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東方 白狐伝  作者: 蛸夜鬼
参章 飛鳥時代の巻
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第二話 大きな誤解

雪「⋯⋯」


神子「⋯⋯あの?」


 ⋯⋯ゴクン。


神子「ゴクン?」


雪「いや、すまない。飯を口に含んでて喋れなかった」


 しかしこの店の飯は美味いな。米は良く炊けているし主菜の味付けも好みだ。今度から贔屓にしよう。


雪「して、話だったか?」


神子「はい。あ、一応名をお聞きしても?」


雪「小塚 雪だ。お前は?」


神子「私は豊聡耳 神子です。周りからは聖徳太子の名で通っています」


雪「ほう⋯⋯」


 この少女が聖徳太子か。まさかこんな場所で出会えるとはな。しかし、聖徳太子って女だったのか?


神子「では雪さん。単刀直入に聞きます。貴方は⋯⋯人間ですか?」


雪「⋯⋯何でそんな事を聞くんだ?」


神子「私は相手の欲と本質を見抜く事が出来ます。しかし貴方の欲を見たとき、明らかに人間が持つ様な欲ではありませんでした」


 欲と本質、か⋯⋯俺の欲といえば永琳達にまた会いたいと旅をしたい程度の筈なんだがな。恐らく能力をまだ扱いきれてないのだろう。現にこの様な話をしているのだから。


雪「逆に質問するが、俺が人間ではなかった場合どうするつもりだ?」


神子「⋯⋯貴方がこの都に害である、もしくは害を及ぼす気があると判断した場合、貴方を倒して追い出します」


 神子は強い意志が籠もった目つきで睨んでくる。


 ⋯⋯まだこんなにも幼いのに、ここまで言い切るとはな。心が優しく、周りの事を第一に考えなければ出ない言葉だろう。神子の様な人間は初めて会ったかもしれないな。


雪「そうか⋯⋯まあ、俺はこの都に害を及ぼす気はない。それに目的は既に達成したからな」


 元々は聖徳太子を一目見るのが目的だったからな。こんな形になったが出会う事が出来た。後は何日か滞在して出発する事にしよう。


神子「⋯⋯」


雪「何だ、信じてないのか?」


神子「当たり前です。それに人ならざる欲を持っている理由が分かりません」


雪「ふむ⋯⋯」


 一体何と説明しようか。そう思った瞬間


女性「キャアアアアアアアア!!」


 と、布を切り裂く様な悲鳴が聞こえた。それと同時に喧噪と⋯⋯妖怪か? 何やら獣の様な声が聞こえる。


神子「これは⋯⋯!?」


 神子は悲鳴を聞くや否やすぐさま店を出て悲鳴が聞こえた場所へと走って行く。


雪「あっ、おい! チッ⋯⋯店員、代金だ! 釣りはいらん!」


店員「は、はい! ありがとうございましたー!」


~白狐移動中~


雪「えーっと、どこだったか⋯⋯」


 俺は急いで店を出たが神子を見失い、悲鳴の場所も分からなくなっていた。なんせ人間の通りが多く都の作りも分からないからな。空を飛んだり屋根の上を走っても良いが人目に付くのは避けたい⋯⋯。


 すると前方から大きな雄叫びが聞こえる。それは都中に響き渡り、人間達はその雄叫びから離れようと一斉に走り出した。


 その中に数名、体中傷だらけの人間がいた。腕に傷を負った者や背中に大きな爪痕が出来ている者もいる。俺はそいつらに近付いて雑嚢から包帯と薬を取り出した。


雪「大丈夫か?」


中年の男「す、すまねえ⋯⋯痛っ⋯⋯!」


雪「こんな大きな傷、一体何があったんだ?」


若者の男「よ、妖怪が出たんだ⋯⋯巨大な牛の頭に蜘蛛の体の(おぞ)ましい姿で⋯⋯思い出すだけでも恐ろしいよ⋯⋯」


 ⋯⋯多分、牛鬼だな。蜘蛛の糸で拘束し、鬼の角で刺し殺す悪質な妖怪だ。そこらの人間ではただ殺されるだけ⋯⋯いや待て。


雪「おい、太子がどこにいるか知っているか?」


若い女性「太子様は、私達を救う為に牛鬼の気を引いて⋯⋯」


 何だと⋯⋯?


