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東方 白狐伝  作者: 蛸夜鬼
肆章 竹取物語の巻
33/124

最終話 三人目の不老不死

 永琳達と別れてから約一週間。竹林に近い場所にあった村や都では、月へと帰ってしまった(実際は違うが)輝夜の噂で持ち切りだった。


 月の使いは雲に乗っていたとか、輝夜を守っていた兵士達は月の使いによって無力化されてしまったとか、色々と間違っている噂が沢山耳に入ってきたな。まあ、噂なんてそんなものだが。


 それと輝夜は月に帰る事を告げた日に帝に不老不死の秘薬⋯⋯恐らくだが、蓬莱の薬を献上したらしい。


 しかし帝は薬を飲むことをせず、兵士達に富士の山で燃やすように伝えたらしい。


雪「俺が処分しようと思ったが⋯⋯手間が省けたな」


 気掛かりだった事も無くなったし、旅を再開するか。記憶が正しければ歩いていない場所も残り半分だな。旅も折り返し地点についたか。


雪「日本の旅が終わったら⋯⋯海外に出るのも良いな」


 今度紫に言葉の境界を操れないか聞いてみるとしよう。


~白狐放浪中~


雪「⋯⋯迷った」


 旅を再開したはいいが、禄に歩かない内に道に迷った。気分を変えて街道ではなく森の中を歩いてみようと思ったのが悪かったな⋯⋯慣れない事はしない方が良かったか。


 目の前には断崖絶壁が広がり、空を見上げると暗くなってきている。


 しょうがない。今日はここで野宿するか。


雪「⋯⋯ん?」


 そう思った所で上から何かの気配を感じる。見上げると何かが降ってきている。目を凝らしてよく見ると、どうやら人間の様だ。


雪「これで良いか」


 俺は変化の術で近くにあった岩を巨大なクッションに変化させる。それを落下地点に移動させると、ボスンッ! と大きな音を立てて少女を受け止めた。


雪「おい、大丈夫か?」 


少女「ん⋯⋯」


 ふむ、どうやら気絶してるだけの様だな。しかし上から落下してくるとは、何かあったのか? それに⋯⋯


雪「何で蓬莱の薬を持っているんだ?」


─────


少女「う、ん⋯⋯」


雪「起きたか」


少女「⋯⋯えっ!? だ、誰っ!?」


 少女は目を覚まし、俺を見ると飛び起きて距離を開ける。


雪「狐塚 雪だ。なに、お前に何かしようと思ってない。するならお前が気絶している間にやってただろう」


少女「⋯⋯」


 俺の言葉を信じてないのか、少女は未だに警戒を解かない。


 すると少女の腹が大きく鳴った。見ると、少女は顔を赤く染めて俯いている。


雪「干し肉を炙っただけだが⋯⋯食うか?」


少女「⋯⋯うん」


~白狐食事中~


 少女の名前は『藤原(ふじわらの) 妹紅(もこう)』と言った。どうやら輝夜に求婚した貴族の娘だそうだ。


 その貴族はあの蓬莱の珠の枝を持ってきた藤原 不比等らしい。しかし偽物と見破られた上に多額の金を失い、輝夜が月に帰った事を知った貴族は屋敷に閉じ籠もり、家庭は崩壊寸前まで追い込まれた。


 その原因である輝夜に復讐しようと考えた妹紅は、蓬莱の薬を燃やそうと富士の山に向かう兵士達から隙を見て薬を奪った。


 当然、帝の兵士は追ってきた。少女の足より兵士の足の方が速い。あっという間に崖に追い詰められ、その時に足を踏み外して落下したらしい。


雪「復讐するのは勝手だが、その薬はどうするつもりだ」


妹紅「勿論飲むに決まってるでしょ? 飲んで不老不死にでもならなきゃ、一生掛けても見つからないと思ってるから」


 そう言うや否や、小瓶の蓋を取って薬を口に運ぼうとする。俺はそれを見ると即座に薬を奪った。


妹紅「あっ!?」


雪「お前⋯⋯これを飲むという事が何なのか分かってるのか?」


妹紅「⋯⋯分かってるよ。不老不死になるんでしょ?」


 やっぱりか⋯⋯俺は小瓶を置くと妹紅に近づき


妹紅「ウッ!?」


 顔を軽めに殴った。妹紅はその場に倒れ、起き上がると頬を押さえて涙目で睨む。


妹紅「な、何するの!?」


雪「⋯⋯不老不死になるのは良いものじゃない。今お前が感じている痛みや苦しみが、この先永遠に続く事になるんだぞ?」


妹紅「そのくらい分かってるよ! 私は覚悟を決めて⋯⋯」


雪「なら大切な人を何度も看取る苦痛も耐えられるか!!」


 俺の突然の怒鳴り声に妹紅はビクッと身体を竦める。


雪「この先何十、何百と友人や愛する者を作る度に死を看取る! 同じ不老不死でない限りずっと繰り返す! その苦痛を耐えられるのか!」


妹紅「⋯⋯」


雪「⋯⋯すまない。熱くなった」


 俺は何も喋らない妹紅を横目に近くにあった岩に座り込む。


 ⋯⋯俺の寿命は無限らしい。だが死ぬ事は出来る。生きるのが嫌になったら自害することは出来るだろう。しかし、不老不死は死なない。先程言った覚悟を持たず⋯⋯なってほしくない。


