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東方 白狐伝  作者: 蛸夜鬼
伍章 西行妖桜の巻
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第一話 半獣の子

雪「今日はここで野宿するか」


 妹紅と別れてから数週間。俺はいつも通り旅を続け、人目のつかない森の開けた場所で野宿をすることにした。


雪「飯はどうするか⋯⋯」


 干し肉も残り少ないし、近くに川も無いから魚が捕れないしな⋯⋯近くに獣でも現れてくれればいいんだが。


?「キャアアアアア!!」


 すると、そう遠くない場所から誰かの悲鳴が聞こえてくる。


雪「獣じゃなくて要救助者が現れたか⋯⋯」


 俺はため息を吐くと悲鳴が聞こえた方へ走り出した。


~白狐移動中~


?「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」


妖怪「イヒヒッ、待ってくれよお嬢ちゃ~ん」


 俺の視界に映ったのは、薄緑の髪の少女が下卑た笑い声を上げる妖怪から逃げている場面だった。


 妖怪は少女からつかず離れずの距離で追っている。その気になればすぐに捕まえられるだろうに。一生懸命逃げている少女の姿を見て楽しんでいるのか。


?「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯あうっ!」


 少女は追ってくる妖怪に気を取られていたのか、地面から出ていた木の根に足を引っかけた。逃げ出そうとまた立ち上がるが、追い付いた妖怪に遮られてしまう。


?「あ⋯⋯あ⋯⋯いや⋯⋯」


妖怪「ヒヒヒッ! さてさて、運動も終えたしご飯を戴こうとするかね。いっただきま─────」


雪「死ね、このゲスが」


妖怪「ギャアアアアアア!?」


 妖怪は少女を食おうと飛び掛かるが、俺の氷柱によって串刺しになり動かなくなる。


雪「大丈夫か?」


?「えっ? あ、はい!」


 少女は少し放心していたが、呼び掛けると少し戸惑いつつも返事をする。怪我は⋯⋯膝を擦り剥いているな。


雪「おい、怪我を見せろ。包帯と薬なら持ってるから治療してやる」


 そう言うと少女は患部を隠した。一体何なんだ?


?「だ、大丈夫です。このくらい⋯⋯」


雪「何言ってる。その怪我が化膿すれば更に酷く⋯⋯」


?「大丈夫です!」


 ⋯⋯何故こんなにも頑なに拒むんだ? 見せられない理由でもあるのか?


雪「もしかして、俺に治療されるのは嫌か?」


?「い、いえ! 決してそういう意味では⋯⋯」


 ふむ、違うのか。あと考えられるとすれば⋯⋯少しカマをかけてみるか。


雪「そうか⋯⋯まあ、これ以上は何も言わない。ただ、一つ聞いていいか?」


?「な、何ですか?」


雪「この辺りの村に妖怪が紛れ込んでいたと聞いたんだが、何か知らないか?」


?「っ⋯⋯!」


 ん? 少し反応がおかしいな。


雪「その見た目が薄緑の髪で⋯⋯」


?「⋯⋯ひぐっ⋯⋯ぐすっ⋯⋯」


 反応がおかしかったので少し気になり話を続けると少女が泣き始める。


雪「なっ⋯⋯!」


?「うぅ⋯⋯うわぁあああああん!!」


雪「お、おい! 一体どうしたんだ!?」


~白狐混乱中~


雪「成る程、お前は半獣なのか」


?「ぐすっ⋯⋯はい」


 この少女、名前を『上白沢(かみしらさわ) 慧音(けいね)』と言った。どうも人間と妖獣の混血で半獣と呼ばれる存在らしい。


 元々は普通の人間だったが、数日前に突然こうなったとの事だ。恐らく後天的な先祖返りだろう。先程までは気付かなかったが、その頭からは小さな角が生えている。手当てを受けなかったのは半獣とバレるのが嫌だったからだそうだ。


 途中で泣いたのは、半獣という事が住んでた村の連中にバレて追い出されてしまった事を思い出したかららしい。悪い事をしてしまったな。


雪「⋯⋯さっきはすまなかった」


慧音「いえ、大丈夫です⋯⋯」


 しかし、慧音は今後どうするのだろう? 先程の低級妖怪にすら襲われる程だ。いつか殺されてしまうだろう。


慧音「えと、先程は助けていただいてありがとうございます。それでは⋯⋯」


 そう言って慧音はこの場を去ろうとする。


雪「⋯⋯慧音、待て」


 が、俺は慧音を引き留める。


慧音「はい⋯⋯?」


雪「お詫びといっては何だが、一つ話がある。恐らくお前にとっても良い話の筈だ」


 俺は幻想郷について話を始める。人間と妖怪が共存できる様にする事。慧音なら、きっと種族同士の架け橋となってくれる事。他にも、色々だ。


雪「以上が、幻想郷についてだ」


慧音「⋯⋯」


 慧音は俺が話している間、ずっと黙って聞いていた。暫く沈黙が続いたが、慧音が口を開く。


慧音「⋯⋯私が半獣になった時、仲の良かったみんなが揃って化け物だって罵ってきたんです」


雪「⋯⋯」


慧音「私の両親は既にいなくて、頼れる人もいませんでした。それで皆から村を追い出されて、それからずっと⋯⋯何で生まれてきたんだろうって、自分を責めてました」


雪「慧音⋯⋯」


慧音「でも、さっき雪さんは私が必要だと言ってくれました。幻想郷なら私も役に立てるかもって、そう思えたんです」


 すると慧音は決意を固めたのか、真面目な表情で俺を見る。


慧音「雪さん。私をぜひ、幻想郷に連れてってください!」


雪「⋯⋯ああ、勿論だ。紫!」


紫「はいは~い。一名様、幻想郷にご案内~」


慧音「ひゃあっ!?」


 紫は俺の隣に現れるとスキマを開く。慧音は突然現れた紫に驚いたのか尻餅をついた。


紫「貴女が新しい住人さんね? 私は八雲 紫。幻想郷の管理人よ。紫でいいわ」


慧音「は、はぁ⋯⋯」


雪「何が幻想郷の管理人だ。大層な名前を自称し始めて⋯⋯恥ずかしくないのか?」


紫「なっ! 別に良いじゃない! あながち間違いじゃないんだから!」


慧音「⋯⋯フフッ♪」


 俺と紫が暫くして口喧嘩を終えると、慧音はスキマの前に立つ。その際、俺へと頭を下げてきた。


慧音「雪さん。ありがとうございました。もし向こうで会えたら、その時はお礼をさせてください」


雪「ああ。向こうでも頑張れよ」


慧音「はい!」


 そして慧音は紫と共にスキマへと消えていった。俺はその姿を、スキマが閉じるまでずっと見送っていた。

 はいどーも、作者の蛸夜鬼です。今回は慧音が登場しました!


 そういえば慧音の妖獣の血って何ですかね? ハクタク? っていうのは聞いた事あるんですが⋯⋯ってかハクタクって何だ。


 さて、次回は宵闇の妖怪を予定しております。「そーなのかー」の方ではありません。まだその状態に至ってない時です。


 それでは今回はこの辺で。また今度お会いしましょう!

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