雪「安否は?」


若い女性「分からない⋯⋯逃げるのに精一杯で見えなかったから⋯⋯」


 ヤバいぞ⋯⋯ここで神子が死んでみろ。未来が改変されるかもしれない。もしかしたら取り返しのつかない悪影響を及ぼす可能性だってある。


雪「チッ⋯⋯急がないとな。おい、応急処置は終わりだ。早く逃げろ」


中年の男「あ、アンタはどうすんだ!?」


雪「⋯⋯神子一人残して、逃げる訳ないだろう?」


 俺は一応と思って残りの包帯と薬を渡すとコイツらが見ているのも気にせず全速力で走った。


三人「「「⋯⋯速っ」」」


~神子 side~


神子「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」


牛鬼「モ゛ォウウウウ⋯⋯」


神子「万事休す、ですね⋯⋯」


 私の目の前には、牛の頭を持った蜘蛛の妖怪が私を睨み付けていた。


 私の剣、七星剣は先程弾き飛ばされて牛鬼の背後にあって取れません。まあ、牛鬼の攻撃による打ち身によって動けませんが⋯⋯。


牛鬼「ブモォオオオオオ!」


神子「っ!」


 牛鬼が雄叫びを上げ、私にトドメを指そうと突進してくる。私は死への恐怖で眼を閉じた。


神子「⋯⋯?」


 しかし、いくら待っても突進の衝撃はやって来ない。恐る恐る眼を開くと、そこには─────


雪「痛いな⋯⋯変化が解けたじゃないか」


神子「⋯⋯えっ?」


 白髪で真紅の瞳を持つ、狐耳が生えた男性が牛鬼の角を掴んでいました。


~雪 side~


雪「何とか間に合ったか⋯⋯」


 俺は全速力で走り、牛鬼が神子を殺そうとしていた所に何とか割り込んだ。その時の衝撃と痛みで変化が解けたが、この際文句は言ってられない。


牛鬼「モ、モォオオ!?」


 牛鬼は突進を止められた事に驚いたのか、間抜けな声を出している。


雪「うぅおぉおおお!!」


牛鬼「モォオオオオオ!?」


 俺は牛鬼の角を脇に抱えると勢い良く投げ飛ばす。


 チッ、無理に投げたせいで腕が痛い⋯⋯もう二度とあんな重いやつは投げたくないな。


神子「あ、貴方は⋯⋯」


雪「悪いな神子。話は後でだ」


神子「な、何故私の名前を!?」


 驚いている神子をよそに牛鬼へと視線を戻す。その際に巨大な氷柱を作り出しておく。


牛鬼「モ⋯⋯ボバァ!」


 牛鬼は何か嘔吐えづいたと思うと口から糸を吐き出してくる。


雪「遅い」


 俺は目の前に氷の壁を作り出して糸を防ぐ。更に糸が氷の壁に張り付いた瞬間、パキパキと高速で凍り始めた。


 牛鬼はそれを見て糸を切り離すと一度助走を付けてから突進してきた。恐らく氷の壁ごと破壊しようとの魂胆なのだろう。


 だが⋯⋯俺の氷は数トンの衝撃を与えなければならないという子供が考えた様なふざけた氷だ。牛鬼程度の突進では壊れる訳がない。現に氷に衝突した牛鬼の角は見るも無惨に砕け散った。


雪「じゃあな」


 そして待機させておいた氷柱を牛鬼の頭に放った。氷柱は牛鬼の眉間を貫き、その体すら貫通して牛鬼を穿つ。


神子「⋯⋯凄い」


雪「ふう⋯⋯さて、大丈夫か?」


 牛鬼が死んだ事を確認すると神子に近付こうとする。すると頭上から小さな雷が発生し、俺はそれをよける為に後ろに下がる。


 ガチャンッ!


 後ろに下がったと同時に俺に向けられたのは数々の槍。無抵抗を示す為に両手を上げると前方から緑がかった金髪の少女が怒りの表情で歩いてきた。


雪「⋯⋯おい、これは一体どういう事だ?」


屠自子「黙れ妖怪! 太子様をこんな目にしやがって⋯⋯お前たち、コイツを牢屋にぶち込んでおけ! ただ殺すだけじゃ許せないからな!」


 ⋯⋯こりゃあ、俺が神子を傷付けたと勘違いしてるな。大方先程出会った三人が兵士を呼んだのだろう。この娘は神子の部下か?


雪「⋯⋯おい神子、どうにかしてくれ」


屠自子「妖怪風情が太子様の名を軽々しく呼ぶな! さあ太子様、こちらへ」


神子「ま、待ってください屠自子! 彼は────」


 屠自子と呼ばれた少女は神子を連れて去って行く。兵士達を見ると全員が怒りの表情で俺を睨んでいた。


雪「⋯⋯どうしてこうなった」


 そう嘆くと俺は両手を縛られ、兵士に槍を向けられながらどこかに連れてかれた。

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