてここに来ているんだからな」
フラン「えっ⋯⋯」
フランは振り向き、俺の姿を見るとポカンとした表情を見せる。そしてすぐに俺の元に、足を縺れさせながらも走るとそのまま抱き付いてきた。
雪「おっと」
フラン「雪!? 雪なの? 本当に?」
雪「ああ。悪かったな、寂しい思いをさせて」
フラン「うぅ⋯⋯うわぁああああん!!」
フランは俺に強く抱き付くと大声で泣く。俺はフランが泣き止むまで、優しく頭を撫でていた。
─────
雪「落ち着いたか?」
フラン「ん⋯⋯」
フランは泣き腫らした目を拭きながら俺にもたれ掛かる。
フラン「⋯⋯死んじゃったかと思ってた」
雪「⋯⋯すまないな、すぐに会いに行けなくて。色々と忙しかったんだ」
フラン「ん⋯⋯じゃあ今日は一緒にいて?」
雪「ああ、分かった」
フラン「えへへ、やった♪」
俺が頷くとフランは嬉しそうに笑う。するとフランの腹が鳴り、彼女は少し頬を赤らめた。
フラン「⋯⋯泣いたらお腹空いちゃったわ。雪、何か食べに行こ?」
雪「ああ。ただアイツらに謝ってからだ。心配していたぞ?」
フラン「は~い⋯⋯抱っこして?」
雪「分かった分かった」
俺はフランを抱き上げると部屋を出る。さて、間接的には言えども迷惑を掛けたのだからフランと一緒に俺も謝らなければな。
その後、俺はフランと一緒にみんなに謝り、結局今日一日はフランにせがまれて紅魔館で過ごすこととなった。これはフランが癇癪を起こすから定期的に紅魔館に来なければならないかもしれないな。まったく、嬉しいのか何なのか⋯⋯複雑な気分だ。




