第六話 青娥の誘惑
天狗「ぐっ⋯⋯うぅ⋯⋯」
雪「ったく、やっと終わったか。増援多過ぎだろう」
俺はパンパンと手に付いた埃を払う。周りには多くの天狗が倒れ呻いている。コイツら、一度倒したと思ったらどんどん増援送ってきて大変だったな。一度人妖大戦のトラウマが蘇りそうになった⋯⋯。
天狗「くそ⋯⋯ば、化け物め⋯⋯」
雪「どうとでも言え。お前ら妖怪の治癒力なら数時間で動ける様になる。その間寝てろ」
そして今度こそ娘を探そうとすると突然突風が吹き、上空に黒髪で背中に烏の様な翼を生やした少女が現れた。
少女「あやや~、みんなやられちゃったみたいですね」
雪「何だお前は?」
少女「名前を聞く時は自分からが礼儀じゃないですか?」
雪「⋯⋯それもそうだな。俺は狐塚 雪。白狐という狐だ」
少女「ほうほう、雪さんですか。私は『射命丸 文』、烏天狗です」
烏天狗⋯⋯確か白狼天狗と鞍馬天狗の間くらいか。違いが良く分からないがコイツらよりは強いという事か? だとしたら面倒だな。
雪「で、その烏天狗が何の様だ?」
文「天魔様が貴方に御用らしいですよ?」
雪「天魔?」
すると先程よりも強い強風が吹き抜け、木の葉が舞う。そして次の瞬間には目の前に黒髪の女性が立っていた。背中には文と同じ翼が生えているがコイツの方が大きいし光沢がある。
雪「お前が天魔か」
天魔「ああ⋯⋯」
雪「そうか。では天魔。俺に何の用だ?」
天魔「⋯⋯この惨状は貴様がやったのか?」
雪「そうだな。俺はとある事情でやって来たのに、理由を話しても襲ってきて困って⋯⋯っ!?」
俺が話を終える前に、天魔はなんと風の刃を飛ばしてきた。すぐさま避けたが、頬が少し切れてしまった。
天魔「よくも⋯⋯よくも私の仲間を! 許さんっ!」
怒り狂ってるな⋯⋯この状態で事情を説明しても聞き入れてくれないだろう。しょうがない、頭を冷やしてもらうか。
雪「悪いが時間は掛けられない。早めに終わらせる」
天狗達が本当に娘の事を知らないのであれば⋯⋯危険だ、急いで見つけなければ。
~神子 side~
神子「不老、不死?」
青娥「はい♪ 私達と同じ宗教を信仰して修行を行えば不老不死になる事が出来ます」
同じ宗教⋯⋯この口振りから仏教ではないでしょう。それにこの者が着ている見たこともない服⋯⋯ここから予想出来るのは
神子「貴女はこの国の者ではありませんね? 自分達の宗教を広める為の大陸からの使者、といった所でしょうか」
青娥「あら、鋭いのですね。流石は太子様」
神子「帰りなさい。私が信仰する宗教は仏教です。民の平和の為に仏教を広めているのに、別の宗教など──────」
青娥「ですが、それも難しいのでは?」
神子「っ! そ、それは⋯⋯」
青娥の言葉に、私は答える事が出来なかった。
青娥「仏教を心から信仰する者がいないからこそ、欲深い罪な人間がいるのではないですか?」
青娥の言うとおり、仏教をどんなに広めても私利私欲に駆られて行動する者はいる。確かにこれでは⋯⋯。
神子「しかし、それは貴女の宗教も同じでは?」
青娥「いえ、私達が信仰する宗教⋯⋯道教を信仰し、不老不死、仙人という永い時間を手に入れれば平和にする事もきっと可能ですわ」
神子「⋯⋯人間の寿命では出来ない事を、仙人になり永い時間を利用して未来を治めろ、という事ですか」
青娥はニコニコと笑っているだけで何も言わなかった。
⋯⋯このまま未来の見えない仏教を広めるよりも、少しでも可能性がある道教に⋯⋯青娥に乗せられた気はしなくもないですが。
神子「修行というのは?」
青娥「その気になってくれたのですね! 嬉しいですわ! では早速説明致しますわ。修行と言うのは─────」