妹紅「⋯⋯それでも、いいよ」


雪「なっ⋯⋯」


妹紅「色んな人を看取る事があっても、かぐや姫に復讐するのは諦めたくない。だから、飲むよ」


雪「⋯⋯分かった」


 これ以上何を言っても無駄だと判断した俺は妹紅に薬を手渡す。それを受け取った妹紅は一気に薬を飲み込んだ。


妹紅「っ! う、うぅ⋯⋯」


雪「おい、大丈夫か!?」


 薬を飲んだ妹紅は胸を押さえて苦しいだす。すると黒かった髪が白く染まっていき、目は燃える様な赤色になる。


 どういう事だ? 月人以外の者が飲むと副作用でも発生するのだろうか。


妹紅「⋯⋯これ、どういう事?」


雪「分からん。薬の副作用か何かだろう」


妹紅「⋯⋯そっか」


 妹紅はそう呟くとスタスタと歩いていく。


雪「おい、どこに行くつもりだ」


妹紅「父上と母上のところ。旅に出るって別れを言ってくる」


雪「そうか⋯⋯俺も行こう」


 そう言って俺も立ち上がる。恐らくだが、姿の変わった妹紅の親は彼女に碌な言葉を掛けないだろうからな⋯⋯。


~白狐移動中~


不比等「出ていけ! 二度とその顔を見せるな!」


妹紅「っ!」


 妹紅の両親が住んでるという屋敷に来ると、彼女は早速自分の屋敷へと入っていく。暫く外で待っていると騒がしくなり、その数分後には妹紅は不比等に叩き出されていた。


雪「大丈夫か?」


妹紅「うん⋯⋯」


 妹紅は俺の手を借りて立ち上がると服についた土を払う。


妹紅「⋯⋯お前は娘じゃないってさ」


雪「ん?」


妹紅「私の姿を見た時、二人とも顔を青ざめて化物とかわめき散らしたんだ」


雪「⋯⋯」


妹紅「二人の為に、こうなったのにね。姿が変わった程度であんな事を言うなんて⋯⋯馬鹿みたい」


 妹紅は喋る度に涙声になっていく。両親に絶縁の言葉を聞かされて、相当ショックなんだろう。


雪「取り敢えずこの場所から離れよう」


妹紅「ん⋯⋯」


──────


妹紅「うっ⋯⋯ひぐっ⋯⋯うぁああああ!」


 フラフラとした足取りの妹紅を支えて都を出ると、妹紅は遂に大声で泣き始めた。


妹紅「何でっ、何で私ばっかりこんな目に遭うの!」


雪「⋯⋯取り敢えず今は泣け。好きなだけな」


妹紅「ひぐっ⋯⋯うわぁあああああ!!」


 妹紅は長い間泣き続けた。泣き止んだ後も暫くボーッとしていたが、スッキリしたのか顔が晴れ晴れとしている。


雪「もう大丈夫か?」


妹紅「うん。何か情けない所見せちゃったね」


 妹紅は可笑しそうにクスクスと笑う。


妹紅「さてと、スッキリしたしそろそろ行こうかな」


雪「待て、そんな服装で行くつもりか?」


 妹紅の服装は女性の着物だ。こんな格好じゃ歩きにくいし、旅に向かないだろう。


雪「ちょっと待ってろ」


 俺はその場から離れると人目に着かない場所へとくる。


雪「紫ー!」


 そして紫を呼ぶと、隣にスキマが開いて紫が顔を出した。


紫「はいはい、何かしら? あの女の子のこと?」


雪「知ってるなら話は早い。妹紅の身長に合う服を持ってきてくれ。出来るだけ動きやすいのをな」


紫「分かったわ。ちょっと待ってて」


 紫はスキマに引っ込み、暫くすると服を持ってくる。サイズも丁度良さそうだ。しかし⋯⋯


雪「何でカッターシャツともんぺなんだ?」


 紫は幽香が着てる様な白いカッターシャツに赤色のもんぺ。更にはサスペンダーまで持ってきた。何故この時代にこんな服が⋯⋯。


紫「もう、持ってきてあげたんだから文句言わないの」


雪「それはそうだが⋯⋯まあいい。ありがとう」


紫「ええ、どういたしまして」


 紫と別れると妹紅の元へ戻る。そして先程の服を渡した。


雪「ほら、これに着替えろ。俺はそっちに行ってるから、着替え終わったら言ってくれ」


妹紅「あ、ありがとう⋯⋯この平べったい紐は何?」


雪「⋯⋯やっぱり問題があったか。ちょっと待て」


 俺は氷で簡単な人形を作る。するとその人形は勝手に動き出し、その場に直立した。


 これは能力の応用で、氷の人形に簡単な意思を持たせたものだ。因みにこれも前世の漫画の記憶から再現した。


雪「着替えはコイツに手伝ってもらってくれ。俺はあっちに行ってるから」


妹紅「わ、分かった」


 俺は少し離れた場所の茂みへと向かう。暫くして妹紅が呼んだので先程の場所へと戻った。


雪「おお、結構似合ってるじゃないか」


妹紅「そ、そうかな?」


雪「ああ。そうだ、これは餞別だ」


 俺は少しの金を投げ渡す。金額的には節約すれば一ヶ月は過ごせる程度だ。


雪「少なくなったらその時その時で働くなり何なりで貯めろ。自分から動いて何かしらに積極的に関わるのが旅の基本だ」


妹紅「自分から動く⋯⋯うん、分かった! 何から何までありがとう! また会った時にはお礼をさせてね!」


雪「ああ、じゃあな」


 妹紅は手を振って俺と別れた。またどこかで会えるといいな。そう思いながら俺は旅を再開した。

 はいどーも、作者の蛸夜鬼です。投稿が遅くなってすみません。


 さて、今回は肆章最終話にして妹紅が出てきました! 妹紅の髪色のくだりはただの想像ですので悪しからず。


 さて、次章は半獣のあのキャラや宵闇のあのキャラ。更には紫の友人が出てきます! 多分今までの章より少し長くなりますね。


 それでは今回はこの辺で。また次章からもよろしくお願いします!

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