第四話 執事の一日
雪「む⋯⋯う⋯⋯」
レミリアに仕える執事の朝は早い⋯⋯いや、夜は早いと言った方が良いか? 起床する時間も午後5時辺りだからな。昼夜逆転すると混乱するな⋯⋯。
俺はベッドから降りると寝間着から執事服に着替え、氷の人形を十数体創り出す。
雪「それじゃあ頼むぞ」
そう言うと同時に氷の人形は各々動き出し、館の掃除を始める。今この館にいる従者は俺しかいないからな。こうでもして人手を増やさないとやってられない。
俺はと言うとキッチンで食事の下拵えを始める。そういば、中世ヨーロッパの貴族の朝食は白パンと肉料理、魚料理、酒だったらしいがレミリアは小食でそんなに食べない。俺としては料理が楽になって良いんだがな。
雪「⋯⋯そろそろか」
俺は懐から懐中時計を取り出し時間を見る。そろそろレミリアとフランドールを起こす時間だな。
俺は食事の準備を終えるとキッチンを出てレミリアの部屋に行く。そして部屋の前に来るとノックした。
雪「お嬢様、起床のお時間です」
レミリア「ん⋯⋯分かったわ⋯⋯ふぁ~」
レミリアは起きたのか眠そうな声で返事をする。レミリアは着替えやらで暫く時間があるな。今の内にフランドールを起こしに行くか。
雪「お嬢様、俺はフランドール様を起こしに行って参ります」
レミリア「分かったわ。着替えたら先に食堂に行ってるから」
雪「はい」
レミリアの部屋の前から去ると、図書館を通って地下のフランドールの部屋に。流石に鉄の扉をノックする訳にもいかないので扉を開け、ベッドで寝ているフランドールを優しく揺する。
フラン「ん⋯⋯んん⋯⋯」
雪「フランドール様、起床のお時間です」
フラン「ん~⋯⋯ふぁ~⋯⋯あ、おはようユキ⋯⋯」
雪「おはようございます。食事の準備はできております。着替えたら食堂に入らしてください」
フラン「ん⋯⋯分かった⋯⋯」
フランドールが起きたのを確認すると、俺はキッチンに戻り下拵えしておいた食材の料理を始める。今日は白パンと魚料理、サラダだ。ついでに俺の食事と⋯⋯門番中に食べる食事も作っておこう。
完成した料理はワゴンに乗せ、食堂まで運ぶ。食堂には既にレミリアとフランドールが座っていた。
雪「お待たせしました」
俺はワゴンに乗せていた食事を並べる。そしてグラスを置くとワインの瓶に入っている真っ赤な液体を注いだ。これは⋯⋯まあ、言うまでもないな。
レミリア「ありがとうユキ」
フラン「わ~、今日も美味しそう! いただきま~す!」
レミリアとフランドールが食べ始めたのを見ると、俺はレミリアの左後ろに控える。二人が食べ終えたら食器の片付けをしなければならないし、元々主人が食事中の場合はここに立っているのが普通だ。
雪「フランドール様、口元が汚れてます」
あと、こうしてフランドールの口元を拭いたりするのも俺の仕事だ。フランドールは長年監禁されていたというのもあって、食事マナーはあまりなってない。まあこれから覚えていけば良いんだがな。
フラン「んむ⋯⋯ありがとユキ。あと、フランで良いって言ったでしょ?」
雪「⋯⋯分かりました、フラン様」
執事が目上の者を愛称で呼ぶのもどうかと思うが⋯⋯ここは本人の意見を優先するか。
そして二人が食事を終えると、俺は食器をワゴンに乗せてキッチンへ運ぶ。その途中、掃除をしていた氷人形の一体を捕まえると皿洗いを任せ、俺は使用人部屋で食事を摂る。
使用人は基本主人達と一緒に食事は摂らず、使用人部屋で食べる。身体の性質的にあまり食べる必要もないので少量の食事を食べると食器をキッチンに持って行き、庭に出る。
そしてここでも五体程の氷人形を創ると庭の手入れを行う様に指示した。館が広いだけあって庭も広い。俺一人じゃ庭の手入れなんぞ一人じゃ終わらないんだ。
庭の手入れの仕事は本当は庭師の仕事なんだがな。それがいないから俺の仕事になっている。と言うか執事の仕事に加えて使用人、料理人、庭師、門番の仕事が全部俺一人に任されている。もし氷人形を創れなかった過労死してるな⋯⋯。
周りの草花の手入れは氷人形に任せ、俺は手入れが難しい薔薇を行う。薔薇は病気に弱く害虫が良くつく。その上根腐れしやすいし冬に行う剪定も難しいとの事だ。
今は夏だから剪定は無いが手入れは欠かせない。特に害虫を見逃すとすぐボロボロになるからな。
庭の手入れを終えると氷人形を消し、キッチンに戻って⋯⋯時間帯だと夜食になるんだが、順番的には昼食の準備を始める。
今日はサンドイッチだ。パンにベーコンやレタス、トマトを挟む。あと卵と自作のマヨネーズで作った卵サンドも作っておこう。
そして朝食と同じくレミリアとフランを呼び、昼食を摂らせる。まあ殆ど朝食と同じだ。二人が食べ終わったら食器を片付けキッチンで待機させておいた氷人形に洗わせる。
次の仕事は門番だ。と言ってもただ門の前に立っているだけ。わざわざ吸血鬼が住む場所に近付く人間もいないからな。時間があるので門番の仕事中に夜食を摂っておく。
時間が経ち、おやつの時間になるとキッチンに戻り戸棚からクッキーを出す。そしてティーポットとティーカップを二つ持って月が良く見えるテラスに行く。
テラスには既にレミリアとフランが座っており、仲良く話していた。相変わらずこの時間だけは集まるの早いな⋯⋯。
雪「お二人とも、お茶をお持ちしました」
レミリア「ご苦労さま」
フラン「わあ、今日はクッキーなのね」
ティーカップをテーブルに置くと濃さが均一になるように紅茶をまわし注ぐ。最後の一滴はレミリアに。紅茶の最後の一滴はゴールデンドロップと言って一番美味いとされているんだ。
因みに紅茶の淹れ方はゴールデンルールというイギリスの淹れ方を参照させてもらっている。前世の俺は色んな事に挑戦していたらしく、日常に関係ない事まで記憶していた。
雪「前世の俺は何をやってたんだろうか⋯⋯」
レミリア「何をブツブツ言ってるの、ユキ」
雪「何でもありません」
フラン「ね、ね、ユキ。後で私と遊びましょう?」
するとフランが遊びに誘ってくる。彼女の言う遊びは普通に遊ぶか弾幕の撃ち合いなんだが⋯⋯今日はどっちの気分なのだろうか。
雪「構いませんよ」
フラン「やった!」
⋯⋯あの日から既に数週間が経過している訳だが、最近のフランは落ち着いている。最初の頃は精神が不安定になって暴れていたがレミリアが頑張ったお陰で普通に過ごせる様になった。
で、まあその後ティーポットやらを片付けてフランの部屋に行く。今日のフランはどうやら弾幕の気分だった様で、最初に出会った頃さながらの撃ち合いをした。元気で何よりだが、手加減というものをそろそろ覚えてほしいな⋯⋯。
フランと遊んだ後は(時間的に)朝食の準備まで自由だ。と言ってもやる事がないし、大図書館の本を読んで過ごしている。中には魔導書もあり、中々に面白い。
朝食前の時間になると料理を始める。今日は肉料理にしよう。キッチン近くにある食料庫の中にあった肉だが、何の肉とは聞かないでもらいたい。血だけを吸うんじゃなかったのか⋯⋯。
料理を終え、まあ夕食や夜食と同じく二人を呼んで食事を摂らせて食器を片付ける。
暫くしたら二人が風呂に入るので浴槽の掃除に取り掛かる。そういえば吸血鬼の弱点に『流水』というのがある。それを思い出して一度、吸血鬼が風呂に入って大丈夫なのかと聞いたんだが「お風呂は水じゃなくてお湯でしょう? そういう事よ」と言われた。そんな緩いものなんだな。
風呂掃除を終えて湯を入れる。丁度二人が風呂に入りに来たので俺は退散。残った仕事と言えば門番だな。あと館の掃除が終わる頃だ。氷人形も消しておこう。
さて、最初門番した時は近付く人間がいないと言ったが、この時間帯は別だ。この時間⋯⋯というか朝になると吸血鬼が眠りにつき始める為、吸血鬼狩りがやって来る場合がある。まあ、吸血鬼狩り自体が少ないからそうそう来たことがないが⋯⋯警戒するに越したことはない。
暫く門番をしていたが今日は平和な様だ。吸血鬼狩りも来ず、今日の仕事も終わりに近付く。
一応門番役として氷人形を二体創り出し、一度館に戻り、レミリア達の様子を見に行く為風呂場近くの部屋に行く。予想通りそこにはレミリア達がいた。
フラン「あ、ユキだ。お仕事お疲れ様ー」
雪「まだ終わってませんよ。あとフラン様、髪はしっかりと拭いてください」
フラン「わぷっ⋯⋯もう、急にタオル被せないで」
レミリア「ふふっ。ああ、ユキ。今日はもう仕事は終えて良いわ。ゆっくりなさい」
雪「それではそうさせてもらいます。ではお二人とも、失礼します」
レミリア「ええ」
フラン「おやすみ、ユキ」
俺は部屋を出ると使用人部屋に備えられている風呂に入る。まさか主人達が入った風呂に入る訳にもいかないしな。
風呂から上がると寝間着に着替え部屋に戻る。まだ眠る時間でもないので大図書館から拝借してきた本を読んで時間を潰す。
その後はまあ、明日も仕事があるのでベッドに入って寝た。執事の仕事はこれで終わりだ。未だ慣れない仕事に加え、ずっと動き回っていたのですぐに俺の意識は夢に落ちていった。
はいどーも、作者の蛸夜鬼です。前々話に言った通り、今日も投稿させてもらいました。
今回はちょっとしたほのぼの回。もとい雪の執事の一日を書きました。セリフがちょっと少なめになってしまったのと、最後の方が適当になってしまったのが残念です。
さて次回は、紅魔館のイジられキャラが登場します。名前⋯⋯名前は確か中国でしたよね!(すっとぼけ)
それでは今回はこの辺で。また今度、お会いしましょう!